二十四話 聖女の力
ココレットは優しい子です。
荒い息遣いの少年は、ハァハァとココレットの腕を引っ張りながら息を荒くする。
服装もかなり汚れており、髪や肌は泥にまみれていた。
ナイフを持って脅された以上ついていかざるを得ないのだが、変態だったらどうしようかとココレットの顔色は次第に青ざめていく。
病気には連戦連勝のココレットだが、対人戦となれば一瞬でぷちりと潰されてしまえるほどに弱い。
こんなことになるならば、シシリーが毎朝行っているカンフーなるものを一緒に習うべきであった。シシリーが俊敏に動く姿を思いだし、ふと、あれ?あの動きが出来るならば、掃除や料理も腰を曲げずに俊敏に出来るのではないのかという疑問が浮かぶ。
シシリーに謀られていたのではないかという疑問であるが、ココレットは首を横に振ると今はそんなことはどうでもいいと頭を切り替える。
少年は森の中をずんずんと進んで行くが、結局のところ自分達が行ける範囲は魔法で限られているはず。それならばどうにか逃げ出すチャンスがあるはずだとココレットは気合を入れた。
森の斜面にある小さな岩穴に少年はココレットの腕を引いて入ると、そこで足を止めた。
岩穴の中には小さな松明が焚かれており、そこに人が横たわっているのが見えた。
少年はナイフをしまうと、ココレットの目の前で土下座し、頭を地面にこすり付けながら言った。
「お願いします聖女様。どうか…どうか…兄ちゃんを助けて下さい。」
「え?」
どうして聖女だとばれたのだろうかとココレットが顔を引きつらせると、少年は土下座したままの姿勢で粋を荒くし、そして胸を押さえると苦しそうに呼吸を繰り返す。
その様子に、ココレットは眉間にしわを寄せた。
「ねぇ、顔を上げて。あの…貴方も…病気なの?」
少年は顔をバッとあげると、黒色の瞳でじっとココレットを見つめると、涙を流しながら言った。
「俺の事はいいんです・・・でも、兄ちゃんは・・・俺のせいで。」
何があったのかは分からないが、地面につく手が白くなるほどに握りしめ、苦しそうに唇を噛む姿に、ココレットは取りあえず変態じゃなくて良かったとほっと息をつくと、横になっている青年の方へと歩み寄った。
そして、その姿をよくよく見て、ココレットは眉間にしわを寄せた。
肌が赤黒く爛れはじめ、膿をもち、それが発熱を引き起こす。
肌にゆっくりと触れると、熱く、ねっとりとした感触にココレットは少年の方を見て尋ねた。
「この病は村人の物と一緒ね。でも、村人でもここまで酷い症状はいなかった。どういうことなの?」
少年はぐちょぐちょになった顔を両手で覆うと、嗚咽をこぼしながら言った。
「この病を・・・ばらまいたのは・・・俺なんだ。俺のせいで・・・俺のせいで!」
泣き続け、言葉が聞き取れない事にココレットは息をつくと、笑顔で言った。
「大丈夫だよ。ちゃんと治るから。だから、泣かない泣かない。」
「ほ・・・本当に?」
「うん。でもなんで私が聖女だって思ったの?」
その言葉に少年は小首を傾げた。
「だって、体から光が溢れている。今まで見てきた誰よりも。」
その言葉に、ココレットは目を大きく見開くとなるほどと思った。見える目を持っているならば、気づかれても仕方がない。その時、ココレットはあれ?と、首を傾げる。
最高神官長であるヴィシアンドルは、自分に会っている。最高神官長ともあろう人が、見えないという事があるのだろうか。
いや、ない。
さぁっと血の気が引いていくのが分かりながらも、ココレットは少し考えてため息をつく。
知っていようがいまいが、ここで病気を治してしまった以上皆に知られるのは時間の問題である。ココレットは苦笑を浮かべながら、横たわり、辛そうな青年の体を優しく撫でていく。
「今、楽にしてあげるから。ねぇ、その代り、治ったらちゃんと詳しく話を聞かせてね。」
ココレットの言葉に少年は何度も頷いた。
「約束よ。」
「竜神に誓って約束する。」
ココレットはドラゴニアでは竜神に誓うのだなと思いながらも、空気の中にある光を集め、自分の中にある聖力と混ぜ合わせて目の前に横たわる青年の体の中に、ゆっくりと流していく。
黄金の風が、波を作り、ココレットの体の周りを流れていく。
「す・・・すごい。」
少年は目を丸くしその光景を呆然と見つめた。
聖女と言う存在がこの世界にいることは知っていた。そして、ドラゴニアの建国祭のお祝いの時に、聖女がけがをした人を治して回ると言う行事も見た事がある。だが、この目の前にいる小さな女の子とは比べ物にならない。
これは、明らかに別物である。
ただ、気になる事が一つあった。
「ふんふんふふふーん。」
鼻歌が恐ろしいほどに音が外れている。
この世のものとは思えないほどに美しい光景なのに、流れる鼻歌が音痴である。
そのアンバランスさが、目の前で起こっている事が幻ではなく現実なのだと感じさせた。なんとなく、残念である。
青年の体の皮膚が、ゆっくりと色を変え、そして元の美しい肌へと戻っていく。
「兄ちゃん!」
光がゆっくりと消え、そして青年の体は怪我一つない肌に戻っていた。
少年は青年へと手を伸ばし、その体を揺すぶる。
「兄ちゃん!兄ちゃん!」
穏やかな寝息が聞こえ、少年はその場にしりもちをつくと力が抜けた様子で大きく息をつく。
「良かった・・兄ちゃん・・・よかったぁぁぁっぁあ。」
泣いているのか笑っているのか、少年のその様子を見たココレットは今度は少年の体を治さなければと手を伸ばして触れ、そして目を丸くした。
「え・・・」
「あっ!?」
少年はココレットを振り払いそうになるが、それをぐっと堪えた。恩人を傷つけるわけにはいかない。
ココレットは治そうと思って触れた少年の体を見て、目を丸くしたまま少年の瞳を見て驚いた。
「貴方・・普通の人ではないわね。まさか・・竜人?」
少年は自分の体をぎゅっと抱きしめ、苦しそうな表情を浮かべた。
最近はフライパンで何でも作れるんですね。パンもクッキーもシュー鈹も。・・作れる人尊敬します。
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