八話 毒と薬
第一王子はきっと、顔面の前に突然顔がドアップになる経験なんてないだろうから、きっと内心どっきどきだと思います。
少し時は遡り、それはココレットの作った匂い袋を検品する場でのことであった。王宮の検品は、品物に毒など危険物が混入していないか、魔法が掛けられているなど不審な点はないか調べられる。
その上で問題ないとされればすぐに持ち主へと返されるのだが、ココレットの作った匂い袋が物議をかもすこととなる。
検品係は魔法使いが務めることが多く、ココレットの作った匂い袋も危険なものではないか、毒物は含まれていないか調べ始められた。通常通りのはずだったが、すぐにココレットの匂い袋の異常性に気付く。
「これは・・・どういうことだ?」
魔法使いは自分の間違いだろうと、一から丁寧に魔法を掛け直し、匂い袋の成分を特定していく。けれど何度行っても、その異常性は変わらない。
「ん?どうしたんだ?」
他の検品係の魔法使いは、難しい顔をして何度も魔法を掛け直す同僚に声をかける。
「いや、うん・・今日は魔法が上手くいかないみたいなんだ。すまないが、一度これを調べてもらえないか?」
問題を自分の魔法のせいだと結論付け、恥を忍んで頼む。もちろん同じ部署なのだから協力するのは当たり前で、快く検品を替わる。
しかし、問題は片付くことはない。
「ん?あれ?ん?・・・これは?・・・おかしいなぁ。」
その異常性は結局検品係が次々に替わっても変わることなく、結局検品係だけではなく他の部署の魔法使いをも巻き込んだ大騒動へと発展していく。
「いやいや、おかしいだろう。これはただの匂い袋だろう?」
「いや、ただの匂い袋じゃないだろう!?」
「あぁ。そうだよ。ただの匂い袋のはずなのに、ただの匂い袋じゃないんだ!」
いつもは検品物を次から次に処理しては、安全性をチェックし、そして各部署へと届けていくのだが、それが次第に滞り始める。部屋の中には荷物の山が次々に積まれていくのだが、それを無視して魔法使いらはとある令嬢の持ってきた”匂い袋”に夢中になっている。
魔法使い達は元々研究職を中心としている者が多く、探究心に火がつくと夢中になってしまうのがたまに傷な所がある。
そして今まさに、その匂い袋は魔法使い達の探究心に火をつけていた。
「こっちの解析終わったぞ!そっちはどうだ?!」
「こっちもあと少しだ!」
「なぁ。これ誰か魔法使い長のルート様には知らせたのか?」
「あ!夢中になって知らせていなかった!大変だ!」
集まっていた魔法使い達は、ルートへの報告がなされていなかったことに顔を青ざめさせて、慌てはじめる。
「ウソだろ!すぐに報告を!」
「誰が行くよ?」
その場はシンとなる。溜まっていく荷物はすでに山が崩れそうなほどになっており、その場には十名ほどの魔法使いが集まっている。
皆がごくりと息を飲む。行きたくないと言うのが皆の本心である。しかし現実とは無情なもの。まだ知らせにすぐに行っていれば間に合ったかもしれない。だが、時すでに遅しである。
「ほう。これはどういうことだ?」
魔法使い長であるルートは、青い魔法陣の光に包まれてその場に現れると、眉間に深くしわを寄せて言った。
「他の部署から苦情が届いたと思えば、検品部署ではない者までここに集まっているとは・・・さぁ、誰か説明してくれ。」
黒く長い髪を、金色の留め具で一つに結び、耳には魔力制御のピアスをはめている。黒い黒曜石のような瞳は魔力の強さを示し、この国一番の魔法使いは誰かと問われれば皆がルートの名を出すだろう。
恐る恐る一人の魔法使いが前に出ると、問題となっている匂い袋をルートへと差出し、現状の報告をしていく。しかし、その報告をルートは信じられない。
「バカな。そんなわけがないだろう?」
魔力を視力へと集めると、成分を魔法で分解し、それらを調べていく。王宮勤めの魔法使いはほとんどがエリートであり、ミスをすることなどめったにない。だが、それでも間違いではないかと、疑ってしまう。
「まさか・・・」
