4-10.こんなにドキドキする展開があるはずがない!
しかしそこにいたのはヴァイスではなかった。
となると...
「ベルナさん!?何してるんですか!?」
布団から顔を出して正体が判明した。
「何してるって言われてもねぇ。夜這いってかんじかな。」
はだけた姿で誘惑しメロンのようなたわわな胸を背中に押し付けてくる。
「...当たってますけど。」
「ふふ、当ててんのよってね。」
はっきり言ってどうしたらいいか分からなかった。
「...俺はもう寝ます。何もしませんからね。」
そういって布団をくるんで無理やり理性を保ち無視を決めることにした。
だがそんなわけにいかなかった。
「おねえさん、本気になっちゃうよ...」
そういうとなんとこちらにまたがり馬乗りの状態になった。
力は思ったよりも強く無抵抗にも押さえつけられた。
「ヒイロくんも色々溜まってるよね。いいよ、全部私が解放してあげる。」
そのままキスを求めてくる。
欲に負けそうになる。
しかしそれを止めたのは理性と
殺気だった。
なにか違和感を感じた。
すぐに頭突きをいれ、怯んだところを手を振り払いベッドから出る。
「あんた、何が目的だ?」
そして愚者の刃を左手に展開する。
「いたた、本当のこと言っちゃうけど実は私も私もレヴナントハンターでね。森に迷い込んだレヴナント、まあ人間もだけど、そいつらの命を狙ってるだ〜け。毒を君に注入したかったんだよね。それにしても料理に魔力を抑える薬を混ぜただけどなぁ...あの戦いで結構消費してるはずなんだけど。」
彼女は額をさすりながら言う。
「ヴァイスに魔力を回復させてもらったからだ。その言い方だとずっと認識阻害で監視していたのか?」
「もちのろんだよ。でも戦いが終わってからは山小屋で準備してたからなぁ。まさか回復してるとは思わなかったよ。」
そう言うと右手を高くかざす。
「さようなら、レヴナントの少年くん。赤より赤く深く眠りし力を解放せよ、『紅蓮と深淵の炎華』。」
かざされた右手から魔法陣が現れ、やがて直径2mほどの大きさとなりそこから炎の旋風が巻き起こる。
そしてそれは1つの華になり部屋全体を包みこむ。
「...発射ッッ!」
巨大な炎の華が猛獣のごとく放たれ壁ごと燃やし尽くし外へと吹き飛ばされる。
「おや、案外無事なんだねぇ。」
間一髪フードつきのコートを盾にし受け流して攻撃を防いだ。
とは言ってももうコートを使い物にならないほど焼けただれてしまった。
「なるほど、魔法使いか...」
今までは物理的な武器との勝負しかしてなかった。
どうすればいい。
ひたすら俺は考え込む。
さっきの魔法は放たれるまでラグがかなり生じていた。
彼女との距離からするとあと近づくまでにもう一回魔法を撃てるだろう。
むやみに接近はできないということが条件になる。
となると残された手は...
「今度は防御できないよ。紅蓮と深淵の炎華、発射ッッ!」
来たか...!
業火が自分の目の前まで迫ってきたとき俺は即座に右腕を突き出す。
「融結ッッ!」
瞬間炎の華が枯れたようにしぼみ右腕に吸収されていく。
外傷は特にないがあまりにも熱さで右腕が赤く変色し湯気が出て痙攣している。
大ダメージは抑えたもののこれ以上吸収すると右腕が使い物にならなくなるだろう。
だが隙ができた。
俺はこの絶好のチャンスを逃さなかった。
ベルナのとこまで愚者の刃を片手に一直線に向かう。
そして刃を突きつける。
「残念だがここまでだ。ここで足を洗うなら命までは取らない。」
「...勘違いはよくないよ、残念なのは君の方。」
「なに?」
「...認識阻害」
ベルナは霞のように消えていく。いや自分の視界が捉えるのを拒否していく。
「認識阻害で君たちの記憶から私のことを忘れ去られることもできるけどそれは私にとって辛いからやらないでおくよ。」
どこからか声がする。
あたりを斬りつけても感触はない。
既に逃げたのだろうか。
ふと目を閉じ開けた瞬間いつの間に山小屋が消えており日が地平線から出ていた。
「この小屋自体も認識阻害で騙されて見えていたものなのか...」
近くにヴァイスが横たわっていた。
すぐさま俺は駆け寄る。
「ヴァイス、朝だ起きてくれ。」
「は、はぃ...あれ?私達さっきまで...」
ヴァイスは目をこすりながらあたりを見回す。
「実は__」
俺は今まで起こったことを冷静に話した。
「__ってかんじだ。認識阻害、なんだかんだ言って今まで会ってきた中で一番厄介な能力だったよ。」
「確かにそうですね、ただ一つ気になるのが紅蓮と深淵の炎華、あの魔法は限られたごく僅かの者でしか扱えない準最上級魔法の一つです。なぜそれが使えるのか疑問です。」
となると、あいつはかなりの大物だったというわけか...
もしかしてかなり手加減をされていたかもしれない。
「あ、あともう1つ気になることあります。」
「ん?なんだ?」
「どうして最初から夕食に毒とかを仕込まなかったんでしょうかね....?」
「んーなんでだろうな。まあ俺らが無事で良かったよ。」
そうして二人で山を降りる準備をる。
_とある酒場にて
「ヘックション!」
「どうした?ベルナ。ま、誰かが貴様の噂でもしてるんだろ。」
彼_トウヤは酒を片手に話しかける。
「いや〜、元人気者は辛いなぁ。あはは。」
「相変わらずだな。」
カランと音を立ててグラスを置く。
「...なんで料理に毒を入れなかったんだ?貴様はいつもそうやって殺してただろ。」
「え、いや、毒が効かないかな〜なんて。」
ベルナは慌ててそう答えた。
「...鑑定。」
彼はベルナに向かって右手をかざす。
「いい男だったから、か。まあベルナらしいな。」
「も〜トウヤっち〜能力使うの禁止。」
「その呼び方はやめろって言ったはずだ。貴様も最強の能力持ってるんだろ。それ使えば俺の鑑定をかき消せたのに。」
「...あんまり認識阻害は使いたくないかな。あんな思いはもうしたくない。」
ベルナは手を開いたり閉じたりを繰り返す。
「そういやそうだったな、ま、とりあえず頑張ろうって言葉でもかけてやるよ。」
彼はそう言いながら立ち上がり勘定を支払って歩き出す。