第8話:新パーティーで再始動
勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。
魔術師の少女サラと剣士ザムスの、凄腕Bランク兄妹パーティーに仮加入。
近隣の村を狙う大鬼と、危険な一眼巨人の討伐に成功。
兄妹パーティー《東方の黄昏団》の仲間に、オレは本格的に加入することになった。
◇
一眼巨人を討伐してから、日が経つ。
オレの加入した《東方の皆月》は、次の任務中。
街の近くの荒野、オレたちは翼竜と戦っていた。
「くっ……剣が届かない相手か……厄介だな」
空高くを飛行している翼竜。
地上にいるザムスさんは、恨めしそうに睨んでいた。
「兄さん、どうしましょう?」
「とりあえずオレは弓で攻撃してみる。サラは魔法でいけるか?」
「あの距離では……ちょっと難しいです」
「やはり、そうか。面倒な相手だな」
攻撃魔法には有効射程がある。
多く魔力を消費することで、ある程度までは射程を伸ばせる。
だが今の翼竜の高度には、遥か届かないのだ。
「でも兄さん、あの翼竜はここで何とかしないと、近隣の家畜がまた浚われてしまいます」
「ああ、そうだな、せっかく見つけたんだ。必ずここで討伐しないとな」
巨大な翼竜は、牛や馬などの家畜を好物する。
だから近隣の酪農家は、あいつに多大な被害を受けていた。
だが警戒心が強く、弓と魔法の有効射程内まで、なかなか降りてこないのだ。
「また高度を上げやがった。くそったれが!」
「あのー、ザムスさん。良かったらオレの支援魔法で、サラの攻撃魔法の飛距離を伸ばしますか?」
「それは有り難いが、ハリト。あの高度だと、いくらお前の支援魔法でも……」
「とりあえず試してみますね。サラいくよ……【魔法・距離延長《弱》】……【魔法・威力強化《弱》】!」
直後、サラの魔法の杖が眩しく光る。
「兄さん? いいんですか、これ撃っても?」
「ああ、頼む。嫌な予感がするがな」
「ですよね。はぁ……では、いきます!……【風斬《中》】!」
サラが風の攻撃魔法を発動。
遥か上空の翼竜に向かって、杖を振りかざす。
ビューン、グルルッルル!
直後、巨大な風の刃が、高速回転で発射。
シュッ、パァーーン!
上空にいた翼竜を一刀両断する。
ヒューン、ドッスーン!
翼竜の以外は、そのまま地上に落下。
粒子となって消えていく。
「ナイス、コントロールだったね、サラ!」
ワイバーンの討伐を確認して、二人がいる後ろを振り向く。
「えっ…………」
サラは自分の杖を見ながら、目を点している。
「ふう…………やっぱりか…………」
ザムスさんは翼竜の死骸を見ながら、深いため息をついている。
二人とも、いったいどうしたのだろうか?
おそるおそる訪ねてみよう。
「あの……またオレなんか、やっちゃいましたか?」
「ま、『またなんか、やっちゃいましたか?』じゃいないですよ、ハリト君! なんで私の【風斬《中》】が、あんな地獄の風斬撃みたいに、なっちゃうんですか⁉ しかも射程が雲の上まで、貫通していたじゃないですか⁉」
「いや、ごめん、サラ。オレも必死だったから、よく加減が分かんなくて……」
「いえ、そういう意味じゃなくて」
「サラ、止めておけ」
「でも、兄さん!」
「ハリトの凄さに、いちいち突っ込んでいたら、コッチの精神が持たない。静かに見守っておこう」
「そ、それは確かに。ふう……」
「はぁ……」
なんか兄妹で仲良く、ため息をついている。
とにかく何とかなりそうだな。
オレも一安心だ。
「ふむ。翼竜は魔石以外にも、素材があるな」
「これは翼竜の翼皮ですね、兄さん。冒険者ギルドで高く買い取ってくれるはずです」
「ああ、そうだな。だが、この大きさだと、持っていくもの……」
「よかったら、オレがやりますよ! 一眼巨人の骨みたい!」
役に立ちたいオレは名乗り出る。
今回の戦闘で、止めを刺したのはサラの魔法。
翼竜を発見し、仕事の段取りをしたのはザムスさん。
今のところオレだけが、何も仕事していない。
だから荷物運びだけでも、頑張りたいのだ。
「そう言うと思ったが、ハリト、こんなに長い物も、収納できるのか?」
「はい、大丈夫です……【収納】!」
ボワン!
