2-3.こんなに綺麗な星があるはずがない!
一つずつ車両を見て回る。
ヴァイスは右手から光を発生させ道を照らしていく。
が、道中特になにかがあるわけではなく俺達はとあるドアの前まで来た。
図書館。
ギイっと音を立てドアを開ける。
そこには信じられない光景が待っていた。
なんと本棚が全て崩れ落ちているのだ。
なにか鋭利なもので切り裂かれたのように。
そして一番奥にはかなりの重度を負い壁によりかかった状態の男性がいた。
壁には血しぶきが飛び散ったあとがある。
「一体何があったんですか?」
そういって駆け寄る。
だが男は過呼吸のせいか、言葉を一つずつ話していく。
「化け物に...やられた...やつは...逃げようと...奥...に...」
彼はそういって倒れ息絶えてしまった。
あまりにもの残酷さに耐え切れなくめまいがし、その場で嘔吐してしまった。
どのくらい経っただろうか。
落ち着いてきたのはいいがこれからどうすればいいのか。
ヴァイスは心配そうに俺の背中をさすっている。
「ヴァイス、あとはもう大丈夫だ。」
ずっとここにいるわけにはいかない。
早くあいつを倒さないと....
図書館の奥にあるドア、そこを抜けると吹き抜けの場所がある。
そのドアに手をかけようとしたとき後ろの方から声がした。
「あれ?君たちは確か...」
振り返ってみるとそこには今朝会った青年、ドルクスがいた。
「なるほどあの声が聞こえたから駆けつけたというわけか...おそらくこの男はレヴナントにやられたのだろう。レヴナントは今どこに...?」
「はい、そのドアの奥です。」
「分かった、危ないから君はここにいてね。」
そしてドルクスは2本の剣を抜き、ドアごと切り裂き突入する。
月が顔を出しあたりを照らし出す。
ドアの向こうには
黒ずんだ身体に腕が4本生えた顔のない化け物がたたずんでいた。
「なるほど...液状態か。列車の下に潜んでいたか、どこかで紛れ込んだか。」
そう言うと同時にドルクスに化け物が襲いかかる。
だが彼は一歩も動かなかった。
そして姿を消す。
その刹那。
化け物が4つに刻まれ無音で床に転がり落ちる。
そして少しずつ空気中へと蒸発していく。
「_ 清華草真流奥義「音斬双二連」。その名の通り、音速を超える速さで双つの刃で相手を切り刻む。それがどんなに硬いものでも液体でもね。」
いつの間に元の位置にドルクスはいた。
この世界にはほぼ主人公とやってることが一緒な人が多いようだ。
「こいつの始末は今やっておくから君たちはもう休んだほうがいい。」
「は、はい。」
ヴァイスを連れてすぐさま自分の部屋へと引きかえす。
確かに剣技は見事だったがああいう連中がヴィーバントにうじゃうじゃいると考えると身の毛がよだつものだ。
あと数メートルで自分の部屋に着くというときにいきなりヴァイスがこう口にした。
「ー1体、レヴナントの反応があります。」
え...?
「丁度この上...つまりこの列車の屋根の部分です。行きますか?」
「当たり前だ。これ以上犠牲者は増やしたくない...!」
ヴァイスはコクリと頷き姿を変える。
そして相棒を片手に自分の部屋の窓からよじ登る。
そこにいたのは今日会った老人が居座っていた。
丁度彼の前に立ったとき彼は目を開けこう言った。
「バレてしまったか...流石じゃの...ヴァイス、そしてその彼氏さんよ。」
「やはりレヴナントだったか。」
そう言いながら彼の首に大鎌を掛ける。
「おっと、お主に人間が殺せるとでも...?そう慌てなさんな。」
大鎌を掛けている手が震えてるのが自分でもよくわかる。
相手は人間の体をしているのだ。
「今のお主にはワシを倒せん。代わりにこいつをやろう。」
片手であの時黒騎士と同じゲートを作り出し姿を消した。
その直後ゲートからさっき見たのと同じレヴナントが現れた。
何歩かうしろに下がったのち自分めがけて向かってくる。
図体が大きい分、こちらの方が有利か...?
