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四十四話 ヴィシアンドルの懺悔

 ココレットはローワンの傷を癒していると、そこへダシャとジバが兵を率いて現れた。


 最初こそ状況が錯綜したものの、ココレットが事の顛末をダシャへと話したことで落ち着く。


 ドラゴニアからの正式な謝罪は後日改めてとなり、ココレットとローワン、ヴィシアンドルは自国へと帰還する。


 ローワンは怪我は治ったとはいえ安静が言い渡されたのであった。


 ココレットも自分の屋敷へと帰ろうと思った時、ヴィシアンドルに引き留められた。


「聖女様。貴方に話をしたいことがあります。どうか来てくれませんか?」


 丁寧にそう告げられ、なんだろうかと思いながらも、ココレットはヴィシアンドルから差し出された手をとった。


 するとその場から転移し、見たことのない場所へと移動する。


「綺麗・・・・」


 どこの森だろうか。美しく木々の中に小さな赤い屋根の家が立つ。


 庭には可愛らしい花が咲き誇り、横には小さな小川が流れている。


 ヴィシアンドルが一歩その小さな家へと歩み寄ると、家から小さな女の子が数人飛び出してきた。


「ヴィアン様!!」


「ヴィアン様!いらっしゃい!」


 ココレットはその子達を見た瞬間、目を見開いた。


 森の中は精霊の力で満ち溢れ、少女達は光を纏っていた。


「変わりはないようですね」


『はい!』


 ヴィシアンドルが何かを伝えると、少女達はココレットにペコリと頭を下げて家の中へと戻っていった。


 ヴィシアンドルは、ココレットへと向き直ると、頭を下げて、そして言った。


「聖女様。私は貴方に謝らなければならないことがあります。貴方から受け取り、売った薬草のお金を私は偽っていました」


 その言葉に、ココレットはやはりそうだったのかと思いながらも、何故、ここに連れてこられたのかも、少女達が一体誰なのかも分からない。


「私は・・ずっと聖女様の事が好きだったのです」


「は?」


 突然の告白に目を丸くしているとヴィシアンドルは言葉を続けた。


「だから、薬草を高値で売り、いずれここで貴方と一緒に暮らせたらと、浅はかにもそう考えて準備をしていたのです」


「え???」


 思いがけない言葉が続き、ココレットは驚く。


「バカでしょう? でもあの時の私には、貴方を国から逃がす力も、財力もなかったから」


 ヴィシアンドルは小さくため息をつき地面を見つめながら言葉を続ける。


「ここは精霊の力の強い土地なので、普通の人は入ってこれないのです。でも、やっと準備が出来た時には、もう貴方は・・・・・・」


 そこでヴィシアンドルは言葉を濁す。


「それからは私の勝手な罪滅ぼしの場所として使っていました。幼い聖女はここで保護し、自分の意思で国に所属するか、それとも聖女の力を隠して生きて行くか選択できるようにしています」


 ココレットは小さな家に視線を移すと、小窓からこちらを心配そうに見ている少女達と目が合う。


 ココレットは小さくため息をついてからヴィシアンドルの頭を優しく撫でた。


「私に最初から教えてくれたらよかったのに」


「貴方は嘘がつけないでしょう?それに、貴方は国を捨てられるような人じゃないから」


 ココレットはクスリと笑った。


「ふふふ。ということは、私を拉致して愛の巣へと閉じ込めようとしていたということかしら?」


「は?」


 ヴィシアンドルは顔をバッとあげると、一歩後ろへ下がって顔を真っ赤にして言った。


「違います!いや、一緒に暮らしたいと思っていたけれど、閉じ込めようとかは、思ってないですよ!」


「ほうほう。若気の至りと言うやつなのね」


「からかわないで下さい。私は真剣に謝罪しているんです。もし貴方がここを気に入ってもらえたなら、ここはお返しします。現金の方がよければ、現金でお返しします」


 その言葉に、ココレットは笑い声をあげると言った。


「ここは、このまま貴方がつかって。それにお金もいいよ。ヴィアン。もう私は聖女様ではないから、貴方が罪悪感を感じることはないの」


 ヴィシアンドルはその言葉に、ぐっと息を積める。


「私はココレット。だから、もう、聖女様に縛られなくていいのよ」


 その言葉に、ヴィシアンドルの瞳から涙がこぼれ落ちた。


 それにココレットは慌てて、ヴィシアンドルに歩み寄る。


「何で泣くの?」


「ごめんなさい。私は、僕は、貴方を・・貴方を守れなかった!」


 ココレットはヴィシアンドルはずっとそんなことを考えていたのかと、ヴィシアンドルをぎゅっと抱き締めた。


「ばかねぇ。貴方のせいではないのに」


 嗚咽を飲み込み、涙を流すヴィシアンドルにココレットは言う。


「もう終わったこと。貴方のせいではないし、私は今、ココレットとして幸せだから」


「・・・・本当に?」


「えぇ。あー、でも告白の返事は申し訳ないけれどお断りします。私にはローワン様がいるから」


 そう言われ、ヴィシアンドルも小さく笑った。


「えぇ。私は、貴方が幸せなら、それでいいんです」


「あら、欲のない男ね?」


 クスクスと二人は笑いあい、そしてその後小さな家へと入ると、聖女の力をもった少女達とごはんを囲んだ。


 そんな食事の席で、ヴィシアンドルに


「薬草の代金よりもたくさんご祝儀は包みますね。なので結婚式、早くしてくださいね」


 と言われて、ココレットは思わず吹き出すように笑ったのであった。



 




 


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