おっ、上手くいった。
翼竜の翼羽を、全部オレの魔法で収納できた。
あとは街まで持って、出せばいいだけだ。
「はぁ……前にも言いましたが……ハリト君のその魔法、凄すぎですよね?」
「えっ? そうかな? 昔から毎日使っているから、凄さが分からなくて。ごめんね、サラ」
「そう言うと思いました。ところで、その【収納】は、どのくらいの分量が入るんですか?」
「えっ、これ? 正確に測ったことはないけど、だいたい大きな穀物倉庫、十個分くらいかな?」
「お、『大きな穀物倉庫、十個分』……ですか」
「あっ、でもウチの師匠の方は、その十倍は収納できたかな? 悔しいことだけど」
「お、大きな倉庫、百個分……ですか……はぁ……」
ん?
またサラが深いため息をついている。
どうしたんだろうか?
「いえ、私も幼い時から『魔術の神童』や『天才魔術師』と言われて、ちょっとだけ自信がありました。でも、ハリト君と師匠の話を聞いていたら、自信が木っ端みじんに吹き飛んじゃいました」
「あー、ごめん、なんかサラの気分を害したみたいで」
「いえ、大丈夫です。私は前向きなので。これから精進して凄い魔法使いになります! 将来的には【収納】を使えるぐらいに!」
「そっか……あっ、良かった、【収納】ぐらいなら、オレでも教えられるよ!」
「えっ……あの伝説の特殊魔法を、私も、ですか⁉」
「うん。サラぐらい凄い魔法使いなら、すぐに会得できるはず。今度、ゆっくり教えるね」
「はい、ぜひ! ありがとうございます、ハリト君!」
何故か落ち込んでいたサラに、笑顔が戻る。
良かった。
「ありがとうございます、ハリト君!」
でもグイグイ抱きついてくるのは、少し困る。
彼女の無自覚なで大きな胸が、オレの身体にくっついてくるから。
いや、厳密に言えば、ともて嬉しい。
だけど……ザムスさんの視線が。
ジロリ!
あー、きた。
さっきの翼竜戦よりも。怖い視線が飛んできた。
「えー、ごほん。サラ、そろそろ戻る時間みたいだから」
「あっ、ごめんなさい、ハリト君。私つい嬉しくて」
「そろそろいくぞ。お前たち。ボヤボヤしていたら荒野に置いていくぞ。特に、ハリトを」
「あっ、ザムスさん! 待ってください!」
こうして翼竜討伐の依頼は、無事に完了。
オレたちはムサスの街に帰還するのであった。
◇
無事に街に戻って来た。
あっ、でも前の一眼巨人の骨と、同じようにした方がいいかな?
街の入り口前で、翼竜の翼羽を【収納】から出しておいた方が?
