四十一話 執着心
ローワンは大きく深呼吸を繰り返すと、指の隙間からココレットの姿を覗き見た。
美しい肢体の女性がそこにはおり、一般の男の憧れとしては理想形態と言えるのかもしれない。普通ならば戻って欲しくないと願うのだろうかとローワンは考え、眉間にしわを寄せる。
ー私はココレットに元の姿に戻って欲しい。
自分の胸の内に気づいた時、ローワンはさらに眉間のシワを深くした。
ー私は・・・もしや・・そうした趣向の持ち主なのだろうか?普通男なら、美しい女性に胸をときめかせると言うが私は、元のココレットの方が好きだ。・・うん・・そう。好きなんだ。
顔が熱くなるのをローワンは感じ、羞恥心で死にそうになる。
ローワンは頭を振ると、とにかく今は切り替えようと顔を上げた。
「ココレット。その・・・とりあえず、子ども扱いをしてしまい申し訳なかった。これからは気を付けるから、まずはここから帰ろう。」
その言葉に、ココレットはぱっと顔を明るくした。
「婚約破棄はされないのね!?」
「ん?あぁ。そんなつもりはないけれど・・」
「よかったぁぁ。私、ローワン様に結婚なんて無理だとか言われたらどうしようかと・・はぁ。本当に良かった。」
嬉しそうに頬を赤らめるココレットに、ローワンの心臓はバクバクと音を立てる。
未だかつて味わった事のない感情に、ローワンは胸を押さえて首を傾げる。
そんな二人の様子を見てヴィシアンドルは苦笑を浮かべた時であった。扉の外に気配を感じ、三人は身構えると、取り囲むように影が床から姿を現す。
「これは!?」
ローワンはココレットを背に庇うと、扉が開き、そこにげっそりとやせ細ったドラゴニアの王ザダールの姿があった。
その姿は数刻前に見た時よりも悪化しており、ココレットは目を丸くした。
「お・・おぉぉ・・聖女様・・・やっと・・やっと手に入れた。」
ザダールが手を伸ばすと黒い影がココレットを奪おうとしてくるが、それをヴィシアンドルとローワンが剣で切り捨てた。しかし、地面から次々と黒い影は湧き上がってくる。
「一体何だこれは。」
「これが禁書の力ということですかね・・ですが・・王の様子からして・・命を削られるもののようですね。」
ココレットはその姿を見て、何故それほどまでに自分を求めるのか疑問に思った。この王と会った事があるのは数えても一度か二度、それなのに何故。
「聖女様をこちらへとよこせ!」
王の体は次第に黒い蛇のようなものが体を這い、目は赤黒く変わっていく。
「それは・・それは・・俺の女だぁぁぁぁぁぁ!」
盛り上がるザダール王を、ココレットは冷めた目で見つめた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
最終局面へと入ってきました。
頑張ります!