2-2.こんなに興味を引き立てる機関車があるはずがない!
さて、天気もいいことだし今日中にはこの街から移動しよう。
これ以上ここに長居してもいずれバレるだろう。
それとレヴナントついてもっと知りたいことがあるからだ。
あとスルギってやつからなるべく離れたい。あいつの勘に殺されてたまるものか。
そんなわけで駅に来た。
この世界では汽車ができるほど文明が発達しているそうだ。
そういう系のオタクではないが何かとワクワクする。
「ヴァイス、別にこういうとこでは人間の姿でもいいんじゃないのか?」
新しいところに行くのだからヴァイスが人間の姿でも大丈夫だと思うし、
こんなに禍々しい武器を持ち歩くのは最初はかっこいいと思っていたけど他の人から注目されちゃうし...
それに...
(それに...?)
元のヴァイスの姿がかw...ってああああああああ!?!?
(なんでいきなり叫ぶんですかぁぁぁぁぁ!?!?)
そういや聞こえるんだったよな。
ベベベ別になんでもない、とりあえず早くこの柱の影に隠れて元に戻ってくれ...
しゅぱーーん。
「うみゃぁ!」
昨日買ったベレー帽、子供用のトレンチコート。我ながら良いファッションセンスだ。
...すまん、最後に見たアニメのキャラの服をパクっただけなんだ。許してくれ。
俺たちは手を繋いd....まあ変な意味じゃないけど。
あくまで仲の良い兄と妹感を出して汽車に乗った。
目指すは経済の発展と貧困によって形成された街「ロストル」。
元犯罪者や身寄りのない者たちでも働けるスクラップ工場があるという噂。
もちろん人に害を与えないレヴナントたちが集まって隠れて生活してるという噂もある。
そこでひっそり働いたり日雇いの仕事をこなしたりして稼いでヴァイスを養おうという考えだ。
「お客様はこちらのお部屋をお使いくださいませ。発車まであと1時間ありますので、それまで車内の設備をご堪能ください。」
そう駅員に案内され3号室のドアを開ける。
アンティークな装飾が施された一室、こんなものは現実ではもう見ることができない。吸い込まれるように中へと入っていく。
さっそく椅子に腰掛ける。窓からはまだ駅内しか見えないがここから映る景色はさぞ格別なものなんだろうな...
ヴァイスはというと、
俺よりさらに眼を輝かせ口を半分開けたままぶらぶらしている。
もしレヴナントと人間が共存できる世界になるのなら本当はこういうところに住ませたい。
トイレついでに他の場所を見てくるか。
「ちょっとトイレに行ってくる。しばらく留守を頼む。」
「らじゃーです!」
ドアを開けて廊下へ出たところ...
どんっ
...どうやら誰かとぶつかったみたいだ。
「あ、すみません...こちらの不注意で...」
「おっと、こちらこそすまない。僕の方こそ油断していた。怪我はないかい?」
彼は手を貸してくれた。
「あぁ~...はい、大丈夫、です。」
そういって立ち上がる。
「ならよかった。申し遅れた、僕はドルクス。対レヴナント機関ヴィーバント視察部隊2番隊長 兼 護衛兵士。ようするに君たち乗客のガーディアンだ。良い旅を送れるように命をかけてお守りします。」
と白髪で青の眼鏡をかけた彼は敬礼した。
この世界にはそんなものまであるのか。まあ妥当と言えば妥当だ。
ちょっと、いやかなり厄介だ。
「...俺はヒイロです。よろしくお願いいたします。」
彼は一礼し、通りすぎさっていった。
そのあとは色々と見回った。
バーや食事ができるホールがあったり図書館と珍しい設備が備わっていた。
俺たちがいる客室が汽車の前の部分に位置し、その他の設備は後ろの部分に位置している。
と、ついつい感心しすぎて寄り道しすぎた。
早く戻らねば。
ガチャ
「おかえりなさいですー。」
とてとてとヴァイスがこっちにやってくる。
こうして見ると本物の猫みたいだ。
「ただいま。」
と言って再び椅子に座る。
まだまだ出発には時間があるようだ。
「ところでヴァイス。」
「うにゅ?」
「大事な話、していいかな?」
彼女はうんと頷き、こちらをまじまじと見つめる。
「ヴァイスはこれからどうしていきたい?」
一瞬、間を空けて彼女は言う。
「...どうするもこうするも私はご主人様の忠実なしもべ。ご主人様の側にいれればそれでいいです。」
彼女らしい答えだ。俺が求めている答えではないが。
そう考えながら軽く息を吸い斜め上を見上げ、そしてフッと息をつきながら立ち上がる。
「これから長い付き合いになるかもしれないけど、改めてよろしくな。」
この先、レヴナントから彼女を守っていかなければならない。
覚悟の意味を込めて右手を差し出す。
「はいっ!こちらこそよろしくお願いしますご主人様!」
彼女も立って強い握手をかわす。
小さい手。だからこそ守りたい。
俺は深く心に決めた。
とその時、汽車が大きく揺れだした。
どうやら出発の時間らしい。
リアルの電車だったらいつ発車するかアナウンスが入るためタイミングが分かるが
いきなりだった俺は大きくバランスを崩した。
どしん
「...えっと、ご主人様...?」
ヴァイスも巻き込んでしまい、床にたおれこんでしまった。
俗に言う「押し倒し」ってやつ...なのか...?
