異世界中間管理職
なんか浮かんできまして、書きまとめたらこうなりました。既出の設定かもしれません、似たものでもっと面白い作品が有るかもしれません。これを読んで何か思いついちゃった人は是非とも書いてください。
ひとつの魂が目の前に浮かび上がる。
その朧気な光の塊はゆっくりと形を整え、やがて一人の青年の姿へと形を変えた。
短く切り揃えた黒髪、爽やかな印象を受けるキリリとした瞳は茶色、見て察するに最近とんと見る機会が増えた日本人なのだろうか。
そんな事を考えながらも目のあったその青年に語りかける、えー、彼の名前は。
「坂本始さん、聞こえますか?どうか落ち着いて聞いてください。ここは世界のハザマ。あなたは死亡し転生を控えるこの刹那に意識を覚醒させた状態なのです」
「えっ!?ってぅ、えっぁ?」
私の言葉と己の状況をまだ飲み込めないのか、何か話そうともごもごと口を動かし短く声を発するハジメ氏。
視線があちらこちらへと落ち着かず、細かな呼吸を繰り返す。
「驚くのも無理はありません、少し気持ちが落ち着くまで待ちましょう」
穏やかにそう話しかけ、一旦声を止め待つ。こちらに目を向け、口が開いたままのハジメ氏が何度も頷いているので良しとしよう。
誰だってこんな不可解な空間で目が覚めて目の前に見知らぬ人がいてあんなことを言われたら混乱することだろう。
…最近はやけに物分かりがよく、トントン拍子で話が進む場合もあるのだが、そのパターンについては一旦置いておこう。
さて、手元の資料から彼のここに至る経緯を覧ておく、かの大いなる存在から彼と同タイミングで届いているのでね。
なになに?年齢、性格、家族構成、交遊関係、趣味…。
…死の状況、現地神の所見、儂からの一言コメント。
しばし無言の空間、もとより音のたつ物は無いので静寂は常なのだが、付近に自分とは別の存在があるにも関わらずこうも静かだと違和感を感じるな。
などと、目では資料を読みつつも頭には意味のない思考が湧いては沈む。
ハジメ氏の情報を斜めに読み流していると、向かいから声がかかる。
「あの!お待たせしました、大分落ち着きました」
資料から目を移せば、先程よりも大分ましになったハジメ氏がこちらを伺っている。ふむ、では話を進めるとしよう。
「よろしい、ではあなたの現状と今後の事についてお話ししましょう。簡単にですがね」
「はい!」
死んで間もない割には元気に返事を返してくれるハジメ氏。
ならばと本来の仕事、彼への状況説明に戻るのが私からの誠意だろう。
といっても、『簡単に』と口にしたように実際私が話せることは多くはない。あくまで丁寧に、相手によく理解してもらえるように話す。
1,本来ならば、また次の生命へと産まれ落ちるために魂が自動で目的地へと送られますが、ハジメ氏の場合はある大いなる存在の目に留まり、別の世界へと転生する機会が与えられました。
2,転生なので魂(中身)がそのままの状態で送られますが、肉体(外側)は環境により変化します。
3,希望する転生対象者には、行き先の世界の大まかな情報をお伝えできます。
4,別の世界へと転生はせず、本来の流れの通りに次の生命への準備へと向かうことも可能です。
「と、まあこんなところですかね。因みにこの4番ですけど、個人的には処理が少なく済むのでお勧めです」
この事務的な説明も最早手慣れたもので、スムーズに伝えることができる。最後にこんなウェットの効いたジョークを言ったりもしてしまう、すっかり転生管理職も板についてしまったということか。
まあこの後は事細かな質問の受け答えをしたり、なんか的はずれの前知識から好き勝手いってくる対象者をどうにか丸め込み、ジジイ(かの大いなる存在)の決めた世界へと転生させるor輪廻に戻すまでがセット。
そう、ここからが長いのだ。
「さて、ハジ」
「あっ、それでお願いします!!」
「…はい?」
長きにわたる舌戦を繰り広げるであろう、覚悟を決めたところでハジメ氏から力強く声が。というか、くいぎみで返事が。
思わず聞き返してしまう私。
「ですから、神様のお手を煩わせるのも心苦しいので!処理が少なく済むとおっしゃっていた4番?でお願いします!!」
「えー」
迷いの無い真っ直ぐな瞳、そしてこの場面での笑顔。なんでしょうこの方は、あまりに即断過ぎて逆に私がたじろいでしまう。
「あっ!何か門をくぐるとか、魔方陣の上に乗るとかですか!?どこに行けばいいでしょうか神様!」
今度は動揺からではなく、純粋なやる気から周りをキョロキョロしだすハジメ氏。ほぼリタイア宣言なのにやる気と表現してよいものか。グルグルまわる思考に今度は私が混乱。
うーむ。
…よし、本人の同意も得られたからもういいか。
色々と工程をすっとばしたようにも感じるが、元は要らなかった手間。本来の最短手順を進めたのだから良しとしましょう!
そう結論結付けた私。
「わかりました、では早速始めます。そのままその場に立ったままで結構です」
「はいっ!!」
ガコッ
ハジメ氏が立っていた床が開き、穴が広がる。今まで立っていた足場が消えたハジメ氏は、不思議重力の法則にしたがいそのまま即席の入口と落ちていく。
死して天に昇りすぐさま落ちるだなんて、この時に発生した位置エネルギーは本当に無駄だな。
よく分からない思考が過ったがこれも永く存在している者の定め。
パタン
開いていた穴はピッタリと塞がり、目の前には何もない空間が広がる。同時に広がる静寂。
「願わくば、ハジメ氏の来世に幸あらんことを」
そしてそれっぽい事を呟いた私は、また次の転生候補者を待つのであった。
続きはプカプカ浮いてるんで、いずれ出なくなるまで書きます。