三十三話 ヴェールガ王国への帰還
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ヴィシアンドルは自らの神力と精霊の力を借りるとココレットとローワンを神殿の祈りの間へと転送させた。
「・・・ふぅ・・・」
かなりの力を消費した為に、ヴィシアンドルは膝をつき、呼吸をゆっくりと繰り返す。
その様子にココレットは慌てて駆け寄ると、その背をさする。
「大丈夫?」
「・・・はい・・」
「無事に帰ってきたのか・・・ありがとう。助かった。」
ローワンの言葉にヴィシアンドルは立ち上がると首を横に振った。
「いえ。あと・・実の所独断で貴方方を迎えに行ったものですから、私の願いが通じて、帰ってこれた事にしてもらってもいいですか?」
その言葉にココレットもローワンも目を丸くするが、ローワンは大きく息をつくと頷き、言った。
「分かった。とにかく、無事に帰ってきたことを知らせてくる。ヴィシアンドルはココレット共に少し休んでいてくれ。ココレット、ヴィシアンドルを頼めるか?」
神力をほぼ使い切り、今立ち上がっているのが精いっぱいだという事をローワンは悟りココレットにその場を頼む。
ココレットが頷くと、ローワンはにっこりとほほ笑んで言った。
「話が終わったら迎えに来るから。では、行ってくる。」
そう言うと、ローワンはその場を後にし、祈りの間にココレットとヴィシアンドルだけが残る。
ヴィシアンドルはローワンが行ったのを見送ると、その場に倒れ込むようにしりもちをつき、床に大の字に寝転がった。
「ヴィアン。大丈夫?」
「ははっ・・隣国から三人も連れて移動したんだよ。聖女様じゃないんだから、大丈夫な訳ないよね。」
「?・・そ・・そうね。」
「意味分かっていないのに、頷かない。」
「ごめんなさい。」
”聖女様”ならば、精霊の力を借りてどこにでも誰を連れてでも移動に制限などない。”聖女様”が願えば精霊は喜んでその頼みを聞くからだ。
そんな存在は”聖女様”くらいだが、その”聖女様”は精霊を乱用することなどない。だから、精霊が”聖女様”の事を考えて、行動する。
ヴィシアンドルは大きくため息をつくと、深呼吸を繰り返す。
体の中の血液がどくどくと脈打ちながら流れていくのを感じ、呼吸を整えていく。
「・・”聖女様”は・・・よく、ドラゴニアの者を助けようという気になるね・・・」
その言葉にココレットは首を傾げた。
「あら、どうして?そりゃあ目の前で困っている人がいたら、助けるに決まっているわ。」
無条件に優しいその言葉に、ヴィシアンドルは反吐が出る。
「っは・・何でそんな事が言えるのかなぁ・・・」
ヴィシアンドルは優しくない。優しそうに見えるのは、もう二度と大切なものを失わないように力をつけるために必要なことだったからだ。
体をゆっくりと起き上がらせ、ココレットの頬にヴィシアンドルは手を添えると、悲しげに言った。
「あの時のこと・・・分かっているんでしょう?」
じっと真っ直ぐに見つめてくるヴィシアンドルの言葉に、ココレットはうっと言葉を詰まらせると笑顔を顔に張り付けて首を横に振る。
「何のこと?」
「しらばっくれないで・・・あの時、貴方を殺したのは・・・ドラゴニアの毒だ。」
ヴィシアンドルの言葉に、ココレットは瞳を大きく見開くとゆっくりと息を吐き、そして目を細めた。
「ねぇヴィアン。もう、昔の事よ。」
「昔の事じゃない!先日の第一王子の一件も・・・・おそらくは」
「ヴィアン。それは可能性の話でしょう?」
宥めようとするようなその声に、ヴィシアンドルは声を荒げ、いら立ちをあらわにした。
「貴方はいつもそうだ!僕は・・僕は・・もう、二度と・・・・貴方を失うのは嫌なんだ。お願いだから・・お願いだから幸せに結婚して、幸せに暮らして・・普通の女の子と同じように・・笑って生きてほしいんだよ。」
吐き出すような、願うようなその言葉にココレットは自分がこれほどまでにヴィアンを傷つけていたのかと胸が痛くなり、その体をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん・・・ごめんね。」
「謝るくらいなら、勝手に死なないでよ。謝るくらいなら・・・・もう・・・いなくならないで。」
苦しげなその声に、ココレットはぎゅうぎゅうとヴィシアンドルを抱きしめる。
幼い頃のヴィシアンドルは自分の意思とは関係なく神殿へと入れられた。そこには頼る者も甘えられる者もいない。
そんな中で、”聖女様”だけが彼にとっての光だった。
だから、今度こそ、ココレットには幸せになって欲しいと願っている。
自分の元ではなくてもいい。王子の元でもいいのだ。ただ、彼女が笑ってくれるなら、彼女が笑って生きていてくれるなら、そう、ヴィアンは願う。
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