二十一話 封じの魔法陣
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ココレットとローワンは顔を見合わせると、お互いに緊張した面持ちで小さく息をついた。
「ココレットも知っていたか。…なら話は早い。一度ここを離れよう。」
「うん…。ここにいては危険かもしれないから…」
そう二人が話をしていた時であった。ローワンの後ろから人影が現れたかと思うと、左右にも剣を構えた男が現れ、取り囲まれていた。
体格がよく、服装からして騎士団の者たちなのだろう。かなり手だれのものだと、その殺気から感じ取れる。
ローワンはココレットを自身の後ろへと庇いながら、護身用の短剣を引き抜いた。
「…男と…子ども?」
一人の男は一歩前に来ると、殺気を押さえ、剣を鞘に納めると言った。
「何しにここへ来た?」
ローワンは男を見据えながら、答える。
「手違いで、魔法で飛ばされてきた。ここがどこなのかも知らん。」
男はローワンとココレットの服装を見て、小さくため息をつくとはっきりとした口調で言った。
「可愛そうに。…何故この場所に飛ばされたのかは知らんが…運が悪かったな。お前達二人を逃がすわけにはいかない。手荒なことはしたくない。着いて来てくれないか。」
ローワンは周りの人数と、現状からため息をつくと短剣を仕舞い、男に言った。
「逃げないと約束する。なので、現状とここがどこなのかなど、教えてもらえるか。」
男は頷くと、着いて来るように顎をしゃくり、ローワンはココレットの手をぎゅっと握って男の後ろから歩いていく。
村の手前へと移動した男は、テントの張られている場所まで来るとその中にローワンとココレットを招き入れた。
そして、男は一緒に来ていた者達に他の見回りに戻るように伝えると、ローワンとココレットに座るように示した。
「俺は、ドラゴニア王国地方支部第二部隊団長のシバという。」
ローワンは少し思案した後に、小さく息をつくと、覚悟を決めたようにシバを真っ直ぐに見据えて言った。
「私は、ヴェールガ王国第二王子のローワンだ。そしてこの子が、私の婚約者のココレットだ。」
その言葉に、シバは眉間のシワを深くすると大きくため息をついた。そしてローワンの前で頭を深々と下げると言った。
「隣国の王子とは知らず、無作法、申し訳ない。丁寧な口調など出来ぬ事を許してもらいたい。」
そして顔を上げると、もう一度大きく息を吸って吐いてから、シバは思案しながら言葉を繋げていく。
「…恐らくだが…二人がここに来たのも、ドラゴニア王国による魔法かもしれない。」
「…どうせ、ここからは逃げられないのだろう?詳しく教えてくれ。」
ローワンの言葉に、シバはある程度悟っているのかと考えると、静かな口調で話し始めた。
「事の発端は、二か月ほど前のこと。この村の隣村にて、一人の病人が出た事が始まりだ。そこから感染が始まり、現在、隣接する八つの村にて同じ症状の病気が流行している。原因は不明。その為、王国は感染したと思われる村は封じの魔法を掛けて封鎖し、騎士団が支援物資を運び入れたり、医師や魔法使いと一緒に原因の究明の為に村の近隣にて調査をしている。そして、残念なことに、数日前、村人と接触していない騎士から、感染者が出た。」
シバの言葉に、ローワンは額に手を当てて深くため息を漏らしてから、ココレットの方へと視線を向けた。
きょとんとした表情を浮かべるココレットの手を、ぎゅっとローワンは握ると、言った。
「すまないココレット…。」
「え?」
シバは深くため息をついて言った。
「察しの良い方で助かる。…感染者に接触しない者が発病したという事は、ここにいる皆が感染している可能性がある。故に、二人もここに隔離される事となる。感染者を外に出すわけにはいかないからな。そして、先日本部からの連絡で耳に入った情報によると、我が国は何かしらの方法で聖女を手に入れるとのことだった。もしかしたら、二人は、それに巻き込まれたのかもしれない。」
申し訳なさそうにぎゅっと手を握ってくるローワンに、ココレットは首を横に振ると笑顔で言った。
「ローワン様のせいではないわ。私が勝手に王宮に行ったのがいけなかったのよ。それに、もう来てしまったものはしょうがないわ。ね?だから、ここの人達をお手伝いして、病気をさっさと治しちゃいましょう?」
焦った様子もなく、動揺している様子もないそのココレットの言葉に、ローワンもシバも現状がまだ分かっていないのだなと判断すると、笑顔を返して頷いた。
「うん…そうだね。」
「とりあえず、えーっと、ココレット嬢。君は女性騎士の所へ案内するので、そちらへ。着替えた方がいいだろう。」
ココレットはローワンを見て、ローワンが頷いたのを確認すると立ち上がった。
「よろしくお願いします。」
「あぁ。ちょっと待ってくれ。」
シバが騎士に声をかけると、テントの中に他の女性騎士が駆けつけ、ココレットを案内してくれる。
ローワンはテントに残ると、シバに言った。
「調査の方に、私も関わらせてもらえると助かるんだが…やはり、隣国の王子ごときがしゃしゃり出るのはまずいか?」
シバはその言葉に噴き出すように笑い声を上げると、首を横に振った。
「はっはっは!いやぁ、王子様とは思えない方だな。…手伝ってもらえるならば、頭を下げてでもお願いしたい。実の所、ここの部隊には魔法使いがいなくてな、基本的に他の部隊が魔法使いと共に調査をしているんだ。だが、俺達だってこのままで死にたくはない。」
「なら話は早い。地図と、この辺りに詳しい人物もいたら、話を聞きたい。」
シバは頷き、ローワンと共に調査のための行動を開始する。ローワンは、せめてココレットだけでも国に無事に返してやらなければと、まずは現状を打破しなければならないと動き出したのであった。
その頃ココレットは、女性騎士達に囲まれていた。
「あちゃー。どれもぶかぶかね。」
「どうしますー?」
「あ、これは?ほら、短パン。」
「あぁ。それならズボンは大丈夫そう。ウェストは縛って・・・上はぶかぶかだけど、シャツの裾をズボンの中に入れればどうにかなるでしょう。」
「あら、いい感じじゃない?」
短パンがひざ下くらいのズボンとなり、シャツはぶかぶかなので袖をまくった。
騎士団の服をココレットが着ると、何となく、悪い事をしている気分になる。
「可愛いわ。」
「うん。さっき、短パンなしでシャツだけ着てたときとか…なんか、私変な方向に目覚めそうだったもの。」
「あ、分かるわ。でも、これはこれで…良いわね。」
ココレットは騎士団の女性達に服を脱がされて着せられてと、恥ずかしさから顔を赤らめている。
「あ、あの、洋服ありがとうございます。」
照れながらそう言われ、女性騎士達は何となく微妙な表情を浮かべる。ココレットは似合っていないのだろうかと不安に思い、ローワンに嫌われたらどうしようかと不安になる。
そんなココレットの不安とは裏腹に、女性騎士達はこそこそと喋る。
「これ、男共に見せても大丈夫かしら?」
「変な扉開いちゃう男とかでそう。」
「そうね…うん。とにかく守ってあげましょう。」
「ええ。」
女性騎士達は手を重ね合わせて、ココレットをどうにか守ってやらなければと闘志を燃やす。そんな事とはつゆ知らず、ココレットは取りあえずどうにかして病人たちを治していかなければならないなと、頭の中で考えているのであった。
ココレットは良いおもちゃのようになってしまいました。
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