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六話 歴代最強の聖女

シシリーがお気に入りです。

楽しんで読んでいただけたらとても嬉しいです。

 ココレットは前世でいつも、”聖女様”と呼ばれていた。そして物心つく前からずっと一人だった。暗い場所から明るい場所へと引き上げられ、そして聖女として育てられてきたので、それが当たり前だと思っていた。


 だからこそ、自分の周りの人には、”名前”というものがあることが不思議だった。


 そして”家族”というものも、不思議だった。


 ”聖女様”の周りのモノは全て綺麗に白色で整えられ、穢れなど一つもないそんな場所だった。”聖女様”として大切に大切にされ、それが当たり前だった。


 それがあまりに無色過ぎて、味気なくて、繰り返される毎日に苦しさを得た。聖女としての力が弱まれば、神殿から出て結婚をする娘が多かった。だから自分もいずれはそうなるのだと夢を見た。時折庭に出た時に見かける令嬢達が、恋愛話をしているのを見て、自分もいずれは恋をしてみたいと思った。


 けれど、力は強くなるばかりで、弱まる事もなく、それは神殿から出られないという意味を示していた。


 だから、自分に訪れた突然の死に、安堵したのだ。もし、今度生まれ変われたら、今度は恋する令嬢達のように、あはは、うふふと色恋に花を咲かせてみたいなと。


 そして何の運命か、新たに”ココレット”として生を受けた。


「ココレット。あぁ可愛いココレット。」


「天使みたいに可愛らしいなぁ。」


 毎日のように”名前”を呼ばれ、降り注ぐキス。貧乏男爵家はお金こそなかったが両親はとてもとても愛情深い人だった。最初はたくさん与えられる愛情に、不思議で、これほど胸を温かくする感情は何なのだろうかとドキドキとした。


 ”名前”を呼ばれるとは、これほどに心地の良いものなのかと知った時は、大きな声で泣いた。赤ちゃんだから泣くのは当たり前なのだが。


 そして”家族”というものを得て、幸せと言うものを知った。


 だからこそ、ココレットは前世の夢であった色恋をして、あはは、うふふと令嬢達のように楽しそうに話をしてみたいと願った。そしていずれは、両親のように幸せな”家族”というものを得たいと願うようになった。


 そのチャンスがやっと来たのだ。


 低身長ということで、婚約破棄されてこのままでは色恋など無理なのではないかと思っていたココレットであったが、ここにきて第二王子ローワンの婚約者という、令嬢にとっては夢のような展開がやってきたのだ。


 気合を入れないわけがない。


 そう。気合を入れたのだ。ここまで真面目に回想してきたが、現状から逃避するためにしたのでは決してない。ココレットは鏡に映る自分の姿を見て、涙を浮かべた。


 どんなに頑張ってみても、貧乏令嬢の装いなどたかが知れている。


 リボンとフリルだらけの可愛らしいドレス。しかしよくよく見て見れば、それはよれっとしている所がある。この状態で王城へなど行けるわけがない。


「どうしたら・・いいの。やはり・・なけなしのお金をはたくしか・・・」


 そうココレットが長年地道に貯めていた貯金箱へと手を伸ばそうとした時、男爵家唯一の侍女御年六十歳のシシリーがくわっと目を見開いて部屋に入ってきた。


「おおおおお嬢様ぁぁぁ!」


 そして初めて見るとても紳士的な男性達の手によって、ココレットの部屋にたくさんのドレスや宝石が運び込まれてきたのである。


「おおおお王宮より、ココレットお嬢様にプレゼントだそうでございますぅぅぅぅぅ!わ、私は、し、心臓が、心臓が・・・」


「シシリー!しっかりして!」


 倒れかけるシシリーを抱き留めると、シシリーは目を見開いて声を上げた。


「心臓が高鳴っておりますぅぅぅぅ!」


「止まりそうではなくて何よりよ!」


 そんなコントのようなことをしているうちに、荷物は運び終わり、ココレットはプレゼントと一緒に届けられた手紙を見つめ、ごくりと喉を鳴らした。


『親愛なるココレット嬢。ささやかながらプレゼントを贈らせてもらいました。ぜひ送ったドレスを身に纏った姿を後日見せて下さいね。』


 貧乏男爵令嬢を哀れに思い贈ってくれたのだと、ココレットは瞳いっぱいに涙をためると、プレゼントの数々に向かって手を合わせた。ココレットの両親もすぐに部屋に来ると、そのプレゼントの山に、ココレット同様に手を合わせて拝んだ。


