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三話 無言の圧力

出来るだけ、12時に投稿できるように頑張ります!

 側近のシンに促されてローワンはため息をつきたくなるのをぐっと我慢すると、王妃の部屋の扉をノックした。


「どうぞ。」


 侍女が扉を開け、中に入ったローワンはいつもと同じように白とピンクで統一されたフリルだらけの部屋に若干引きながら、王妃の方へと視線を向けた。


「母上。私にもやらなければならないことがあるので・・・」


 出会って早々に苦言から始まったローワンだが、王妃が膝の上に乗せている小さな令嬢を見て、動きを止めた。一緒に部屋に入ったシンも、ココレットが何者か分からず視線を王妃とローワンとを行ったり来たりしている。


 くりくりとした大きな瞳と、はちみつ色の髪の毛。一瞬妖精かと思うほどの美少女が、何故か王妃の膝の上で口をもぐもぐと動かしている。ローワンを見て、慌てて口の中身を飲み込もうとしたのだろう。口の中の物を詰まらせ、うっと小さく声が漏れた。


 その様子に王妃が慌てて飲み物を手渡している。


 最初こそ王妃に自室へと招かれた事に驚いていたココレットであったが、王妃があまりにも優しく、それでいて楽しそうに自分の話を聞いてくれるものだから、自己紹介だけでなく、恋をしてみたという話まで話題は広がっていた。そんな中での王子の登場に、ココレットは動揺が隠せなかった。


「ココレット。大丈夫?」


 王妃は心配そうにココレットの背中を優しく撫で、ココレットは涙目で頷いた。


「だ、大丈夫です。お、王妃様、一度降りてもよろしいでしょうか。第二王子殿下にご挨拶を・・」


「あら、嫌よ。ココレットは私の膝の上にいなさい。」


 そんなやり取りをしている二人に、驚きのあまり黙っていたローワンはハッとし、口を開いた。


「母上、一体どこから連れてきたのですか!勝手に連れて来たらご両親が心配しているのではないですか!?」


「あら、そんなに怒らないで。とっても可愛らしいでしょう?ココレットと言うの。一人で王宮に来たと言うから大丈夫よ。あぁ、私ずっと娘が欲しかったの。ココレットは理想そのものだわ。」


 さも何の問題もないようにそう言った王妃に、ローワンは額に手を当てながらため息をついた。そしてココレットの方へと視線を向けると申し訳なさそうに言った。


「すまない。どこのご令嬢かは知らないが、母が迷惑をかけた。王宮には、用事があって来たのではないか?」


「え?あ、はい。」


 用事は目の前にいる貴方の運命の人探しの為ですとはココレットは言えず、苦笑を浮かべる。王子がここにいるということは、早々に運命の人が見つかったのだろうと内心思う。


 ココレットはせっかくの出会いの場に参加すらできなかったとがっくりとしたが、頭を王妃に撫でられ、笑みを向けられ、うっとりと表情を緩める。


 恋のお相手を見つけられなかったのは残念だが、王妃のような絶世の美女の膝の上に乗せてもらい、お菓子を食べさせてもらえた事で満足そうなココレットである。実にちょろい。


 王妃はココレットの頭を撫でながら、ローワンの方へと視線を向けて言った。


「それで、貴方のお相手は見つけましたか?」


「・・母上、その話は後程。」


 ココレットはちらりとローワンに視線を向けられ、二人の会話の邪魔になっているのだと気づくと、王妃の膝の上から降りようとした。しかしぎゅっと王妃に抱きしめられ、まるで人形のようである。


 王妃はにっこりとほほ笑みを浮かべると、ローワンに言った。


「その様子だと、お相手見つからなかったのでしょう?なら、この子はどう?ココレット!とっても可愛いわ。私、娘にするならこの子がいいわ。」


 犬猫を欲しがるのと同じくらいのテンションで突然そう告げられた言葉に、ココレットとローワンは目を丸く見開いて固まった。


 ローワンの後ろに控えていたシンは思わず吹き出し、慌てて口を押えている。大変失礼である。


「母上・・」


 呆れた声でそう呟くローワンに、王妃は目を細めると、背筋を正して言った。


「私、何度も言いましたよね。・・・母は、娘が欲しいのです。」


 あまりに冷ややかな声に、ローワンもつられて背筋を正す。おそらくこれまでずっとのらりくらりと婚約者を決めることを避けてきたことを根に持っているのであろう。何度となく行われた忠告を無視し続けたつけが今回ってきたのだ。


「お、王妃様?」


 潤んだ瞳でココレットは王妃を見上げ、王妃はそんなココレットをぎゅっと抱きしめると、そっと膝の上から降ろして言った。


「ココレットも、恋をしたいとさっき言っていたでしょう?ね?とりあえずお試しで。」


 一国の王子をお試しなど出来るわけがない。先ほど会話の中で、恋愛話についテンションが上がって、恋をしてみたいのだと言ってしまった事を、ココレットは今、後悔していた。


