二十話 真相
遅くなりました。
ドラゴニア王国の側妃の息子である第十三王子マハールは、顔を青ざめさせており、その心の中は、荒れに荒れていた。
ーどうして。子竜は聖女を見つけて、魔法陣で転送する予定だったのに。何故第二王子の婚約者と、しかも第二王子まで一緒に転送してしまったんだ。
計画とは違う事が次々と起こり、マハールの体は震える。
-魔法は一人を転送する物だったはずだから、きっと座標はずれる。もしそれで二人が死んでしまったら…僕はこの国の法にて裁かれ処刑されるかもしれない。そんなのただの無駄死じゃないか。聖女さえ送れていれば、この命など惜しくはなかったのに…。
計画では最も力の強い聖女を子竜が見つけ、それを自国へと転送する予定だった。子竜によるイレギュラーな問題であれば、国際問題にはなりにくいだろうと思っていた。それにもし問題になったとしても、王子の首一つで丸く収まる可能性が高かった。
そんな青ざめた顔をしたマハールの目の前には、鋭い瞳でその様子をじっと見つめる国王アーサーの姿があった。机の上には檻に入れられた子竜がしょげた様子で入っており、シンは国王の後ろに控えている。
「こ、この度は…このような問題を引き起こし…も…申し訳ありませんでした。」
アーサーは、先日の第一王子の一件にてドラゴニアの使者が来たのかと思っていたが、マハールの様子を見て何か裏があるのだろうと口元に笑みを浮かべると言った。
「そんなに気に病む必要はない。我が国の王子はそこまで軟弱者では無い。魔法使い達にもすでにどこにいるのか探し出すように命じている。きっとすぐに見つかる。…国内にいるのならばね。」
アーサーの言葉にマハールはさらに顔色を悪くしていく。
その様子に、アーサーはシンに目配せをする。この様子からしてまず間違いなくドラゴニアへと魔法で転送されたのだろう。国外となると連れ戻すのに時間がかかる。
ーおそらくは何かしらの手違いで、二人を転送したのだろう。となれば、本当の狙いは誰だったのか。
アーサーは静かに頭の中で考え、そして一つの可能性に行き当たると笑顔でマハールに尋ねた。
「とにかく、怪我さえしていなければいいのですが。まぁ我が国にも聖女が居ますからな。怪我程度であればすぐに直すことが出来る。そう言えば、ドラゴニアには久しく聖女が新たに現れていないとか…」
ビクリと、マハールの肩が大きく揺れる。
アーサーはそれで確信を得ると、シンを視線で呼ぶ。そして、小声で命じた。
「…ドラゴニアの聖女について、諜報部と連絡を取り確認しろ。後、ドラゴニアで何か問題が起こっている可能性が高い。それについても頼む。」
「分かりました。」
シンは部屋から出て、諜報部のある城の西側にある研究塔を目指す。
研究塔には様々な部署があり、その一つに諜報部がある。ただその存在を知っている物は極僅かであり、シン自身も出入りすることは少ない。
出入りできる者の数も限られており、出入りする為には魔法で作られた許可証が必要となる。
研究塔に入れば、まず匂いが替わる。消毒液のような匂いが部屋に広がっており、顔を顰めてしまう。
シンは研究塔の奥にある諜報部の一室へと入ると、その緊迫した雰囲気に気を引き締めると声をかけた。
「国王陛下より、ドラゴニアの聖女について、またドラゴニアで起こっている問題について聞いてくるよう命じられた。答えられる者はいるか。」
部屋の中は暗く、いたるところで魔法が展開されている。円盤のようなボードの上には地図が浮かび上がっており、それらが淡く輝く。
「こちらに来て下さい。第二王子殿下の居場所を特定しました。」
円盤の方へと手招きされ、地図の中に赤い点が浮かび上がっているのが見える。
「ここは…ドラゴニアの領土内だな。」
「はい。ドラゴニアには現在聖女は八名いるとの調べですが、どの聖女もそこまで力は強くなく、簡単な怪我を治す程度しかできないとか。最近は新たに聖女は出現していないようで、聖女の不足が問題視されています。そして、今現在第二王子殿下がいるこの場所は、最近、我が国の諜報員によって何かしらの問題が起こっている可能性が高いとされ、調べている最中の場所です。」
その言葉にシンは眉間のシワをさらに深くする。
「可能性のある問題とは?」
シンの問に、その場が一瞬静かになる。
「聖女がここで話に上がってくるとなると…可能性として一番高いのは、何かしらの病気かと。」
シンはその言葉に目を丸くすると、拳を固く握りしめた。
もし伝染性の病気であるならば、第二王子をすぐに連れ戻すことが難しくなる。目に見えない正体不明の病を自国に引き入れる可能性が高いとなると、隔離措置をとる必要があるだろう。
「陛下にその旨を伝える。とにかく正確な情報を集めるよう、よろしく頼む。」
シンの足取りは、重たくなる一方であった。
物語が進んで行きます。楽しんでもらえたらとっても嬉しいです!