貴重な栄養源
人間は嫌いではありません
そこにいたのは、鎧を着用し剣を構えた一組の男女だった。
見た限り、彼らは冒険者で、その目的も理解なんとなく理解していた。眼前にいる、人間の街を滅ぼした狂暴で巨大な植物を倒そうとしているのだ。
鋭くて太い大量のツル、肉厚の葉っぱを備えた大きさ20メートルもの巨体を誇る植物だ。はるか昔に誕生し、今日に至るまで暴れ続けていたのだ。
加えて、丸くて黒い頭部を持っている。その頭部には、白くて巨大な単眼と大量に生えている尖った牙、真っ赤な舌が備わっている。
この目で物を見て、牙を使って人間を含む動物をかみ砕き、舌で味わう。土や雨の他、生きた人間も貴重な栄養源だ。栄養になるから食べるのだ。それに人間の肉も決して悪くはない。
だが、どうやら人間のルール上、生きた人間を食うことは許されないらしい。だからこうして、武器を持つ人間に睨まれているのだろう。
2人のうち女が大声で喋り、次いで男も喋る。
「平和を守る」とでも言っているだろう。だが、彼らが何を喋ってようが関係ないし、何よりも騒音は聞くに堪えない。
植物は、彼らを黙らせるために、彼らの頬をツルで力強く叩いた。
強い力で頬を叩かれた人間の口は切れてしまうらしい。
人間は口を使わなければ何も喋ることが出来ないそうだ。だが、その器官はかなり柔らかくて脆い上に痛みに敏感で、少しでも痛むと喋りにくくなるらしい。遠い昔、誰かから聞いた気がする。だがそんなことはどうでもいい。
だが、女はそれでも健気に喋り続けている。植物は、気まぐれにどれほどの傷に耐えられるのか試してみることにした。
頬を抑えて体を屈めている女が顔を上げた直後、唇を切り裂き、舌先を切断してやった。完全に切ってしまうと大量に血液が噴き出て、それがのどに詰まって死ぬらしい。それでは面白くない。攻撃を抑制しなければ。
女はそんな攻撃を受けてうずくまり、男は無防備にもそんな女に駆け寄った。眼前にいる植物のことを無視してまで味方を意識するとは。よほど戦闘力に自信があるようだ。
植物は男の足を引っ張って強引にこちらを向かせ、両頬を貫いてやった。
男の両頬から大量の血が噴き出る。男は手にした武器をその場に落とし、今まで聞いたこともないような大きな悲鳴をあげてのたうちまわった。
黙らせるために攻撃をしたというのに、これでは逆効果だ。だが、女はほとんど喋れずにいる。口の中がかなり痛んでおり、喋ることすらままならないことがよく分かる。
ついでにもう一度ビンタをする。今度は少し強烈なものを。
ようやく押し黙り、女は剣を落とし、自身の口を両手で抑えてうずくまった。両目からは透明な液体を大量に流している。
この液体の名称は・・・そんなことはどうだっていい。
さて、暫く観察していたが、どうやら女の方はもう声を出すことが出来ないようだ。男も先ほどまでの勢いを失い、口から断続的に意味不明な音を出し続けている。
もういいだろう。
植物は、男の頭部を刺だらけの鋭いツルで貫いた。男は途端に音を出さなくなり、脱力した。
では次は女を。そう思った矢先、女は男の死体を見ながらけたたましい声で叫び出した。
よくもまあ叫べるものだ。ずいぶんと怪我をしてるのに大したものである。
もっとも、叫べる理由は脳内から痛みを緩和する物質が大量に分泌されているだけで、怪我自体は治っていないはずだ。人間の治癒力は大したことがない。怪我は長い時間をかけなければ治らない。
だから、暫くしたら口内の激痛にもだえ苦しみ、長期にわたって口から音を出せなくなるだろう。
しかし、この女にはそんな悲惨な未来さえもやってこない。
植物は、大きく開いている女の上顎にツルを引っかけて、そのまま持ち上げた。
上顎と下顎をつないでいる薄くて脆い頬の肉をバリバリと引き裂き、完全に引き離すと、あたりはシンと静まり返った。
植物は、ツルを使って男と女の鎧と衣服を全て千切り取り、その死体を喰らい尽くした。
人間が怪物に勝つというシナリオが好きではないので、どうしても書きたくなりました。