十二話 頭をよぎる姿
たくさんの感想ありがとうございます。お返事が返せなくて申し訳ないです。ですが、感想欄を見るのが楽しみになっています。だっこリクエストをいただき、どこかで使いたい。そんな野望をいだいています。ただ・・この話では無理だ。どこかで、どこかでと、思案してます。
魔法使い長であるルートの手によって、治療薬はすぐに作られた。治療薬に必要な薬草はそのほとんどがココレットの庭から取られたものであり、ココレットが乾燥したり煎じたりしていた分、作業はかなりの時間を短縮して行うことが出来た。
治療薬を服用してから一週間でレオナルドは歩くことが出来るまでに回復し、国王や王妃、そしてローワンは心から喜び、安堵した。
ただしレオナルドが回復した後はやはり問題となってくるのがココレットの庭についてと、そしてだれがどのようにしてレオナルドの私室へと毒花を仕込んだかという点である。
ココレットの庭については、最高神官長であるヴィシアンドルが内密に視察に向かい、魔法使い長ルート共に調べを進めていた。
そしてその結果、男爵家の庭は”精霊の庭”と呼ばれる珍しい植物が育つ庭なのではないかと推察された。
この世界に住まう精霊達は不可思議な存在であり、人に好意を抱くこともあれば害をもたらす事もある。そんな彼らがまれに悪戯で気に入った相手が住まう場所に力を与えることがある。
そんな場所の俗称が”精霊の庭”なのである。
精霊の庭では普通が通用しない事が多く、精霊の庭であるならば男爵家の庭に珍しい植物が生えていたことも納得できるのだ。
ココレットが聖女であるとは、誰も思っていない。何故ならば、聖女の力は人の怪我や病気を治癒する能力や、歴代最強の聖女が生み出した”聖水”によって外傷や体力回復をもたらすもの、とされているからだ。珍しい植物を育てる力があるということは、記録に残っていない。いや、意図的に残されていない。
故に、ココレット自身ではなく、男爵家の庭が特別な物として、認識されることとなった。
”精霊の庭”の力は不思議なものだが、精霊の機嫌を損ねれば消えることもある為、王宮は今後もココレットが庭を管理し、それを買い取る方向にするという事が決められた。
そんな薬草の買い取り金額に、ココレットが目を丸くし、さっそく両親と馬車とソファを新調しようと話をしている。ココレットの頭の中では、王宮のふかふかの馬車が想像されており、あの馬車で移動するだけでどれほど幸せな気持ちが味わえるだろうかと、妄想が止まらない。
そんな中、シシリーが慌てた様子で手紙を握りしめて現れた。
「お嬢様まぁぁぁ!恋文でございます!恋文でございますぅぅぅ!」
王宮から届いたローワンからの手紙に、ココレットはがばりと立ち上がると、シシリーからそれを受け取り、頬を赤らめると、両親の視線から逃れるように、扉の方へと移動する。
「おほほ。私、その、部屋で手紙を読んできますね。では、あの、馬車はまた決まりましたら教えてくださいませ!」
お年頃のココレットは、最近毎日のように届くローワンからの手紙は必ず部屋で一人で読む。何故ならば、恥ずかしいからである。そしてシシリーの興奮度合がすごいからである。
その様子をココレットの父は寂しげに見送り、母はその背を慰めるように優しく撫でるのであった。
部屋に帰ったココレットは、机の上に手紙を置き、それをまずじっくりにやにやと眺める。そして、それから呼吸を整えて手紙の封を切る。破れないように、慎重に。丁寧に。
手紙にはいつも花の香りがついており、それを胸いっぱいに吸ってからココレットは折りたたまれた手紙を開いた。
「ムフフ・・」
第一王子であるレオナルドが回復したことや、ココレットの庭が”精霊の庭”であることや薬草の買い取り金額や今後どうしていくかなどについてはすでに王宮からの説明は受けており、手紙の内容はそうした難しいものでは無い。
