三十話 まだ膝の上
読んでいただきありがとうございます。引き続き、膝の上です。
「あ・・あの・・ローワン様・・・この状況は・・」
後ろからローワンはココレットを抱きしめるようにして膝の上へと乗せている。ちらりとココレットの耳に視線がいき、真っ赤になっているのを見てローワンは気をよくすると、ココレットの頭に顎を乗せた。
「ん?さっき、どこかの誰かさんは、神官殿をとても大切そうに抱きしめていたからね。うん。私も抱きしめておこうと思って。」
びくりとココレットの体が震えたのをローワンは感じ、少しばかり心の中でいじわるをしたくなる。
「婚約者には、あんなにも熱烈な抱擁をしたことがないと思うんだがね。」
「い、いや、あれには理由が・・」
「ふ~ん。」
ローワンはココレットのつむじにちゅっとキスをすると、ココレットがぷるぷると震えだす。
小動物のようなその姿に、ローワンは笑うのを堪えていると、ぱっと顔をローワンへと向けたココレットが両腕をばっと広げて、自分からローワンへと抱き着いてきた。
「へ?」
間の抜けた声をだしたローワンはココレットにぎゅうぎゅうと可愛らしく抱き着かれ、思わず顔を赤らめる。
「こ・・ココレット?」
「わ・・私の婚約者は・・ローワン様なので・・!!」
しがみついてくるようなその抱擁は、ローワンの胸をきゅんと高鳴らせるのには十分な威力であり、ローワンは降参とばかりに、優しくココレットを抱きしめ返した。
「はぁ・・・私の婚約者が可愛くて困る・・・もう・・早く大きくなって・・」
呟かれた言葉に、ココレットはびくりとする。
大きくなってという事は、今のココレットではローワンには不釣り合いという事であろうか。そんな事をココレットは考え、瞳に涙が貯まり始める。
「い・・今の私では・・み・・魅力がやはり足りない?」
「え?」
ローワンは涙声になるココレットに慌てて首を振る、ココレットの顎を救って自分の方へと向かせると、涙を優しく指で拭った。
「違う違う。言っただろう?可愛くて困るって・・・ほら、我慢がさ、きかないというかなんというか。」
何となく決まらないセリフだなと、ローワンは自分の言葉に苦笑を浮かべると言った。
「とにかく、魅力がないとかそんなことは思っていないよ。むしろ、魅力がありすぎて困るの。」
「ほ、本当?」
こてんと首を傾げる物だから、可愛すぎる。無意識にこういう事が出来るのは、もはや小悪魔ではないかとローワンが思った時、テントの天幕をガバッと勢いよく開いてヴィシアンドルが戻ってきた。
「あぁ、お邪魔して申し訳ありません。」
ローワンはその言葉に、はっきりと言い返した。
「そう思うなら出て行ってくれないか?」
「そうしたいのはやまやまなんですが、何せ、今は隣国の王子が竜の気持ちを変えられるかどうかの大事な時ですのでね。王子にも危機感を持っていただかなくてはいけません。それとお願いがありまして。」
ヴィシアンドルはココレットの脇腹をひょいと掴んで抱き上げると、にっこりとした笑顔で言った。
「ココレット様には大事な役目を担っていただきたいのです。」
「へ?」
ヴィシアンドルはココレットを下へと下すと、目線を合わせるために自分もしゃがみ、そして真っ直ぐな真剣なまなざしでココレットを見つめると言った。
「竜神というものは、精霊と同様に人の考えの及ばぬ生き物です。なので、貴方のような方がダシャ様の傍にいていただきたい。協力していただけますか?」
その言葉にローワンが口を開いた。
「何故ココレットを?」
ヴィシアンドルは、微笑を消し、ローワンを見定めるような視線を向けると言った。
「理由がお分かりではないですか?」
ローワンはなるほどと苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
すぐに見つかるはずだった、聖女が見つからなかった理由は、目の前にいる最高神官長ヴィシアンドルにあったのだと知った。
そんなローワンの複雑な気持ちを知らず、ココレットは笑顔で頷いた。
「私で良ければ協力するよ。」
その言葉に、ローワンはヴィシアンドルを睨みつけながらあえて名前を呼び捨てた。
「・・・ヴィシアンドル。今後の事まで考えての、行動だな?」
ローワンの言葉に、ヴィシアンドルは微笑を浮かべ神官らしく頭を下げると答えた。
「もちろんでございます。私は、自らの役割を心得ております。」
「ならば、いい。」
ヴィシアンドルとローワンは、共に頷き合うとココレットに視線を向けた。
間の抜けた顔で小首をかしげるココレットの姿を見て、二人は小さくため息をついた。
ココレットさんの知らぬところで男同士心が通じ合った模様です。
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