しかし、自分で調べてみても結果は変わらない。
「これを・・・これを持ってきた者は何者だ!?」
ルートが声を上げると、検品リストを確認した魔法使いが答えた。
「えっと、男爵家令嬢のココレット・ステフ様です。第二王子殿下の婚約者として、国王陛下、王妃様、第一王子殿下にご挨拶に来たそうです。そしてそのプレゼントだということでしたが。」
「なん・・だと?・・・分かった。私が確認をしてくる。皆は仕事に戻るように!その山のような検品物も、急いで検品をすませて他の部署へと届けるように。」
「はっはい!」
ルートは婚約者である第二王子と令嬢は一緒にいるだろうと、第二王子の居場所を魔力で特定すると、部屋の前へと移動する。第一王子の寝所の扉の前に控える騎士らは、突然ルートが現れた事に驚き剣を構えた様子だったが、その人物が魔法使い長のルートだと見て取ると、構えた剣を鞘に納めた。
「緊急の案件だ。面会を。」
そう告げた時、第二王子の慌てた声が聞こえ、ルートは慌てて扉を開けた。
そこには第一王子の顔を両手でつかみ、その瞳を覗き込んでいる令嬢と、それを止めようと令嬢の肩に手を掛ける第二王子の姿があった。
どういう現状なのか分からずにいたルートであったが、鼻をかすめる匂いに、顔を顰めた。
「この匂いは・・・まさか・・・」
部屋の中にずかずかと入っていくルートは、ココレットとレオナルドを引き離すと、レオナルドの瞳を覗き込み、そしてさらに顔を歪める。
「・・ルート魔法使い長・・・?」
レオナルドが驚きの声を上げると、ルートは静かにレオナルドの顔から手を離した。しかしそうかと思えば、レオナルドをルートは抱きかかえる。
「うわっ・・・ルート魔法使い長?どうしたんだ?」
「第一王子殿下、第二王子殿下、あと・・・ご令嬢。一度この部屋から出て話をしましょう。着いて来て下さい。」
その急いでいるような声に、レオナルドとローワンは頷き、ココレットもそれにならって頷いた。四人は部屋を出ると、魔法使い達が多く勤務する王宮の東側にある塔へと移動し、空き部屋の一室に入った。
ルートはレオナルドをベッドへと寝かせると、数名の魔法使いを呼び出し、第一王子の部屋を封鎖するように伝えると国王と王妃へは魔法の伝書バトを飛ばした。
そしてふむっと息をつくと、レオナルド、ローワン、ココレットと視線を移して指でトントンと眉間を叩くとココレットの顔を覗き込んでじっと見つめた。
「あ・・・あの・・・」
この時、ココレットの頬はほのかに色づく。お気づきだろうか。ココレットには男性に対する免疫などほとんどなく、その上、ルートはレオナルドやローワンとは雰囲気の違う、綺麗系のイケメンであった。美形に弱いココレットはちょこちょこっと移動すると、ローワンの後ろへと隠れた。
ローワンはルートを睨みつけると言った。
「ルート魔法使い長。令嬢に失礼だぞ。」
ルートは頭を恭しげに下げると言った。
「これは失礼いたしました。少しばかりそちらのご令嬢に興味があるもので。」
ココレットはその言葉にぞわりとしたものを感じる。そしてローワンもその言葉に顔を歪ませた。
「・・・まさか・・・そんな趣味が・・・?」
ローワンの問いかけを聞き、ココレットは驚きに目を見開くとローワンの服の裾を思わずぎゅっと握ってしまう。美形に弱いココレットではあるが、そうした趣味の人とは距離を置きたい様子だ。
的外れなローワンの言葉に、ルートは何とも言い難い引きつった笑みを浮かべると首を横に振った。
「そういう意味ではありません。私が興味があるのは、令嬢の知識について、です。」
「知識?」
「ええ。令嬢が第一王子殿下の部屋で何に気付いたのか、まずお聞かせ願いたい。それと、令嬢の持ってこられた匂い袋の作り方についても話を聞けたら幸いです。」
笑顔がこれほどまでに胡散臭く感じたのは、ココレットにとっては初めての経験であった。
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