いや、そもそもそんな考えてる場合じゃない。
「あっ...悪い...」
「...いえ、おきになさらず...」
「....」
「....」
静かに見つめあう。まるで2人だけの世界だ。
そして眼をつむりゆっくりと...
「お楽しみ中悪いが、せめてドアを閉めてくれないだろうか。お二人さん。」
ふいに声がした方を見るとドアが開いておりそこには立派な白いひげを生やした中年の男性が立っていた。
ドアを最後まで閉めきるの忘れるのは相変わらず変わらない癖だ...
「うわっと、あの、違うんです。ただ転んだだけで...」
「はいはい、言い訳はせんでよろしい。」
とまあ、このように言い訳するの無理なんですけどね。
「嬢ちゃん、面白い彼氏ができたの。それではお互い良い旅を。」
まるでいいものを見れたといわんばかりに得意げな顔で去っていった。
「あ、さっきはごめん。あーちゃんと閉め切ってたら誤解されなかったぁ...」
「私も眼が届いておらず申し訳ないです...しかしご主人様...」
「ん?」
「今の人。生態反応が一般の人とやや違いました。どおりで何1つ感じることができませんでした。」
「まさかレヴナント...なら早く倒さないとまずいんじゃないか...?」
「レヴナントかどうかはまだ分かりません。普通の人間と異なる人種かもしれないですし、透明化のなどの能力かもしれません。ただ、むやみに近づくのは危険かと。」
「そ、そうか...」
ヴァイスが言うにはレヴナントではない別のなにかなのか、あるいはなにかしらの能力を持っているか。
とにもかくにも何事も起こらないことを祈るしかできないってことだ。
気晴らしに窓から見える景色を眺める。
大自然の中を通り砂漠へと移り変わる景色を目の前にしても不安は晴れないばかりだった。
やがて夜を迎えた。
大勢と食べるのは生理的に受け付けないので部屋で夕食をとった。
ヴァイスとくだらない談話を挟みながら。
いつ何が起こってもいいように愚者の刃をいつでも展開できるように右腕は常にドアの方へと向かせた。
そして何事もなく無事に9時を迎え、寝床につく。
布団に入って考え事をして寝落ちするのが俺のルーティンだ。
...この世界に来てもう3日...か。
まだまだ不慣れなことは多いし、先が見えないことも多い。
もしヴァイスがいなかったら今頃俺はどうしていたんだろうか...
イキって強い魔物に凸って犬死にしてたかもしれない。
その前に自分がレヴナントであることに気づかずに人間に溶け込んで生活して、そのせいで他のレヴナントに目をつけられあっけなく倒されていたかもしれない。
ヴァイスには感謝しても感謝しきれない思いでいっぱいだ。
そろそろ眠りにつくか。明日は早いことだし。
と思って眼をつぶったとき、何か生暖かいものが俺の布団に入り込んできた。
そしてそれは俺の腕に抱きつく。
「...ヴァイス...だよな?」
「ぇ...お邪魔でした...でしょうか...」
なにやらいつもより弱々しい声だ。
「あっいや別にいいけど...なんか不安なことでもあった?」
そう言うと彼女はこちらに顔をうずくませてきた。
「...怖いんです。もしヒイロ様がレヴナントだって人間にバレたら...」
まさか俺に対しての心配だったとは...
「だったらなんだって話だろ?バレたとしても皆わかってくれるさ。」
あの時と同じように優しく頭をなでながらそう答える。
「...でも当たり前のことですが人間はレヴナントのことをかなり敵対していて、例え人間に対して戦意がないレヴナントでも正体が分った瞬間、見せしめにして公開処刑するんです。だから...」
そう言って泣き出そうとした時、何も言わずにぎゅっと強く抱きしめる。
差別...か、あっちの世界でもそういったものは長い歴史の中幾度も繰り返されてきた。
弱い立場の発言は民衆には届かない。
だからこそ終わることなく続いてきた。
いや、まてよ。
その瞬間思いもよらぬ考えが脳裏をよぎる。
「もしもの話...もし俺がそのレヴナントの王ってやつを倒し、自分が王になって人との共存を目指すってのはどう...かな...?」
驚いたのかヴァイスは涙を引っ込め目を真ん丸にし、こちらをずっと見つめる。
そしてゆっくりとほほえみこう口にした。
「ヒイロ様らしい考えですね。もちろん私は賛成です。成し遂げるまでずっとお供しますよ。」
彼女の頼もしい言葉に強く頷く。
そして、いつの間にか目があっていた俺達はゆっくりと唇を近づけ...
ーとその時
「「誰かぁぁ...助けt」」
とかすかだが男の断末魔が列車の後ろから聞こえた。
...
「聞こえたかヴァイス?」
「...はい。」
俺達は目でコンタクトをとる。
そして二人でその場所へと向かった。
暗雲は月を覆う。
やっと本編が進みます。
推理路線に変更しそうな感じでちょっと身構えてますが、もしそうなってもいいようにストーリーを組んでいるのでそのときはよろしくお願いいたします(?)