 ココレットがこのように、少しばかりずれた令嬢に育ったのは、ある意味、この男爵家の娘として生まれ、両親に愛情いっぱいに育てられたからであろう。




 その頃、王宮の一室でお気に入りの薔薇の紅茶を入れ、国王とローワンと共に過ごしていた王妃はにこにこと楽しそうに口を開いた。


「ローワンが決意してくれてよかったわ。」


 そんな喜ぶ王妃も恐らくは第一王子の事をローワン同様に思い、この提案をしてきたのだろうと予想しながらローワンは頷いた。


「ええ。彼女ならぴったりです。まぁ、ですが、彼女が成長し私との婚約が嫌だと思った時には手放してあげるつもりですよ。母上もそれは分かって下さい。」


「え?」


 王妃が驚いたように声を出すと、ローワンは畳み掛けるように言った。


「兄上の件があるから了承しましたが、彼女の意思も尊重してあげたいのです。」


 首を傾げる王妃の様子に、母は本当に娘が欲しかったからという理由だけだったのだろうかとローワンはため息をつき、国王の方へと向き直ると言った。


「父上、以前も伝えていますが、私はこれからも兄上を支えていくつもりです。ですから聖女を必ず見つけ出し、兄上を元気に戻してみせます。」


 ローワンの言葉に国王は深く頷きつつも、かつて目にした事のある歴代最強と呼ばれた聖女の事を想いだし目を細める。


 聖女はまるで精霊のように美しい人だった。俗世から隔離された場所で大切に大切に育てられ、その力故に自由などなかった哀れな人。


 力さえなければ、傾国の美女となったであろう。


 ある意味では聖女だからこそ争いの火種となることなくこの国で守れた。聖女と言う立場の盾がなければ、あの時、様々な国から狙われていたであろう。いや、狙われたからこそあの結末を迎えたわけだが。


 国王はもしも歴代最強と言われた聖女と同等の力をもった娘を見つけた場合、どうするべきか思案する。


 眼前にいる息子は、兄を救う事にしか目が向いていない。聖女と分かった娘がどうなるかなどとは考えていないのだろう。


「父上。では、私は兄上の見舞いに行ってきます。失礼します。」


「あぁ。私も後程向かうと伝えておいてくれ。」


「分かりました。」


 部屋から出て行ったローワンから視線を外し息をつくと、横にいる王妃が困ったような表情を浮かべている事に国王は気づいた。


「どうした?」


 王妃は頬に手を当てて、ため息をついた。


「きっとあの子、ちゃんと釣書を見ていないのだわ。」


「ん?どういう意味だ?他にも念のためにココレット嬢について調べた資料などは目を通しているはずだが。」


 国王もココレットの釣書や側近に調べさせた資料などにも目を通したが問題はなかったはずだ。何より、王妃がココレットを気に入っているということだったが。何が問題なのかと首を傾げると、王妃は机に置いていた釣書を手に取り、それを開くと、一か所を指差して言った。


「私はココレットと話をして聞いていたから、最初は驚いたけれど知っていたの。小っちゃくて可愛いから、私は気にしてないけど。でもあの子、気づいていない気がするの。」


「ん?・・・これは・・この外見で・・・・・・ふーむ。うん。気づいていないな。」


 国王は困ったように王妃と顔を見合わせた。


 王妃が指差したのは、年齢の所。十六歳。ローワンと同じ年齢である。


「まぁいつか気づくだろう。」


 国王の言葉に、王妃も頷いた。


「そうね。それでローワンが婚約をやめるとか言っても嫌ですし。」


「うーん。まぁ、しばらく様子を見ようか。」


 そんな会話をしているなど、ローワンは知らない。いつになったら気付くのか、王妃と国王は少しばかりぬけのある息子にため息をついた。


シシリーの心臓には毛が生えていると、作者は思っています。

楽しんで読んでいただけていたら、とても嬉しいです。

評価やブクマ、感想をいただいて、パソコンに向かってガッツポーズしています。本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ココレット本人は恋愛に幸せですが カッコいい王子様のはずのローワンが 客観的には目覚めるかどうかもまだわからない 兄の事しか見ていないというのは、国としては 不安になりますね。 他の王位継…
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