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四十二話 聖女様とココレット


 ココレットは静かにザダールを見つめた。


 ザダールと出会ったのは、まだココレットが聖女様として崇められていた頃であった。その時から、ねっとりとした視線を向けられるたびに、ココレットはぞわりと背筋が寒くなったのを覚えている。


 一番最初にその視線を感じたのは、聖女として下町から神殿に引き取られ、聖女として各国の貴賓の前へと姿を見せた時だった。


 下町とはいっても、綺麗な場所ではない。浮浪児の多い地域で、そこでは捨てられた子ども達が一日一日を必死に生きていた。


 毎日、毎日、明日は生きていられるか分からない日々。


 そんなある日、下町に慈善事業に来ていた神官の手によって聖女としての力を見いだされ、神殿へと入る事となった。


 そこでは毎日ご飯を食べられた。


 そこでは毎日お風呂に入れた。


 そこでは毎日夜不安を抱かずに眠ることが出来た。


 それは幸福な事。それを知っているから、外に出られなくても、街に行けなくても、自由に野を駆けまわる事が出来なくても、我慢できた。


 けれど、それでもたまに思い出した。


 空腹だけれど、汚れていたけれど、自分で毎日好きな事をして生きるそんな自由な生活を。


 だからだろう。


 聖女様として崇められ、そして同じ日々が続いていくのが嫌になっていた。


 二度目にザダールに会った時、彼は王子から国王へと変わっていた。その視線は以前よりも執着心を露わにしていた。


 それくらいのことだ。


 ザダールとの思い出など、それくらいのことなのだ。


 そしてもう一つ、思い出と言えるのかは分からないが、ココレットは喉の奥に痛みを感じ、苦しみ、痛みを感じた時、ドラゴニアの毒であることに気付いた。


 食べ物に毒が入れられたのか、それとも水に入れられたのか、はたまた部屋に何か仕掛けられていたのか。


 それは死にゆく聖女様には分からなかった。


 ただ、目の前に死が訪れた時、思ったのだ。


 自分は聖女様としか生きられず、誰も本当の自分など興味がなかったのだと。


 だから来世は、もし来世があるならば自分を見てくれる人と色恋がしてみたいと思った。普通の女の子のように、恋をして、あははうふふと話がしてみたい。


 そう、思った。


 ココレットはザダールを睨みつけるとはっきりとした口調で言った。


「貴方は何故、そこまで聖女様に固執するの?」


 ザダールはその言葉に眉間にしわを寄せると、にやりと口元を歪ませて言った。


「俺に手に入らないものなどない。俺は王だぞ?なのに・・なのに聖女様だけが手に入らなかった!ヴェールガが邪魔をするからだ!だから殺したのだ!生まれ変わって俺の元へと来れるように!さぁ、お前は俺の物だ!こちらへと来い!」


 あまりに自分勝手な言葉に、ココレットは唇を噛む。


 こんな自分勝手な理由で自分は殺されたのだ。


 悔しかった。


 ココレットは拳を握りしめ口を開きかけた時であった。


 黒い自分達を取り囲む影をヴィシアンドルが神力で吹き飛ばし、そしてローワンがザダールが手に持っていた禁書を切り捨てた。


 ザダールは一瞬の出来事に目を見開き、そしてしりもちをつく。


 その首元にローワンは切っ先を向けると言った。


「・・・それ以上、口を開くな。彼女はお前の物ではない。そして、彼女は聖女様ではなくココレットだ。間違えるな。」


 ココレットは、ゆっくり、握りしめていた手を緩めた。


 心臓がトクリと鳴った。


 ーそうだ。私はココレットだ。もう、聖女様ではない。


 ローワンとヴィシアンドルの自分を守るように立つ背中を見つめながら、ココレットは泣きそうになった。




 

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