4-1.こんなにサバイバル生活が厳しいはずがない!
「ところでヴァイス。これからどこに向かえばいい?」
「そうですね。図書館でついでに調べたのですが、レヴナントの拠点方面を向かうとなるとあの森を越えて山を登らなければなりません。」
結構道のりは長そうだ。
「えっと。多分これ食料もたないよな...ってなると狩りや釣り、採集とかしないといけなくなるよね...?」
買った食料は10日分。だがあまりにも森は大きく山を越えるとなるとかなりキツいだろう。
「...そ、そうですね。ちなみに私はしたことありません...」
「あ、俺もだ。」
前の世界ではずっと引きこもっていたからな。
まあじいちゃんと昔素手で魚を取りに行ったことはあるけど。
「ま、まぁなんとかなるよな...」
「わ、私も魔法で何とかします。」
不安を抱きつつも森へとたどり着いた。
そのときには真っ暗で月だけが明かりの頼りだった。
「さて、ここら辺で野宿するか。」
俺達はいい具合に開けたスペースを見つけ、大鎌で木を一本切り倒しそこに座る。
そして錬成で腕を治し、いい感じの木の板と棒と葉っぱを拾ってくる。
「ご主人様、何をするんですか?」
「これで火を起こすんだよ。今に見ててみな。」
「これをこうして、摩擦の力で、うぉぉぉぉぉぉ!!」
30分が経過した。一向に火は付きそうにない。
「は、はぁ。おかしいな。普通付くはずなんだが...」
どうやら上手くいくのは漫画の世界だけだそうだ。
「...ファイア。」
と小声がすると、ボウッと火が燃え盛る。
「え、今なんか炎系の魔法唱えなかったか...?」
フルフルとヴァイスが首を振るう。
「え、あうん。わーすごーい燃えたー。」
「良かったですね!ご主人様!」
まあいいか...
缶詰を缶切りで開ける
開けた瞬間ほんわかとタレの味がした。
中身は鶏肉のタレじこみ。
二人で分けてスプーンでつまむ。
「案外いけるもんだな!ヴァイス!」
「はひ!おいしいれふー。」
「ってこらこら、食べながら話すなって。ほら口元が汚れてる。はい。」
口元についたタレをハンカチで拭う。
保存食だからあまり美味しいものとは言えないがこういうところで食べるご飯は格別だった。
「ふう...食べた食べた。さて俺は見張りをするから寝てな。」
「え、それでは魔力が回復しませんよ。私がしますから寝ておいて下さい。」
確かに魔力はまだ全部回復しきってない。
しかしかと言って一人の少女に任せるのはできない。
「俺には愚者の刃がある。一斉に出すのは今は無理だけどなんとかなるはずさ。」
「分かりました。ではお先に失礼します。」
ヴァイスはぼろ布を被り寝床についた。
夜の森は熊が出るってじっちゃんが言ってたな。
この世界でいるかは知らないけどヴァイスを守らないと。
あれから何時間経っただろうか。
前の世界で徹夜には慣れてたから眠くはないが緊張感が自分を襲う。
そんな中、
グルルルルル...
恐ろしいほど大きなうなり声がどこかともなく聞こえる
「やっぱ、そういうやつはいるんだな...フラグ回収お疲れ様ってか?」
愚者の刃を展開させ両手で持ち構える。
ガルルルルルッッッッッ!!
後ろか!?
そこにいたのは3mはあるほどの上半身が赤色に染まった熊だった。
赤色の熊...?いやあれは...!!!
赤で塗りたくれた色の正体は血だった。
独特の生臭さがあたりを覆う。
そして近くにはヴァイスが寝ている。
「ヴァイス!起きろ!!」
しかし起きる様子は一向にない。
「くそ、ならこいつで...傀使...!」
青白い刃が腕から放たれる。
だが一つの刃は口で受け止められ粉々に砕かれた。
「なんだ!?あの熊、ただの熊じゃないのか?」
ヴァイスのところから離れさせるように移動し距離をつめる。
「あと3本なら出せるか...展開、分身...!」
ヴァイスが気付かれる前に仕留めないと。
目を狙うべきか、いや魔力の残量的に急所を狙い一撃で決めるべきだ。
俺は夢中で熊に向かって走り目の前で心臓めがけて刃を放つ。
「傀使...!」
グォォォォォォォォ
見事に3本とも胸部に刺さりうめき声をあげる。
よし、効果ありか...!?
しかし、
俺は頭に強い衝撃を受け倒れる。
暴れながら横から殴り付けてきた。
どうやら刺さりが甘かったようだ。
そして至るところを爪で引き裂かれ絶命寸前まで追いやられる。
初めはあまりにもの痛さに声をあげていたが、だんだんと痛覚が麻痺し声は消えていった。
しばらくして落ち着いたかと思うと
こちらの首を噛んでどこかへと行ってしまう。
「ヴァイ...ス...」
引きずられながらその言葉を最後に俺は意識を失ったのだった...