三十九話 花瓶
ローワンは、ココレットが攫われた事をヴィシアンドルに伝えると、ヴィシアンドルは大きくため息をついてからローワンを睨みつけた。
「王家の警備はザルですか。」
ローワンは眉間にしわを寄せた。
「・・・私もそれは同意見だ。・・だがドラゴニアの禁書というものが、どのようなものなのか情報が少ない。何故ココレットを攫ったのかも・・」
その言葉にヴィシアンドルは大きくため息つくと言った。
「はぁ・・とにかく、助けに行きましょう。その前に一つ確認です。貴方はココレット様を必ず幸せにすると誓えますか?」
「当たり前だろう。私の婚約者だ。」
即答されたその言葉にヴィシアンドルは満足そうに頷くと神殿のステンドグラスを見上げて言った。
「だそうです。システィリーナ様。協力していただけますか?」
ステンドグラスから光が舞い込んだかと思えば、その場に、光を纏った精霊が現れた。その姿を見たローワンと後ろに控えていたロンは目を丸くする。
「まさか・・」
「え・・・」
精霊はシシリーであり、ローワンもロンも驚き、顔を引きつらせる。
シシリーはすっと目を細めると言った。
「お嬢様を幸せにしてくれるなら、その場まで連れて行きましょう。ただ、精霊は本来国同士の事には特に手を出してはいけないとされている。だから、私が手出しできるのはそこまで・・・・けれど・・・お嬢様をもし助けられなければ・・・・それ相応の報いがあると心得てもらいましょう。」
その言葉にローワンは頷き、ヴィシアンドルへと視線を向けた。
「何故精霊が・・ココレットの傍にいたんだ?」
ヴィシアンドルはため息をつくと言った。
「それは、貴方の婚約者様に聞いて下さい。さぁ、助けに行きましょう。」
「・・・あ・・あぁ。」
ローワンの指示の元、ロンに集められた者達はロンと共にドラゴニアのダシャの元へと向かうこととなった。
ココレットを助けに行くのはローワン、ヴィシアンドル。シシリーは今回だけだとし、力を貸してくれることとなった。
あくまでも目的はココレットの奪還。
「ドラゴニアのことは、ドラゴニアに片付けてもらおう。」
「それはそうですね。」
「それでは可愛いココレットお嬢様をよろしくお願いしますね。」
次の瞬間辺りは光に包まれ、次の瞬間、ローワンとヴィシアンドルは薄暗い部屋の中へと転移していた。
その場は暗かったが、よく見て見ると、床に人の姿を模した黒い影が転がっている。
「何だ?・・・何故・・・倒れている?」
「どういうことですかね。」
ローワンとヴィシアンドルがそう呟いた時、隣の部屋からがたりと物音が聞こえ、二人は警戒しながらそちらへと足を向ける。
そして扉をゆっくりと開けると、中からまばゆい光が溢れだし二人は目を瞑った。
「何だ?!」
「これは・・聖なる光!?」
その声に、光が弱まる。
「え?・・ローワン様?それに・・ヴィアン?」
ココレットの声が聞こえたのと同時に、光が弱まる。しかし、二人の目の前に現れたのは、いつもの可愛らしいココレットではなかった。
「え・・・」
「・・・聖女・・様?」
そこには、光を纏った、美しい、すらりとした肢体に長い髪をふわりと揺らす、ココレットの姿があった。
その手は、花瓶を振り上げている。
「それは・・」
「花瓶、どうするつもりです?」
顔を赤らめたココレットは視線を泳がせながら花瓶をおろし、肩をすくめた。
「武器がなかったから・・」
花瓶で殴ろうとしたのかと、勇ましいココレットに二人は何が何だか分からないまま、それでも、ココレットはココレットのままだなと、ため息をついたのであった。
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