婚約者らしい、日常会話からはじまり、そして、お礼にと今度デートしましょうというお誘いの文面が書かれていた。
ココレットはそれを胸に抱きしめると、ベッドの上へとダイブし、ベッドの上でごろごろと転げまわる。
「ムフフ~。デートだって!ムフフ。やったわぁ。婚約者らしいわ!恋人らしいわ!楽しみー!」
にやにやとだらしなく笑みを浮かべるココレットは、次のデートではどの服を着ようかなどと今からわくわくとしてしまうのであった。
国王や魔法使い長ルートとの話を終えた神殿を管理する最高神官長であるヴィシアンドルは静かに神殿の廊下を進んで行く。
夕日のように鮮やかな美しい髪を金色の髪留めで一つにくくり、純白の神官服に身を包んだヴィシアンドルは歴代最年少で神官となり、二十六歳と言う若さで最高神官長にまで上り詰めた男である。その表情はいつも柔らかく、廊下ですれ違う頭を下げる神官達に笑みを返していく。
”心優しい神官長様”と民にも慕われている姿は、神官の鏡とも言われている。
そんなヴィシアンドルは、最高神官長しか入る事の出来ない祈りの間につくと、白く輝く地面に膝をつき、両手を合わせて祈りを捧げる。
精霊石で作られた白い床は冷たく、天井のステンドグラスから降り注ぐ光を反射している。しかし次第にヴィシアンドルの吐く息は白くなり、光を反射していた床には雪の結晶のような氷が張り始める。
そして次の瞬間、天井から降り注ぐ光は色を変え、虹色の光が揺らめき、風が吹き抜ける。
ヴィシアンドルの目の前に、美しい光に包まれた白髪の老婆が現れると言った。
「うまくごまかせたのかしら。」
その言葉にヴィシアンドルは顔を上げ、眉間にしわを寄せると苛立った口調で言葉を返した。
「神官に嘘をつかせるなんて、天罰が下りますよ?」
くすくすと楽しそうに笑う老婆は、そんなヴィシアンドルの頭をくりくりと撫でながら楽しげに言った。
「あらあら、私の他に誰が天罰を下せると言うのかしら。とにかく、あの子を今世は絶対に縛り付けたりしないでね。まぁ・・・貴方がそんなことをしないとは分かっているけれど。」
次の瞬間ヴィシアンドルの体を地面へと沈めるような負荷がかかり、地面にはひびが入る。
美しかった祈りの間の床には蜘蛛の巣のようなひびが入り、空気が張りつめていく。
「分かっています。俺だってそれは本意ではありませんよ。」
ひるむことなく真っ直ぐに返された言葉に、老婆は頷くと、空気は和らぐ。
老婆はにっこりと穏やかな笑みを浮かべた。
「私達にできる事はすくない。けれどできる事ならば、今世こそはあの子に幸せになって欲しいの。」
「・・・わかっています。」
「そう。そうよね。貴方が一番、悔しかったはずだもの。だから、私達は貴方に姿を見せる決意をした。」
しばらくの間、沈黙が流れ、そしてヴィシアンドルは言葉を返す。
「はい。感謝しています。」
「可愛い私達の愛し子の為に。お願いね。」
そう言うと老婆は姿を消し、美しく輝いていた光も消え失せた。
ヴィシアンドルは大きく息をついてその場に倒れるようにして大の字に横になると、天井を見つめた。
「・・・本当に・・厄介な女だ。・・・けど・・・今度こそは守って見せる。」
美しい光に包まれた”聖女様”の姿が、ヴィシアンドルの頭をよぎって行った。
ココレットは好きな果物や野菜を自分で育てられるからいいなぁと思いましたが、最終的にプロが育てた野菜や果物を食べた方が絶対に美味しい。お世話は自分には無理だと、悟りました。プロの方に感謝です。昨日りんごを買いました。食欲の秋、楽しみです。
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