1-8.こんなにおぞましい武器を手にいれるはずがない!
「え?今日貰えるわけじゃないんですか?」
「はい、本当にすみません。そういうシステムになっておりますので...」
仕方ない。今の所持金で色々と調達するしかないか。
アイテムと武器と食料この3つを買いそろえないと。
なるべく錬成は控えた方が良さそうだし、相棒に頼らなくても一人で敵を倒せるようにしたい。
というわけで俺は商店街に足を運んだ。
「薬草10枚で銅貨1枚か...」
ふと思ったが銅貨1枚で買えるものを銀貨1枚で支払ったらお釣りはいくらになるのだろう。
「すみません、細かいのがないので銀貨1枚でお願いします。」
すると銅貨が9枚来た。
なるほど、銀貨1枚には銅貨10枚の価値があるのか。
食料が売ってるとこへ向かう。
適当に回って見たが元いた世界と似たような食材が多かった。
とりあえずサンドイッチらしきものをいくつか買った。
あとは武器屋、いや骨董屋だな。
もしかしてまたいい掘り出し物に出会えるかもしれない。
ドアを開ける。
「よぉ!お帰りぃ!しけた兄ちゃん!」
相変わらずテンションが高いな。
というかしけた兄ちゃんで定着したのか...
「今度はなんだ?新しい武器に浮気かい?」
「あーっと、状況に分けて戦うために他の武器もーってかんじで。」
本当は前みたいにヴァイスが戦える状態じゃなくてもある程度は自分で戦えるようにしたいからだ。
「ならうちにいいもんがあるぜ。」
そう言っておっさんは店の奥から一つの短剣を持ってきた。
「これもレヴナントが造った短剣なんだが鞘から絶対に抜けなくてな。お前さんならできるんじゃねえか?」
どんだけレヴナント関連の武器があるんだか...
俺はその短剣を受け取り鞘から抜いてみる。
「ぐっ...」
ダメだ。抜ける見込みがない。
鞘が剣の部分なんじゃねえのかと言うぐらい頑丈だ。
「んー...あんちゃんでもやっぱダメっぽいか...」
その時、頭の中に一つのワードが浮き出る。
──錬成
いや、それは自分の傷を癒すものじゃないか。
まあ...やってみるか。
「錬成」
と小さく呟くと鞘からするりと蒼白い刃があらわになる。
「こ、こいつ...やりやがった...」
「す、すげぇ...」
周りにいた客が驚いた顔を隠せないでいるのが分かる。
「よし、ならこいつを貰おう。いくらです?」
「...もちろんタダだ。そもそも鞘から出ない短剣なんて売る価値すらないからな!」
俺はまたもやヤバい武器をタダで手にいれてしまった。
別れを告げ再び街に出向く。
...残るは寝るところだ。野宿はごめんだからな。
街のはずれにある宿屋に向かう。
「いらっしゃいませー。こちら一泊一人銀貨1枚となっておりまーす。」
俺は料金を支払い、部屋のドアを開ける。
縦長い部屋でギリギリベッドがはまっており、窓は一つ窓側に机と椅子がポツンと置いてあった。
「ヴァイス、もういいぞ。ここなら大丈夫だ。」
そう言うとヴァイスは可愛らしい女の子の姿に戻る。
こんなやつが俺の世界にいたら絶対人間国宝だ。
「ほら、いっぱい食べな。」
紙袋からサンドイッチを取り出して渡した。
彼女はとても幸せそうな顔でサンドイッチを頬張る。
長い間美味しいものを食べずにいたのだろう。すごい勢いだ。
「そうだ。この短剣を見てよ。これってレヴナントが造った武器らしいけど何か分かることはないか?」
そう言って蒼白い刃の短剣をベッドの上に置く。
「久しぶりに見ました。これは愚者の欲望によって生まれた破滅をもたらす凶剣。」
えげつないワードが息を吐くように出てくるな...
「その名も"愚者の刃"。」
「えっと...ご主人様、それを持って融結と言ってください。」
俺はヴァイスに向かって頷く。
「えっと...融結。」
ん?
愚者の刃が俺の手のなかに吸い込まれていく。
「ちょちょちょっと!まずいって!」
「愚者の刃は持ち主の体に宿り持ち主の意思に応じて技を出せる最凶の短剣です。そこらの武器とは違うんですよ。」
ヴァイスが落ち着いて説明してるのを見るとどうやらこれがレヴナントにとって普通らしい。
「"展開"で装備、"分身"で魔力で複数の刃を作り出し宙に浮かせる、といったかんじです。そこで"傀使"を使用すると自由自在に操ることができます。しかし魔力がつきてしまうと使用不可能になります。」
なるほど、かなりのクセがある武器ってことか。
「ところで、俺に教えた魔法?なんか分からんが錬成''、''融結''ってどういう代物なんだ?」
「えっと、''錬成''は使用者の体の傷を新しい肉体で補い、''融結''はありとあらゆる物質を使用者に取り込む能力です。」
あ、新しい肉体...?物質を取り込む?
その説明を聞いて引っ掛かる点があったが、
以前から気になってたことをきいてみた。
「なあ...ヴァイス。」
「どうかしましたか?ご主人様?」
「俺は君に選ばれた者...っていうもんなんだよな。」
「おっしゃるとおり。ご主人様は私の適正数値の遥か上をいく魔力を持っています。」
「なら俺は自分のことをでっかい魔力を持っただけであとは普通の人間だと思うんだけど、
もしかして元から俺に何か特殊な力があるのか?」
「いえ?元からある特殊な力は特にはこれと言ってありません。」
「んー、そっか...」
「それとご主人様は人間ではありません。」
「それはどういう...」
「ご主人様はレヴナントです。」