二十三話 探索へ
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「何か、すっごく調子がいいんだよ。」
「あ、俺も俺も。きっとさ、やっぱり疲れていたんだよなぁ。」
「うんうん。でも、美味しい料理ってのは、心も体も癒すもんだなぁ。」
笑い声を上げながらそう話をしている騎士達であるが、それもそうであろう。幻級の食材の入った栄養価の高い、しかも歴代最強と呼ばれた聖女が作った聖力入りのスープである。これで元気にならない方がおかしい。いつも残念なはずのココレットがここで見事なファインプレーを見せているのである。拍手を送ってほしい。
そんな事とはつゆ知らず、いつも以上に血色の好い騎士達は、シバとローワンの元に集まり、部隊をいくつか小さなグループに分けられると、十名ほどを残して調査へと向かう事となった。
シバとローワンは最も怪しいと思われる、最初の感染者が出た村の近くへと行く予定であり、今から出立しても深夜に帰り着くかどうかというくらいの距離がある。
ローワンは話が終わると、何やら作っているココレットの元へと近寄った。香ばしい匂いが辺りに広がっているので食べ物だろうかとわくわくとしている。
「ココレット?それは、何?」
「わぁっ!」
後ろから急に声をかけたからか、ココレットはぴょこんと驚きと同時に跳ねた。その様子が可愛らしい子ウサギのようで、ローワンは必死で笑いをかみ殺した。
ココレットは動揺を鎮めるために、頬にかかった髪の毛を耳にかけなおし、チラリとローワンを見ると言った。
「その…これは…非常食用にと思って、その…鉄板でクッキーを作ってみたの。」
「え?!鉄板で…クッキーって作れるものなの?」
ローワンの記憶が正しければ、クッキーとは焼き釜で作るものであり、そう簡単にできる代物とは思えなかった。
「はい。卵とか小麦粉とか砂糖とか、けっこう食材は揃っていたので…片抜きとかはないので形は歪だけど。その、一つ食べる?焼き立てだから、美味しいよ。どうぞ。」
ココレットに手で差し出され、ローワンは少し形の悪いクッキーを、ココレットの手からぱくりと食べて、咀嚼する。
砂糖は少量にしてあるのだろう。甘さが控えめだが、サクサクとしていて美味しい。
「美味しいね。」
そう言ってローワンが顔を上げると、ココレットが頬を赤らめていた。その様子に、ローワンも無意識に”あーん”としてもらったのだと少し恥ずかしくなる。
「あ…ごめん。」
「いえその…あの、今包むからちょっと待って。持って行って、お腹がすいたら食べてね。」
ココレットは耳まで赤くしながらも手際よく袋の中にクッキーを入れると、ローワンに手渡した。
「その・・・気を付けていってらっしゃい。」
「うん。ありがとう。行ってきます。」
初々しい新婚さんのようなやり取りをした二人であったが、それを数名の騎士が生温かな目で目撃していたことには気づいていない。
「可愛いなぁ。初々しいなぁ。」
「何か、無性に恋愛したくなってきた。」
「俺も。生きて帰れたら、幼馴染に告白しに行こう。」
「あ、俺も。」
ココレットとローワンが騎士達の恋愛脳を活性化させ、その後恋愛ブームが騎士達の中で来るのだが、その事を知るものはまだいない。
ローワンが出立した後、ココレットはこっそりと村の近くによると、魔法陣の外側から中にいる村人へと声をかけた。
「あの、こんにちは。」
すると、そこにいた女性は瞳を輝かせてココレットの前へと来ると、その場に膝をついて手を合わせた。
「あぁ、小さな料理上手な聖女様!昨日は美味しいスープをありがとうございました。体調が今日はすごくいいんです!」
女性の顔色はかなりよく、ココレットはその様子からスープが効いたのだなとほっとすると、言った。
「あの、私は聖女じゃないですよ?でも、また後で昼食はスープを作りますから楽しみにしていて下さいね。」
「はい!」
女性にとっては、ココレットが聖女であろうがなかろうが関係ない。ただ、美味しい元気の出るスープを作ってくれたのはココレットであり、その事に感謝している。
「あと、出来るだけ重症の方から、スープを食べさせてあげてください。」
「もちろんです!皆に伝えます!」
「ありがとう。」
ココレットはちゃんと聖力が効いていたことに安堵しながら、調理場へと向かった。
毒だった場合は、薬草の調合などが必要となるが、病気ならば聖女の力を持つココレットにとっては容易く治せる事である。
治せるならば治したい。
聖女だとばれる可能性はかなり高くなるのは分かっている。だが、ココレットには自分の為に人を見殺しにするようなことは出来ない。
手の届く範囲の人は救いたいのだ。
「さぁ!張り切って料理を作りますかね!」
昨日スープを食べられなかった人もいるはずである。また、聖力によって病気は治っても体力や落ちた体重を回復するためには数日はかかるだろう。
ココレットは気合を入れると、数名の騎士に手伝ってもらい料理を作り、そして昼食のスープを村へと転送する。村人達は喜び、ココレットは村人の笑顔に早く良くなりますようにと願うのであった。
そして、ローワン達が帰って来てからすぐに食べられるように夕食も準備しなければならないと気合を入れて食材を取りに森に入った時であった。
「へっ?」
一人でちょこちょこと動き回っていたことが仇となった。
森の中で一人、首元にナイフを当てられ、ココレットは固まった。
「ハぁ…ハぁ…ついて…こい。」
ハァハァ言っている、自分よりも少し背の高い少年に、ココレットは変態だったらどうしようと顔を青ざめさせながらこくりと頷いた。
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