3-2.こんなにドキドキするような逃走劇が始まるわけがない!
2mもある巨体はハンマーを振りかざし襲いかかってくる。
ずいぶん遅い振りかかりだな...
その速さは一般人の俺でも避けれるほどだった。
だが、
「何っ!?」
攻撃する直前、一気に目にも留まらぬ速さへと加速しこちらの腹部めがけて打撃を当ててきた。
強い痛みを感じるとともに投げ出される。
感覚的にあばらだけでけではなく背骨まで折れているようだ。
立ち上がれそうにない。
「くっ...」
「見たか俺の能力「圧縮」。こいつはどんなに重い体でも瞬間的に加速させることができる。」
だが俺にも秘策ある。
「錬成っ...」
俺は痛みの余韻に耐えながらもやっとの思いで立ち上がる。
「ほう、俺の攻撃を耐えたのはお前が初めてだ。だが次はそうはいかない。」
どうやら頭を狙うつもりだ。
あの鎧...流石に愚者の刃は効きそうにないか。
だとするとあの腕か...?
しかし、こんなところで使うわけにはいかない。
公園にいた人間は逃げたように見えたがまだ野次が公園のまわりにいる。
そう考えながら身構えてるとき
「この化け物め、これでも喰らいやがれ!」
なんと野次の中から一人の青年が飛び出し剣で攻撃してきたのだ。
しかしキンッと弾き返され青年は転ぶ。
そして腰を抜かしたのかそのまま逃げれずにいた。
「ほう、そんな物騒なものでマッサージしてくれたのか。」
「ひっひい。」
まずい...このままでは...
すぐさま愚者の刃を展開させ右腕を切り落とす。
「あのやろう、右腕を捨てやがった。」
「馬鹿かあいつ、頭のねじがどっかいったのか...!?」
そんな野次の声はどうでもいい。
間に合ってくれ。頼む...!
「礼として貴様の頭も揉んでやろう。存分に味わうが良い。」
そういって頭を砕こうと振りかざしたとき。
「錬成っ...!」
右腕の代わりとして生成された大蛇の頭はレヴナントめがけて食らい付く。
振りかざされたハンマーはいつの間にか消えていた。
大蛇の口にはレヴナントの腕が咥えられていた。
「俺の圧縮を超えた...だと...!」
そして腕でレヴナントを巻きつけ絞めつける。
「くっ...これほどの力を持つものがなぜ...ぐ...あぁぁぁっ...」
鈍い音を立てて徐々に鎧は引き裂かれレヴナントは断末魔とともに絶命する。
同時に醜い肉片ボトボト落ちる。
その時一部始終を黙って見ていた野次が声を一斉にあげる。
「ひっあいつ化け物仲間だったのかよ!?」
「この化け物め、ここから立ち去れ!!」
中には石を投げつけるものもいた。
まあ。そうなるよな。
そうだよな。俺はレヴナントだもんな...
俺はどうすることもできなかった。
そんな中とある集団が公園に入ってきた。
「対レヴナント組織ヴィーバント、トルバータ支部。貴様を駆除する。陣形を組め!」
「「はい!」」
合図とともに俺は囲まれる。
絶体絶命...そうおもった時。
「時間遅延!!!」
そう叫ばれた瞬間あたりの時間が止まった。いやかすかに動いてるのか...
声の元はヴァイスだった。
「今のうちです。早く逃げましょう。」
「あ、ああ。」
俺達は公園から出て路地裏へと逃げ込んだ。
ヴァイスの唱えた使徒犠術は公園から出てすぐに切れたためこの街から出ることは出来なかった。
「ごめん、ヴァイス...俺...人間を守ろうとして...」
ヴァイスは何も言わずに抱きしめてくれた。
「ご主人さまが正体をバラしてしまうときはこういう時だってある程度予想できてました。」
「ホントにごめん...」
「いいんですよ。貴方は人の命を守ったんです。それで...いいんです。」
「ありがとう...ヴァイス...」
それ以上俺は何も言えなかった。
そして夕方までじっとしていた。
俺達は食事をとって夜に備えた。
「丁度あの日が落ちた時ここから出て街の門まで向かう...でいいか。」
「はい。」
「それとさっき使ったやつってまた使えるか?」
「すみません。あれは借り物の使徒犠術なのでもう使用不可です。」
「...わかった。最後に大鎌に戻れるか?万が一捕まったとき投げて逃がす。」
ヴァイスはコクンと頷き、その身を大鎌に変える。
近くにあったボロ布を巻いて肩に背負う。
さて...行くか。
フードを被り靴をトントンとならし路地裏の外へ出る。
俺たちの逃走劇が今、始まる。