二十二話 小さな料理上手な聖女様
レッツクッキング。
ローワンがシバと共に地図を見つめながら、八つの村の位置と、最初の感染者の位置、どこから広がって行ったのかなどを話をしている頃、ココレットは、騎士団の食事の準備を手伝っていた。
聖女だった頃には料理などした事が無かったが、貧乏男爵家ではシシリーと共によく食事を作った。
シシリーは年だからなのか、包丁を持たせると少しばかり手元がぷるぷると震え恐ろしく、ココレットはそんなシシリーの手助けをするうちに料理の腕はどんどんと上がって行った。
「ご令嬢なのに、料理できるなんてすごいわねぇ。」
「本当だなぁ。それにしても、久しぶりにまともな料理が食べれそうで、嬉しいな。」
「小さいのに、すごいなぁ。」
料理を作る鍋の周りに、いつの間にかに人が集まり始めており、ココレットが手際よく料理を手伝う姿が注目されていた。
騎士団では基本的に男女関係なく、料理をする当番が回ってくる。ただし、ほとんどの者が包丁を持った事が無い料理初心者であり、この数か月まともな料理を食べていないと言う。
ココレットはスープをコトコトと煮ながら、もう少し野菜が欲しいなぁと思い、森の中へとひょいと入ると、近くに生えていたいくつかの植物を取って大なべの前へと戻ってきた。
水でしっかりと洗い流し、包丁でざっくりと森で採ってきた木の実や緑の葉を切っていく。
「え?あんな野菜あったか?」
「さっきちびっこが森で採って来たぞ。」
「え?!大丈夫かそれ。」
そんな声が聞こえた為、ココレットはにっこりと笑顔で言った。
「大丈夫ですよぉ。どこにでもよく生えている栄養価の高い植物なので。」
そうココレットは言ったが、実際の所はそんじょそこらに生えているただの植物ではない。病気の薬にもなると言われる、かなり栄養価が高い植物であり、この植物を食べれば、大抵の体調不良は直るとさえ言われている幻級の植物である。ただ、それを知るものはここには居ない。
ココレットは塩と胡椒で味を調えると、大なべを掻き混ぜながら、ゆっくりとじっくりと聖力を注いでいく。集中して力を注いでいけば、ハッキリ言えば無意識で作る聖水よりも格段に力の強い物となる。はっきりと言えば、大抵の病気を治すくらいの力を持っている。
-みんなが病気がうつらないように、元気でずっといられますように。
大なべをコトコト煮ていきながら、ココレットは無意識に鼻歌を歌う。
「ふんふふふーん。」
それを聞きながら、騎士達は苦笑を浮かべた。
「音痴だなぁ。」
「だがそれもまた、可愛いなぁ。」
皆が微笑ましげにココレットの姿を見つめていると、美味しそうな香りが辺りに広がり始める。それを嗅ぎつけたのは、騎士達だけでなく、村の中の人々も、何の匂いなのだろうかと、封じの魔法陣の中からこちらを覗き込んでいる。
その様子に、ココレットは近くにいた騎士に尋ねた。
「作った料理を、中に運んでもらうのは可能なんですか?」
女性騎士は頷いた。
「魔法陣を通して、中に転送できるようになっているんだ。だが、騎士団の食糧庫の事情的にどうかな。」
その言葉に、ココレットは少し考えると森を見つめて言った。
「なら、森にある食材で作ってもいいですか?数人調達を手伝ってもらえたら、ありがたいんですけれど。」
「あぁ、なら、私達が手伝おう。だが、私達はどれが食べられるのか…あまり知らないが。」
女性騎士が数人手を上げ頷いたが、次のココレットの言葉に少しばかり顔を歪める。
「私が教えて最終チェックまでするので大丈夫ですよ。じゃあ、取りに行きましょうか。ここのスープは出来ているので、食べたい方は食べられてくださいね。」
「私達も・・・食べたいんだが。」
思わず本音の漏れた女性騎士達に、ココレットは微笑むと言った。
「なら、先に取りに行っているので、食べたら来てくれますか?すぐ近くにいるので。」