 ココレットのしたい恋愛は、あくまでも自分の身の丈に合った恋愛であって、王子など高嶺の花を他の令嬢達と奪い合うなどという、そんなどろどろとしたものではない。


 しかし、瞳を輝かせる王妃の手前、ココレットは何も言えない。実の所、ココレットの最大の弱点は美形に弱いと言う所である。前世でも何だかんだと美形に頼まれれば、血反吐を吐きつつ叶えてしまった。


 まさか今世でも血反吐を吐くことになるのだろうかと、ココレットは遠い目をした。


「さぁ、そうと決まれば、二人でちょっと散歩でもしてらっしゃいな。」


「母上・・・」


 ローワンは王妃に無言の圧力をかけられ、ため息をつくとココレットの前に跪いて言った。


「レディ。一緒に庭を散歩をしに行っていただけますか?」


 一瞬ドキリとしたココレットではあったが、ローワンの視線に、これは小さな子を相手にするようなそんな視線だと気づき、がくりと内心で肩を落とす。


 だがしかし、と、ココレットは気を取り直す。


 本物の王子様と庭を散歩できる機会など、これを逃してしまえば一生ないだろう。それならば良い思い出として一瞬でも疑似恋愛体験しようと心に決める。


「・・・はい。喜んで。」


 にっこりとほほ笑みを浮かべて、ココレットは王子の手を取るとひらひらと笑顔で手を振る王妃と別れ庭へ向かい歩き出した。


 ローワンは歩きながら耳に着けている魔法道具を使い、ココレットの素性を確かめるためにその場から離れたシンからの連絡を待っていた。王妃の部屋に入れたということは、護衛によって素性は調べられ安全だと判断されていると分かってはいたが、念には念を入れる。


 シンからの連絡はすぐに入り、ステフ男爵家の令嬢であることに間違いはない事や現在婚約者がいないことなどを聞いたところで、庭についた。


 明るい昼間の庭は、舞踏会の夜とは違い、太陽の光をさんさんと浴びて花々が輝いており、いきいきとした植物の生命力を感じさせられた。


 噴水の方へと続く道は何故か立ち入り禁止となっておりココレットは首を傾げた。


「この先はどうして行けないのですか?」


「あぁ・・・少し噴水の調子が悪いようで調整中なんだ。」


 先日はどうもなかったのにと、自分が原因の根本だとは気づいていないココレットである。


「そうなのですね。あの、改めてではありますが、私はステフ男爵家のココレットと申します。案内していただきありがとうございます。」


 改めてココレットがそう言うと、ローワンは優しく微笑みを浮かべた。


「私はローワン・フェン・ヴェールガ。母が申し訳なかった。」


 ローワンはココレットの歩幅に合わせゆっくりと歩いてくれるばかりではなく、庭に咲いている花の説明や、花言葉などココレットが退屈しないように話をしてくれた。


 王子様にエスコートされるのはこんな夢心地なのかと、ココレットは王妃の提案に内心感謝するのであった。そしてせっかくの機会だとココレットは今一番話題となっている事について尋ねた。


「あの、殿下の運命の女性は、どんな方なのですか?」


 きっと舞踏会場で皆に紹介したのだろうなと想像していたココレットだったのだが、予想とは違い、ローワンは動きを止めた。


「・・・いや、うん。」


 何とも言えない表情に、ココレットは首を傾げ、そしてハッと思い当たった。こういう時、恋愛話のセオリーは、運命の人には婚約者がすでに別にいた、とか、人妻だった、とかいう、恋敵がいるパターンである。恋愛などした事のないココレットの情報は、小説の中の物がほとんどである。故に、間違った方向へと妄想が加速していく。


 -王子であっても、恋愛はやっぱり一筋縄ではいかないのね。それが、恋ってやつなのね。


 ココレットが瞳を輝かせてそんなことを考えているなどと知らないローワンは、聖女が見つからなかった今、どうやって自分の現状を収束させようかと頭を抱えていた。


 王妃はココレットを進めてきたが、明らかに年齢の差も身分の差もある。身分の差はまぁどうとでもしようがある。そして貴族の社会は年齢差のある結婚など普通ではあるのだが、運命の人を見つけたと言っておきながら、ココレットが自分の婚約者に収まった時、ローワンは間違いなく小さな女の子が好きな王子と思われるのだろう。


「殿下。私、殿下の恋を応援しますわ。私にできる事があれば、何でも協力します!」


 キラキラとした瞳で突然そう言われ、ローワンは良い事を思いついたとばかりににっこりとほほ笑みを浮かべた。



読んで下さって、ありがとうございます。頑張って投稿をしていきたいと思います!少しでも、いいなと思っていただけましたら、評価やブクマ、感想などいただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いいたします!

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