二十九話 膝の上
秋になってきましたね。涼しくて過ごしやすいです。冬が、来ないでほしいです。
一度騎士団の所へと戻る予定であったが、ヴィシアンドルとローワンが来たことで、ディを一緒に運ぶこととなった。その移動中、ココレットは延々と、二人からお小言をもらっていた。
「騎士団の元へと帰ってみれば、ココレットが行方不明になった聞き、どれだけ私が心配したと思っているんだい?」
「そもそも、お二人が居なくなって、王宮は大騒動だったんですよ。」
「もう少し警戒心を持って。」
「それは同意します。」
次第に共闘してココレットを攻めにかかるものだから、ココレットは騎士団に着くころにはげっそりとしていた。
騎士団の所へと着くと同時に、ココレットは騎士達に囲まれ、無事を喜ばれた。
「無事で良かった!」
「本当に・・・どこに行ったのかと。」
騎士団の皆もココレットの事を探していたようで、姿を見つけて大きく安堵の息をついている。
その場にはシバの姿もあるが、少しばかり顔色が悪く、ココレットが尋ねると、シバ、ローワン、ココレット、ヴィシアンドル、ダシャの五名はテントへと場所を移して話をすることとなった。
ローワンは森の異変と、襲撃された事、そして黒く染まった地の砂を塗られた矢で射られた事などを伝えた。傷自体はすぐに癒えたが、一度は昏睡するほどに陥った事を話すと、ダシャの顔色は悪くなった。
ローワンの、ココレットの匂い袋の一件だけは省かれた話を聞き終え、今度はココレットがダシャとディについて説明をした。
話を聞き終えるとシバはすぐにダシャに平伏し、王族であり、そして次期国王になるであろうダシャを瞳を輝かせてみた。
「ご無事で何より。今後は我らがお守りするので、心配なく。」
ダシャは顔を歪ませ、首を横に振った。
「・・・全て俺のせいなのに・・・守られるなんて・・」
その言葉に、シバはにっこりと笑顔を向けるとはっきりとした口調で言った。
「王を守るは臣下の役目。どうか、顔を上げ、しっかりと前を向いていただきたい。」
「けれど・・・」
「そもそも、殿下を殺そうなどとした不届き者達が悪いのだ。・・それはそうと、一つ質問があるのだがいいか?」
シバの視線はゆっくりとヴィシアンドルへと向かう。
「説明がないが、この方は?」
ローワンは少し言いにくそうに、ため息をつくのを堪えながら答えた。
「我が国の、神官ヴィシアンドルだ。我々を探しに来てくれたらしい。」
ヴィシアンドルは頭を下げると、優しげな笑みを携えて言った。
「突然の訪問申し訳ございません。私は神力が強い為病にもかかりにくい。それに一人での移動ならば容易にこなします。ですので、二人が無事か確認をしに来たのです。」
「なる・・ほど。俺はシバと言う。それで状況はどの程度把握を?」
「全て把握しております。精霊はとても噂好きですので。」
その言葉にシバは苦笑を浮かべる。精霊はたくさんの情報を持っている。しかし真実とは言い難いものも混ざっているのだ。だからこそ、真実を掴むためには精霊と信頼関係が出来ている必要がある。つまり、目の前にいる神官は相当力を持っているということ。
「なるほど。だが、神官殿がこの場にいることはありがたい。精霊は竜とも交流があると聞く。我らは知識を持たぬゆえ、竜の怒りを鎮める方法を知らん。何か、知っている事はないか?」
ヴィシアンドルはその言葉に、ダシャへと視線を移すと、横に座る不安そうなその少年の手を優しくとって言った。
「ダシャ様と言いましたね?」
「え?・・・あ、あぁ。」
ヴィシアンドルが微笑むと、女性よりも美しく儚げな印象を受ける。だが、先ほどのローワンとのやり取りを見ていたダシャは騙されない。
気合を入れてヴィシアンドルを見つめ返すと、ふっと、ほころぶような笑みを向けられ、ダシャの顔は微かに赤く染まる。
「怒りを鎮める方法は、恐らくは精霊とさほど変わらないと思います。」
「精霊と?」
ヴィシアンドルはゆっくりと頷くと、ダシャの手を優しく撫でながら言った。
「人とは違う存在は、好きな人を守りたいと願う。けれどそれは人の考えでは及ばない、予想外の事を引き起こします。今回の事も、そうでしょう。」
「確かに。」
素直に頷くダシャに、諭すように、ヴィシアンドルは言葉を続けた。
「ですから、はっきりとその方法は嫌だと伝え、そしてどうしてほしいのかを、はっきりと伝えればいいのです。ただし、それにはコツがあります。」
「コツ?」
ヴィシアンドルは楽しそうに笑い、ダシャの耳元へと口を寄せると小さな声で何かを言った。するとダシャの顔は困惑と、それと羞恥に染まり、視線を泳がせる。
「ほ、本当にか?」
不安そうなダシャにヴィシアンドルは笑顔で頷き、ダシャも諦めたように頷くと同意した。
「さぁでは、竜神様にダシャ様の気持ちを伝える準備をしましょう。シバ様、ダシャ様を湯あみさせ、美しい恰好をさせてあげてください。竜神様に聞きいてれもらえるように。」
そんなことが本当に役に立つのだろうかと疑問に思いながらも、今の所有力な情報は持っていない。故にシバはヴィシアンドルの言葉を取りあえずは信じてみようと席を立った。
「分かった。しばしお待ちいただきたい。殿下、着いて来ていただけますか。」
「あぁ。」
「私も手を貸しましょう。」
「ありがたい。」
三人がその場から出て行き、残されたのはココレットとローワンの二人。
ローワンは静かに横に座っていたココレットの体をひょいと抱き上げると、自分の膝の上へと無言で乗せた。
ココレット、お膝の上です。
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