「あぁ。分かった。」
ココレットは大きなかごを背負って森の中を歩き始めた。あまりに自由に動けるので、隣国の者なのにいいのかななんて事を考えていたが、その理由をすぐに知った。
恐らく、騎士団の中にも逃走する者が出ないようになのだろう。かなり広域に、外に出られないように魔法が仕掛けられているようであった。木に結び付けられている魔法のリボンは恐らく、魔法を発動するための物なのだろう。森の中の至る所に結び付けられている。
ココレットは次々に食べられる贖罪を見つけては籠にひょいひょいと入れていく。そしてひとしきり入れ終わって戻ると、大なべいっぱいに入っていたスープがすっからかんになっていた。
「わぁ。すごい。綺麗に無くなりましたね?」
ココレットが驚いてそう言うと、騎士達はココレットに瞳を輝かせながら感謝の言葉を述べ始める。
「美味い。とにかく美味かった!ありがとう!」
「美味しすぎて、びっくりよ。」
「ココレット嬢、本当にありがとう。」
「こんな場所であんなに美味しいスープが食べられるとは思わなかった!」
騎士達は次々に感謝を述べていく。
ココレットは、その言葉に思わず照れて頬を赤くした。
「いえ、いいんです。あの、美味しかったなら良かったです。ふふ。よしじゃあ、あるだけの鍋を貸してもらってもいいですか?村の方にも食べてもらえるように作りたいと思うので!」
「え?でも食材はって・・・すごい。短時間でこんなに集められるもの?なの?」
かごいっぱいの食材を見た女性騎士達は目を丸くする。もちろん、普通集められる者では無いのだが、それを知るものは、もちろん、ここにいない。
あるだけの大なべをかき集め、手の空いている物は皮をむき、取ってきた野草を切る。その間にココレットはもう一度数人の騎士を連れて森に入り、食材を取ってくると、料理を開始した。
「さぁ!皆で頑張って作りましょう!」
そうこうしている間に、肉があった方がもっと美味しくなるのではないかと、騎士が数人狩りに出かけ、取ってきたウサギ肉をさばいてそれもスープに入れる。
辺りには美味しそうなスープの香りがただよう。
そして大量に作ったスープは村の中にも転送してもらう。顔色の悪い村人たちはスープを皆で配り合い、目を輝かせてそれを勢いよく食べ始める。
ココレットはその様子を見つめながら言った。
「足りないようでしたらすぐに作り足しますから、ゆっくり食べて下さいね。」
村人たちはココレットを魔法陣越しに見詰めながら手を合わせて感謝を述べる。そして誰か一人が呟いた。
「聖女様みたいだ。」
その呟きはすぐに広がり、村人たちの中でココレットは小さな料理上手の聖女様として名を広めていく。
ローワンとシバは外が騒がしくなったのと、良い香りが漂ってきたことでテントを出ると、皆が皿を持ってスープを美味しそうに食べている姿に目を丸くした。
「やけに・・美味そうな匂いだな。」
シバは鼻を鳴らし、つばをごくりと飲み込んだ。そこへ、ココレットが両手にスープを入れた皿を手に現れた。
「持ってきました。良かったら食べて下さい。」
ぶかぶかの服にエプロンをつけ、料理を運んでくるココレットの姿に、ローワンは和んで笑顔を浮かべた。
「おいしそうだね。ありがとう。」
「ありがとう。」
シバは仲間の騎士の輪の中へと腰をおろし、ココレットとローワンもその横に座った。
ココレットはローワンが食べる姿をどきどきとした表情で見つめていると、ローワンは一口食べるとすぐに目を丸くしてパッと顔を明るくした。
「美味しい!」
そういって、がつがつとスープを食べる姿は王子様と言うよりも、男の子という感じがして、ココレットの胸はキュンと高鳴るのであった。
今からの時期は、温かなスープが殊更美味しくなりますね。
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