ドルクスの戦いを見ていたが情報量が少なかった。
それでも案外いけるかもしれない。
だがそんな甘い考えはすぐに打ち砕かれた。
いつの間にか死角を取られていたのだった。
「上か...!?」
見上げたときにはもう遅かった。
数メートルまで跳んだレヴナントが4つの腕を伸ばしこちらめがけて突き刺そうとしていた。
しかしうろたえることなく右腕を突きだす。
「「愚者の刃...展開...分身...傀使ッッ...!」」
ありったけの魔力を使い数十に渡るほどにの刃を繰り出した。
それらの刃はレヴナントに襲いかかる。
勝ったな...
あれだけの攻撃を受ければ細切れになっているだろう。
が。
そんな攻撃をびくともせずに1本の刃状の腕がこちらの右腕をスルりと切り裂いた。
そして勢い良く血が飛び散る。
え...?
刺さっていたと思っていた愚者の刃はやつを貫通していた。
そう、ノーダメージだったということ。
液状態...今ここでその驚異を知らされたのだった。
残りの腕も襲いかかってくる。
次に狙ってくるのは左腕、いや足...いや首か...!?
そんな思考しか頭に巡らなかった。
その時頭にひとつの声が入ってきた。
(ヒイロ様...こんなところで諦めてしまうのですか...?)
...
返事が思いつかなかった。ただ「絶望」の2文字しか今の自分に当てはまる言葉がなかった。
(...私がお守ります。)
その瞬間、大鎌を手にした左腕が勝手に動いた。
2本の腕の攻撃を受け流し、2本とも薙ぎ払い切り落とす。
だが残った1本の腕が左腕に突き刺さりそのまま切り上げる。
最後の希望までも俺は失った。
大鎌を手にした左腕はボトッとレヴナントの背後に落ちた。
ーそうだ。俺はドルクスみたいな人じゃない。
元はと言えばレベル1...そこらの一般市民となんら変わらないただの人間だ。
流石に調子に乗りすぎたようだ。まだ自分はここに来るべきではなかったのだ。
でも後悔したところで何がある...
俺は本当にここで終わるのか...
ヴァイスとの約束をここで破ってしまうのか...
もうヴァイスと...いられなくなってしまうのか...
「嫌だ。」
こんなところで終わらせてたまるものか。
そして、
俺は一般市民でも、ドルクスみたいな強い人でもない。
ましてや人間でもない。
俺は...
俺は、
「「「レヴナントだッッッッッ!!!!」」」
けたたましい雄叫びとともに止まっていた世界が時とともに動き出す。
時同じく別の腕が心臓めがけて突き刺そうと伸びて襲いかかってくる。
そこだ。
「「錬成ッッッ」」
失った腕の部分が紫色に発光し新たに腕が錬られる。
その腕はただの腕なんかではない。
あの時、ゴブリンを倒したときと同じ大蛇の頭部。
双頭の大蛇はまるで飢えているかの如くレヴナントの体めがけて喰らい尽くそうとする。
10mはあるだろうか、逆に死角をとり喰らい付く。
無惨にも喰い荒らされレヴナントは絶命する。
必死の抵抗なのか刃状の腕でこちらの腕を斬ろうとしていたが金属音がなるばかりで無意味だった。
あまりにも早い出来事だった。
俺は呆然と立ちつくす。
ヴァイスが姿を元に戻し駆け寄ってきた時やっと現状を理解した。
腕も元に戻っていた。
勝ったのか...
ヴァイスは何も言わずに強く抱きしめてきた。
こちらも同じく強く抱きしめ返す。
「ヴァイス。」
「なんでしょうか。」
「星が...綺麗だな。」
「...はい、そうですね。」
満天の星空に照らされ
自然と俺達は唇を重なり合わせる。
俺達の戦いはまだ序章にも過ぎなかった。
To be continue...
液状体(仮称)
その名の通り体が液体でできている。
そのため体を自由自在に変化することができる。
通常の物理攻撃では効かない。
(ドルクスの技が効いたのは後でのお楽しみ)