三十二話 ドラゴニアの行方
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抱きしめられた瞬間、竜神の鱗が七色に輝きを発し、そして少しくねくねとうねると、嬉しそうにダシャへとすり寄った。
『可愛いダシャよ。我が愛しい王。』
皆がその姿を呆然と見つめていたが、竜神が王という言葉を発した瞬間にシバ達の顔色が変わる。
ダシャは呼吸を整えると竜神に願った。
「お願いです。どうか、民を貴方の病から救ってほしい。」
竜神は楽しそうに喉の奥をごろごろと鳴らすと頷いた。
『我が王の願いならば叶えよう。では、王都へと行き、すぐに王位を継げ。良いな?ドラゴニアの王はお前だ。』
その言葉に焦ったようにダシャは口を開いた。
「少し待ってください。あの、今ドラゴニアには俺の父王がいます。ですから」
『あぁ、ならば父王を下げさせればよい。あれは、ドラゴニアの血は引いているが、お前という王が生まれ、王位を継げるまでに育った以上には不要だ。』
その言葉に騎士らには動揺が走る。
現在の王も竜神に祝福されて王になったと思っていたからである。
それはダシャも同様であった。
「父は・・竜神様に選ばれたのではないのですか?」
竜神は小首をかしげる。さも当たり前という様子に、ダシャは驚きが隠せない。
『我が王は簡単に生まれるものではない。百年に一度現れればいいほうだ。産まれなかった年は、血族が王位を継ぐようになっている。』
「なる・・・ほど・・・」
そう言う物なのかとダシャが思っていると、シバが一歩前へと進み出て、その場に跪く。
「ダシャ様が王位に就くまでの間、その命を狙う不届き物がいるやもしれません。どうか、王を守る騎士の一端に、俺も入れてはいただけないか。」
その言葉に賛同するように、騎士達は膝をつく。
ダシャはその様子に驚いたが、ふらついた足取りでディが現れ同じように膝をつく。
「どうか・・私も、お守りさせて下さい。我が王は、ダシャ様のみ。永遠の忠誠を誓います。」
竜神は華をふんふんと鳴らすと、ぎろりとディを睨みつける。
『お前は、我が王を傷つける仲間の一旦ではなかったのか?』
その言葉に、ディの肩が震える。
シバ達は目を見開くが、ダシャが素早く声を上げた。
「竜神様!それは俺も分かってたこと。けれどディは、自分の命も顧みず、俺を逃がしてくれた。俺が生きていられるのは、ディがいたからなのです!」
今にも射殺さんばかりの竜神の様子にダシャはそう声を上げるが、未だ竜神の殺気は収まらない。
その時、ふわりとした柔らかな風がその場を駆け抜けていく。
竜神は視線をココレットへと移した。
『何のまねだ。』
ココレットは頭を下げ、そして顔を上げるとにこりと微笑みながら竜神に向かって言った。
「竜神様、人とは心で行動する生き物。ダシャ様にディ様は引かれ、そして純粋に自分の王と見定めたのでしょう。自ら王を選び、命を投げ出せる。そのような忠臣は中々に貴重な存在です。これからダシャ様が王となるにあたって、心から信頼できる忠臣は、必要不可欠にございます。」
真っ直ぐに恐れることなく竜神を見上げるココレット。その姿に皆が見惚れる。
だが、次の一言で皆は別の意味でココレットに驚かされる。
「そして、ここでディを許し、民の病を治すことによって、ダシャ様は竜神様の事をさらに、それはそれは愛しく、大好きになる事でしょう。ダシャ様のお心はもう竜神様の物です。」
勝手に竜神様に捧げられる自分の心。ダシャは頬をわずかに引きつらせた。
そんなダシャの様子には気づかず、竜神はダシャへと尋ねる。
『本当か?お前はそんなことで、我の事を愛しく、大好きにもっとなるか?』
期待の込められた瞳に、ダシャは驚きながらも何度もこくこくと頷いた。
その様子に竜神は嬉しそうに微笑みを浮かべる。
『ならば、その者を許そう。よしよし、ならばさらに祝福をやろう。』
そう言うと、竜神は自らの鱗を自身の爪を使ってはがした。
『我が王の盾と鉾となり、ドラゴニア王国を守護せよ。その心変わらぬ間は我が祝福を身に宿すことを許そう。』
鱗はキラキラとした砂へと変わると、それが騎士とディへと降り注ぐ。
皆が跪く。
「「「「我らがダシャ王に忠誠を!!!!」」」」
竜神は大きく頷くと声を上げた。
『では、我が王を王都へと連れて行く。着いて来い。』
「「「「はっ!!!!」」」」
騎士団とディは馬へと跨り、テントや荷物は置いたまま、その身一つで竜神と共に向かう決意をする。
シバはココレット達へと歩み寄ると、胸に手を当て敬礼をすると言った。
「心より感謝する。この恩は忘れない。」
ローワンは頷くと言った。
「武運を。」
「ありがとう。」
シバは黒馬へと跨ると言った。
「行くぞ!」
「「「「はい!」」」」
竜神はその様子を見ると、ダシャを腕に抱き、そしてクルリとまわるとココレットの鼻へと口づけた。
突然の事にココレットが目を丸くすると、竜神は言った。
『お前にも我が祝福をやろう。ではな。』
そう言い、竜神は騎士団の前に出ると飛んでいく。騎士団はそれに続き、走って行く。
慌ただしくその場から去っていく背を見送りながら、ココレット、ローワン、ヴィシアンドルは安堵するように大きく息をついた。
空を見上げると、キラキラとした光が空から降り注いぐ。
地上へと落ちると、それは大地を潤していく。
「では、私達も国へと帰りましょうか?」
ヴィシアンドルの言葉に、ローワンとココレットも頷いた。
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