1-5.こんなにふしぎなことが起きるはずがない!
「えーっと...ヴァイス、だったけか...君は一体何者なんだ?」
ヴァイスはゆっくり口を開いた。
「私はレヴナントの王よってに作られた...いや改造された。」
「改造された...?」
「私は人間とレヴナントのハーフなの。私もよくわからないんだけど使徒化によってレヴナントになったんじゃなくて、オリジナルのレヴナントだから強大な力を持っているらしく...」
「なるほど...だからその力を利用すべく改造され、呪いの大鎌になったわけか。」
ヴァイスはコクりとうなずく。
「ところで...使徒化ってのは?」
「えっと、モンスターや動物、人は命を失った時、未練や強い邪念があるとごく稀にレヴナントになってしまうの。けど身体に合わなかった時、自我を失ったりそのまま消滅したりします。命を失うだけじゃなく、方法は分からないけどレヴナントによって使徒化されてしまうというケースもあるんです。」
ゾンビ...というわけでもなさそうだな。
そう思いながらベッドのシーツを服代わりに着せる。
もちろん何も見ていない。
「あ、もう1つ聞きたいことがあるんだが。」
「うにゅ?」
「なんで俺は君のことを手にした時生命力が吸われなかっ...」
その時強い地響きとともに壁が崩れ、巨体が倒れこんできた。
「!?なんだこの巨大なゴブリン...?」
巨体の正体は通常のよりも数倍でかいゴブリンだった。
「おや、そこに人間がいたのか。」
崩れた壁の向こう側から声がした。
そこにいたのは黒い鎧を身にまとった騎士だった。
騎士の右手には黒いオーラが流れ巨大なゴブリンの口まで伸びている。
「そこのやつ、何をしているんだ。」
「使徒化だ。見るのは初めてか?」
なんだと...
噂をすればなんとやらっていうのにも程があるってもんだろ...
「前方に反応あり。あれはレヴナントです...」
ヴァイスがそう呟いた。
「一体何が目的だ?」
「ああ、教えてやろう。単純だ、答えはレヴナントの脅威が認知されていないところを叩くだけ、それだけだ。」
それでモンスターを利用するなんて...
「さあもう使徒化が終わった頃合いだ。」
「手始めにそいつらをやれ。」
黒騎士の命令と同じタイミングで巨大なゴブリンは起き上がる。
「...ヴァイス、君は逃げろ。」
「ご主人様!?攻撃力999の私を使って倒せばいいのでは...」
なんかメタいようなこと言うな...
「左手はもう使えない。ましてや昨日の戦いで結構体力を消耗してる。俺は囮になるから街まで逃げて助けを呼んでくれ。」
「...」
ヴァイスは黙りこむ。
「っ、くそっ...」
うつむいたままのヴァイスを抱いて力を振り絞り俺は建物の壁へと逃げ込んだ。
「...ご主人様、”能力“って知ってます?」
なんとか隠れることができた時、ふいにヴァイスが声をかけてきた。
「いきなりどうした、まあ知らないけど...」
「...ご主人様目を閉じて下さい。」
「え?」
「いいから早くして下さい。」
「あ、あぁ分かった。」
5秒ほど経っただろうか、じれったくて目を開けようとした時
ヴァイスの顔がせまっていた。
そのまま俺とヴァイスの唇が重なりあう。
こんなことを戦場でやることではないと分かっていた。
それでも拒むことができない。
やわらかく、優しく、甘く、
そしてなにか不思議な力が沸いてくるかんじがした。
「...ん。」
しばらくしてヴァイスは唇を離す。
気のせいか彼女の顔が少し赤くなってるように見えた。
「...これでご主人様の能力を強化しました。ご主人様、左腕に意識し強く念じ錬成と言ってください。」
言われるがままにそうしてみる。
「え?わっ分かった、こうか?」
「「錬成!」」
!?
「左腕が...治った...」
一瞬のうちに紫の光が腕の形状となり光が消えると元通りに腕が戻っていた。
だが驚いている暇はない。
「何が起こっているのか分からないが今は奴を倒さないと。」
「行くぞっ相棒!」
ヴァイスはコクリとうなずきその身を大鎌へと変えた。
俺は相棒を担ぎ丁度ジャイアントゴブリンの頭と同じ高さまである3階まで階段を上る。
「いちかばちかだが...やってみせる...」
3階に上ったあと窓からジャイアントゴブリンに向かってかかってこいと左手で挑発する。
それに向かって奴は俺にめがけて拳を突きだしてきた。
かかったな。
同じタイミングで俺は跳び奴の腕へと着地する。
50m6.5秒、その足はすぐさま走りだし奴の肩までせまっていた。
この瞬間、この一撃に全てを賭ける...
「うっおぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!」
相棒を手に、思いっきり首から横になぎ払う。
禍々しい刃はいとも容易く肉を裂いて頭を吹っ飛ばした。
巨体は音をたてて崩れ落ちる。
「...ってうおおおおおおおいいいいいいいっっっっっ。」
しまった、着地のことをを考えてなかった。
そのままジャイアントゴブリンの死体に落下した。
「っつー...いってぇ...」
「ごっご主人様!?大丈夫ですか!?」
ヴァイスは元に戻り魔法だろうかよく分からない光で俺の足を治療してくれた。
なんとか痛みは引いてきた。
「悪いなホント、俺はやっぱバカだよ。」
「いえいえ、ここまで勇敢な方は初めてでしたよ。」
「そっそうか...そういやあの黒い騎士は...!?」
俺はすぐさま立ち上がり辺りを見回す。
「私をお探しか。」
!?
声のありかに振り向くと黒い騎士はそこにいた。
「ほう...まさか黒薔薇と一緒だとは...」
黒薔薇?もしかしてヴァイスのことか。
「あんたが誰だか分からないが、ヴァイスを渡すわけにはいかない。」
「ふん、そんなつもりなど1つもない。だがどうやら戦っている様子を見る限り素晴らしい兵器となったものだ。」
俺は2文字に反応し黒騎士を睨む。
「ふざけるなっ!ヴァイスは兵器なんかじゃない俺の相棒だ!」
「ご主人様...」
「いくぞヴァイス、アイツをぶっ倒す。」
しかし、ヴァイスはうつむいたまま姿を変えようとしない。
「え...?」
「戦闘不能か...なら戦う気はない。己の敗北を知り己の愚かさを憎むことだな。」
そう言うと黒い騎士は空間にホールを作りそのまま消えていった。
「逃したか、なあヴァイス具合が悪いの...」
そう言いかけた瞬間、彼女は倒れ込んでしまった。
...マズイ、こんな開けたところだとまだ近くにいるモンスターに狙われる。
俺は彼女を抱き抱え地下の一室へ身を隠すことにした。