でもザムスさんに止められた。
「いや、そろそろ冒険者ギルドの連中にも“慣れて”もらった方が、いいだろう」
「えっ……“慣れて”ですか? 何をですか?」
「まぁ……お前はあまり気にするな。早く冒険者ギルドに行くぞ」
「えっ、はい?」
よく分からないけど収納したまま、冒険者ギルドに向かうことになった。
冒険者ギルドに到着する。
「うわー、今日もたくさん人がいるな」
冒険者ギルドの中には、多くの冒険者がいた。
待機をしながら、雑談をしている人が多い。
「オレは報告に行ってくる。ハリトは、後で呼ぶ」
「はい、後ろで待っています」
受付のお姉さんに、ザムスさんが任務の依頼の報告。
翼竜の魔石を見せて、討伐を証明してくれる。
こうした細かい作業は、オレは苦手。
だからザムスさんは頼りになる存在だ。
「ありがとうございました、ザムスさん! 今回は翼竜討伐ですか。それにしても最近の《東方の黄昏団》の活躍は、凄いですよね!」
受付のお姉さんは、かなり興奮した感じだった。
何しろ前回は、危険度B上の一眼巨人と、大鬼三匹。
今回は危険度B下だけど、警戒心が強く厄介な翼竜。
普通のランクBの冒険者でも、数日かかる厄介な討伐。
それを《東方の黄昏団》は両方とも、たった一日で達していたからだ。
「そういえば、そこの新しい支援魔術師の人が入ってから、連続して大きな仕事を達成していますよね? 私の気のせいかもしれませんが」
「いや、気のせいではない。その話のついでに、翼竜の素材の買い取りもお願いしたい。いいか?」
「えっ? はい、もちろん大歓迎です。そこの買い取り台に持ってきていただければ、査定して買い取りします。素材は外に運搬屋さんが?」
「いや、そうじゃない。まぁ、“慣れて”もらうためにも口で説明するよりも、見てもらった方が早いな。ところで姉さん、あんたの心臓は強い方か?」
「えっ? 心臓ですか? そりゃ、こんな冒険者ギルドの受付嬢をしているくらいなので、どんなことが起きても動揺はしません。それが、どうかしましたか?」
「いや、そいつはありがたい。ハリト、素材を“出して”いいぞ」
「はい、分かりました」
ようやくオレの出番がきた。
受付カウンターの横の、買い取りコーナーに移動する。
そんな時、冒険者ギルドの中が、少しザワザワする。
「……おい、《東方の黄昏団》の連中が、何かするみたいだぜ?」
「……あの新しい支援魔術師が、何かするのか?」
「……ちょっと見ておこうぜ!」
何やら他の冒険者たちから、ちょっと注目を浴びている。
恥ずかしいから、早く終わらせよう。
右手を出して、よし準備はOKだ。
「えっ? “出す”? どうやって、どこから出す、つもりなんですか?」
「お姉さん、危ないので、もう少し下がった方がいいですよ。それじゃいきます……【収納・出】!」
ボワン!
収納魔法を発動。
ドッ、スーン!
目の前の買い取り台の上に、翼竜の巨大な翼羽が出現。
よし、上手くいったぞ。
それでは査定お願いします、お姉さん。
「え…………?」
ん?
お姉さんの様子がおかしい。
目を点にして、言葉を失っていた。
翼羽を凝視ている。
「「「なっ…………」」」
あと野次馬な冒険者たちも、全員が言葉を失っている。
誰もが目を丸くて、口をぽかーんと開けている。
そんな中、受付のお姉さんが、静かに口を開く。
「えーと……今のは、アナタが……?」
「はい、これは翼竜の素材です!」
「い、いえ……そういう問題じゃなくて……」
ん?
質問の意図が違ったのかな?
何に驚いているんだろう。
そんな時、ザムスさんは間に入ってくれる。
「そんな訳で、こいつは“普通”じゃない。だから今後は“慣れて”くれ。たぶん、これからもっと凄いことをしていくはずだ」
「あっ……はい……肝に命じておきます。まさか私がこんなにビックするなんて……ふう……」
受付のお姉さんは。深いため息をついている。
何やら自信を失った顔をしていた。
「さて、ハリト、サラ。査定が終わるまで、一度、宿に戻るとするぞ」
「はい、分かりました!」
「そうですね。早く、着替えたいわ」
オレたち三人は、冒険者ギルドを出ていく。
すぐ近くの常宿に向かう。
だが、そんな時、近づいている男の人がいた。
「ちょっと、お待ちください! そこの剣士の方! もしや今話題の《東方の黄昏団》ではないですか⁉」
「ん? ああ、そうだが。あんたは誰だ?」
「私はこの街で商人をしております、カネンと申します」
ザムスさんに声をかけてきたのは、商館の経営者。
高そうな服を着て、ちょっと太ったおじさん。
後ろには護衛の剣士が二人いる。
「なるほど。カネン商店の主か? オレたちに何か用か?」
「はい、実は仕事を依頼したくて、探しておりました。街で噂になっている“一眼巨人殺し”の皆さんを!」
「そうか……話を聞こうか?」
おっ、新たな仕事の依頼か。
つぎはどんな仕事なのかな?
オレはあんまり役に立たないけど、精いっぱい頑張ろう。
「実は当商会の定期便が、凶悪な盗賊団に狙われておりまして、護衛を頼みたいのです!」
えっ?
次の仕事は。凶暴な盗賊団が相手?
ちょっと怖いな……。
オレ大丈夫かな。