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四十三話 決着


 ザダールはにやりと笑うと、ローワンの突き立ててきた剣を手で握りしめ、血を流しながら声を上げた。


「禁書を破こうが、もう終わりだ!俺は聖女様を手に入れ・・・うぅ・・ぅぅぅぅぅぅぅぅ。」


 呻き声を上げ始めたかと思えば、目が真っ赤に充血し、ザダールの体から黒い影が噴き出した。


 ローワンは距離を取ると、剣を構えるが、黒い影は次第に広がり始め、ローワンはピリリとした刺激臭に手を口で覆った。


「何だ・・これは・・・」


 ヴィシアンドルはローワンの腕を引き、ココレットの傍へとよると、神力によりバリアを張って言った。


「何かは分かりませんが、振れて良さそうなモノでは無いですね。」


 禁書を使い、ザダールの体はぼろぼろになっているのであろう。恐らくは力に飲み込まれ、今は意思があるのかさえ定かではない。


 それでも、ココレットに向かって、ザダールは手を伸ばしていた。


 ココレットは、大きく深呼吸をするとローワンとヴィシアンドルに言った。


「穢れに似ているから、私なら祓えると思うわ。」


 その言葉にローワンとヴィシアンドルは目を丸くする。


 聖女と言うものは万能ではない。怪我は治せても毒は治せない。穢れは祓えても、ここまでどろどろとした影のようなものを祓えるのだろうかと二人は確信がない以上何とも答えられず黙り込んだ。


 ココレットはにっこりとほほ笑みを浮かべた。


「大丈夫。でも、物理的な攻撃は避けられないから、助けてもらえる?」


 黒い影は人の形を作り、ローワンとヴィシアンドルは身構えると頷いた。


 ココレットは、その場に跪き、両手を合わせると祈りを捧げる。


 光を体の中に集めるイメージは、久しぶりだった。


 体の中に光の粒が集まり、そしてそれが体の外へと出ると影を打ち祓っていく。


 ローワンとヴィシアンドルは襲い掛かってくる影を切り捨てながら、ザダールの体が光に包まれていくのを見た。


 光が溢れる。


 眩いその光の渦の中で、ローワンはココレットの体が元の小さな可愛らしい姿に戻っていくのを見る。


 良かったとローワンが思った時であった。ザダールは目をカッと見開き、腰に携えていた剣を引き抜くとココレットに向かって振り下ろそうと迫ってきた。


「だめだめだだめだぁぁっぁぁぁ。お前は俺の物だぁぁっぁあ!!!」


 ローワンはそんなザダールを切り捨てる。


 終わったと、思った。


「ローワン様!!!!」


 ザダールの執着心に染まった瞳がローワンを捕えるとにやりと笑った。


「聖女様は俺の物だ。・・・お前などに、やるものか。」


「っぐっ!?」


 切り捨てられたザダールの体がぐにゃりと曲がり、黒い影が伸びるとローワンの体を貫く。


 腹部に痛みが走ると同時に、光によってザダールの影も打ち消される。


 ザダールの体は光に解けるようにして消えていった。


「ローワン様!?」


 ココレットが駆けより、ローワンはその場に膝をついた。


「ははっ・・・最後に、かっこ悪いなぁ・・・」


 苦笑を浮かべるローワンの腹からは血が溢れでる。


 ココレットは震えながら涙を流し、傷を癒そうとする。そんなココレットの頬に、ローワンは手を添えると言った。


「うん。元のココレットが、俺は・・・好きだな。」


「へっ!?」


 重症の状態で何を言っているのだとココレットが涙を引っ込めて顔を赤らめると、ローワンは言った。


「あ、でも、うん。私はココレットだから好きなだけで、小さな子が好きな訳ではないからね。」


 痛みに眉間にしわを寄せながらもそう呟かれた言葉に、ココレットは何とも言えない表情を浮かべると、傷を癒すのに専念する。


 ヴィシアンドルはそんなローワンの姿を見て、しゃがむとにっこりとほほ笑みを浮かべた。


「ボロボロの状態で、なんとも情けない告白の仕方ですね。」


「なんだと?」


 ローワンはその言葉にむっとするが、ヴィシアンドルは嬉しそうに笑っている。


「いえ、とても好感がもてるなーと。うん。貴方なら、いいや。」


「何がだ?」


 ローワンは尋ね返そうとするが、ココレットに人差し指で口を塞がれた。


「しばらく大人しくして下さい!重症なんですからね!」


 可愛らしくお願いされて、ローワンは肩をすくめると、腹部の痛みを堪えるように小さく息を吐いた。








読んで下さりありがとうございます!

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[良い点] ローワン… 素直でいいな [一言] 『小さな子が好きな訳ではないからね』 (念を押された?) 了解です
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