四話 王子の笑顔
見た目は子ども、頭脳は・・あれ?大人のはずなのにすごくすごくお子ちゃまなヒロインです。どこぞの探偵のように頭脳明晰ではないけれど、能力は高いはず。・・はず!・・です。
ローワンは笑顔でココレットを見つめると言った。
「本当に、協力してくれるかい?」
「はい!私にできる事であれば!」
「では、私の婚約者になってくれるかな?」
「はい!・・・へ?」
つい勢いで返事をしたココレットは、言われた言葉を反芻し、小首をかしげる。言われている意味が分からなくなり、視線が泳ぐ。
「母上は君を気に入っているみたいだし、うん。身分と年齢は、どうにでもなるし。」
「は?え?」
身分は確かに低いが、年齢は同じ年のはずである。ココレットは声を大にしてそう言いたかった。
しかし、混乱している間に、ローワンはココレットの小さな手をぎゅっと握るとこてんとあざとく首を傾げた。
「ダメ?」
「ダメじゃないです。」
即答してしまう美形に弱い自分が憎い。そう、ココレットは思う。しかし、しっかりと理由を聞いておかなければならないとココレットは尋ねた。
「でも、殿下には運命の相手がいるのではないのですか?」
ローワンの表情が真剣な眼差しに代わり、ココレットはごくりと喉を鳴らし、ローワンの言葉を待つ。
「ココレット嬢は秘密を守れるかい?」
一体何を言われるのだろうかと、ココレットは頷いた。そおそも王族から言うなと言われれば、それに従うのは当たり前である。
ローワンはココレットが頷くのを見て、声を潜めて言った。
「運命の相手というのは嘘だ。私は先日の舞踏会の際、聖女らしき人物の痕跡を見つけた。今回令嬢達を集めたのは聖女を見つける為だったんだ。」
「まぁ!そうなのですか!?」
ココレットは成る程と頷きながら、恋敵が現れたり人妻だったりとした愛憎劇ではなかったのだと少しがっかりした。王子がそんな騒動を起こすわけは最初からないのだがココレット的には少し裏切られた気分である。
聖女はきわめて少ない。故に神殿は聖女候補が居ればすぐに招き入れる。現在も神殿には聖女はいるとされているが、何人いるかは極秘事項となっている。
そしてローワンにはどうしても聖女を見つけたい理由があった。
「ココレット嬢。君も第一王子が今病気の為に療養しているのは知っているだろう?」
「え?えぇ。ですが、経過は良好であると・・・」
その言葉にローワンは静かに首を横に振った。
「聖女にも見てもらったが、原因が分からず、現状を維持するので精一杯なんだ。だから、もし聖女がいるならばどうしても見つけたいのだ。」
ココレットはローワンの言葉に、兄の事をそんなに大事に思っているのだと、優しい人なのだと感じた。そして、それと同時に、ふと、嫌な予感が頭をよぎる。
「あ、あの・・・ちなみに、殿下が見つけた聖女の痕跡とは・・・?」
「・・噴水全てが、聖水に変わっていた。現在聖水を作れる聖女はいない。きっとその聖女は歴代最強と呼ばれた聖女と同等の力を宿していると思われる。」
さーっと血の気が引いていくのを、ココレットは感じた。
自分が先日の舞踏会にて、噴水を触ったことを思いだす。昔の修行の賜物で、考え事をしながらでも聖水が作れるようになっていた。というか、考え事をする時には聖水を作るのが癖になっていたのだ。職業病である。
ココレットは顔を引きつらせながら自身の手を見て、視線を泳がせた。
今世でも聖水が作れるとは思わなかったココレットである。そして聖水が作れるという事は、自分は今世でも聖女なのかと、冷や汗が出る。
ココレットは、前世は聖女だった。聖女も別に悪い人生ではなかった。しかし、しかしだ。ココレットは今世も神殿に閉じ込められるのはうんざりだった。今世こそは恋をするのだと、決めたのだ。
ココレットはローワンの手をがしっと掴むと、血走った瞳で鼻息荒く言った。
「私は殿下の本当に婚約者にしていただけるんですか!?」
「ん?突然どうしたの?そう、さっき言ったよね?」
あまりの勢いのよさに、若干ローワンが引き気味でそう言うと、ココレットはにっこりと笑顔を浮かべて言った。
「後からなしとか、ウソだったとかは、ないんですよね?!」
「うん?私はそんなに最低な男に見えるのかな?」
ローワンとしては、男爵令嬢という身分の低い令嬢との婚約や、幼女趣味に見えると言う事は、王位になど興味がないというアピールの一つである。ローワンは王位など求めてはおらず、兄が元気になり、いずれ王位を継ぎ、それを支えていくのが自分の役割であると考えている。
出来るならば兄が結婚をしてから、婚約者を決めたいと考えていたのだが、王妃のあの様子からしてこれ以上婚約者がいないままにするのは難しいだろう。
王妃がココレットを気に入っているのであれば、本人が良ければ問題はない。そうローワンは考えていた。自分の感情など全く加味していない。実の所ローワンは異性を好きになったことがない。故にある意味、恋に恋するココレットと恋というもの事態よく分かっていないローワンはお似合いと言える。
ローワンはにっこりと優しく微笑むと、ココレットの頭を優しく撫でて言った。
「でも、もしココレット嬢が大きくなって好きな人が出来たら、私との婚約を解消してもいいよ。」
一応少女に逃げ道を残しておいてあげようとそう言ったのだが、ココレットはむすっとした表情になり口を開いた。
「わたっ」
「第二王子殿下。お話し中に申し訳ありません。少し時間を頂きたいのですが。」
建物の中から神官が現れ、ローワンに声を掛けた。ココレットは慌ててローワンの後ろへと姿を隠した。ここで見つかってしまえば、神殿へ引きづり込まれると、ココレットは恐怖を抱いていた。
もうあそこへは戻りたくないと必死である。
そんなココレットが後ろに引っ付いてくる様子に、不覚にもローワンはキュンとしていた。男兄弟ばかりで、身近に小さな女の子がいたことなどない。
知らない人に人見知りするのだなと、自分の影に引っ付く姿が、可愛らしく見える。
頬が緩みそうになるが、どうにか堪えるとローワンは神官に断りを入れた。
「すまないが、今は時間が取れない。後程そちらに連絡を入れよう。それでいいか?」
神官は頭を下げ、頷いた。
「いえ、お話し中に申し訳ございませんでした。」
神官が去っていくのを見送って、ココレットはふぅと息をついた。ローワンは、そんなココレットの手をぎゅっと握ると言った。
「これからよろしくね。婚約者殿。」
キラキラと輝くその笑顔に、ココレットはぽーっと頬を赤らめて、小さく頷くのであった。実にちょろい。
読んで下さってありがとうございます。美形にはすこぶる弱いヒロインちゃんです。
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