二十六話 呪いか祝福か
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ダシャの母親は現ドラゴニア王国国王の七番目の側妃であり、ダシャを生んだのちに産後の肥立が悪くなくなってしまったという。
黒目黒髪を持つダシャは王家からも毛嫌いされ、第何番王子という肩書すらも与えられず、静かに北の離宮にて年を重ねていた。ただ監禁されていると言うわけではなく、ダシャはそれなりに自由に、内密に下町に降りて遊んだ事もあった。
ダシャに与えられたのは、彼の世話をする平民の世話係の少年一人だった。ダシャよりも五つ年上の少年はディという名で優しい人だった。ダシャが王宮から遊びに出る度に小言は言うが、それでも一緒に着いて来てくれた。
ただ、彼自身教養がある人ではなかったので、ダシャは読み書きが出来ず、ディとの会話でどうにか言葉を覚えた。
ダシャは頭が良かった故に、たまに離宮に出入りする人々の会話から、自分は忌み嫌われているのだという事、黒が忌避する色だという事、自分が呪われた王子という名で呼ばれている事などを知った。
そして二か月前のある日、ディはダシャに慌てた様子で灰色のローブをかぶせると、腕を強く引き、静かに離宮の隠し通路からダシャを外に出した。
最初こそ外に出られた事を喜んでいたダシャであったが、ディの様子に楽しい旅行と言うわけではない事を悟った。そして、ダシャはディに何があったのか尋ねた。
「ディ。どうしたんだよ。」
明るい口調であえて尋ねたが、ディの顔色は変わらず、馬を調達すると二人でそれに乗ってひたすら道を走った。
「ディ?」
途中で馬を捨て、森の中を歩きながら、それでも黙ったまま自分の手を引くディの優しい手。
ダシャは静かに足を止めると、ディに言った。
「・・・俺一人で行く。ディは、別の方向に行け。」
ダシャは頭がよく、敏かった。故に、ディの様子から自分の今後の扱いが決まり、それが最悪の道となったのだろうということが想像できた。
「ダシャ様。我儘を言わないで下さい。」
「・・俺の処遇が決まったのだろう?我儘を言わせたくないなら、全て話せ。」
ディは顔を歪めると、泣きそうな顔で、ぽつり、ぽつりと言った。
「・・ダシャ様は呪われた王子だと・・聖女がドラゴニアに現れないのは・・ダシャ様のせいだと・・・だからダシャ様を・・・処刑せよと・・・・・・。」
「だから俺を連れて逃げようとしたのか?ふふ・・お前は優しいなぁ。」
笑い声を上げると、ディは悲しげな声をあげた。
「ダシャ様!笑い事ではありません。」
「うん。そうだ。・・・笑い事じゃない。だから、ディ、俺の事は放っておいて、逃げろ。」
「なっ!?」
ディは優しい人だ。ずっと一緒にいながらも、彼が自分を見張る為に傍にいることなど、理解していた。そしていずれ自分を殺すために、命令を待って居るのだという事も、知っていた。
「俺はお前の事が一等大事なんだ。だから、頼む。」
「・・・ダシャ様・・・」
その時であった。遠くから馬の走る音が聞こえはじめ、ディは慌てた様子で俺の手を引いて走り始めた。
「ディ!手を離せ!俺の事は置いて行け!」
「嫌です!嫌です!・・私は・・・ダシャ様にこの命を捧げると既に決めているのです!」
「ディ・・・」
けれど結局は馬に追いつかれ、弓矢で射られる。剣で応戦するも、人数が多ければ二人で倒せる相手ではない。
恐らくこの部隊を率いる隊長の男だろう。顔を覆面で隠し、声を上げた。
「呪われた王子を殺し、我が国に聖女をもたらすのだ!」
大剣が振り下ろされ、あぁここで自分の人生は終わるのかと思った時であった。ディが自分を庇い覆いかぶさったのを感じた。
ダメだと思った。
これではディが死んでしまう。
やめろと思った。
その瞬間、自分の中から黒い何かが吹き出し、そして天が曇ったかと思うと雷鳴と共に大地が竜の文様へと染まっていった。
襲ってきた男達は悲鳴を上げながら逃げていく。
それを見て、一瞬助かったかと思った。だが、違った。
「ダシャ・・さ・・・ま・・・・」
大地は黒々としたもので覆われ、ディの体を飲みこんでいた。そして、ディの体が見る見るうちに痛々しいほどに赤く染まっていく。
「な・・・なんだ・・・これ・・なんだ!?」
自分の体は何ともないのに、ディの体だけが変わっていく。
「あぁ・・・やはり・・貴方がそうだと思いました・・我らがドラゴニアの新王。貴方こそが・・・真の王となる・・・方・・・・・」
ディの言葉の意味が分からずダシャは動揺するが、とにかくディをこの地から引き離さなければならないとどうにか引きずり、安全な場まで運んだ。
それから身をひそめながら、ディの看病を続け、森の中で潜伏していたが、このままだとディは死ぬ。
どうにかして助けなければと思った。そして、そんな時に、温かな光を見つけたのだ。
奇跡だと思った。
これほどまでに美しい光を纏った少女を見た事が無かった。
「そ・・そんな。私そんなに光っているの?」
ココレットはダシャから話を聞いていたのだが、自分が発光していると言う話を聞いて自分の体をきょろきょろと見回した。ダシャはそれに小さく頷いた。
「光っている。綺麗だなと・・・思う。」
ココレットはそう褒められているのは分かっていても、何となく微妙な気持ちを抱いた。
けれどダシャの真っ直ぐな瞳が可愛らしく思えて優しく頭を撫でた。
「ありがとう。」
「・・あの・・・聖女様とはいえ、子ども扱いしないでほしい。」
そう言われ、ココレットは苦笑を浮かべると言った。
「ごめんなさい。つい可愛くて。」
その言葉にダシャは顔を歪めた。
「黒目黒髪だぞ?しかも・・・呪われているのに。」
ココレットはダシャの黒髪をわしゃわしゃと撫でながら言った。
「呪いねぇ・・・それは呪いじゃないわよ。」
「え?」
「多分、祝福よ。貴方から出てきた黒い物というのも、きっと貴方を守ろうとしたのだと思う。」
ココレットは記憶を辿りながら、ドラゴニア王国の歴史について思いだしていた。そしておそらく彼こそが時代の王となる存在なのだろうと悟った。
「貴方はおそらく誰よりも竜神に愛されている。だからきっと、竜神が貴方を守ろうとしたのね。」
「で、でも、病が・・・広がっているのだろう?・・近くの村などを身に行った時、そうした話が聞こえた。おそらくこの病も、俺のせい・・・・」
「あぁ。そうね。たしかに貴方のせいだとも言える。」
ココレットはにっこりとほほ笑むと言った。
「だから早く竜神様に、大丈夫だって、怒らないでって伝えないといけないわね。」
「え?」
ココレットは立ち上がると、青年の息を確かめ、安定しているのを見るとダシャに言った。
「この人を抱えるのは無理だから、まずは騎士団の所へと戻りましょう。大丈夫。私がちゃんと説明するから。」
にっこりとほほ笑み手を差し伸べるココレットに、ダシャは見惚れながら、小さく、頷いた。
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