第13話:新しいメンバーと開幕戦
勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。
兄妹パーティー《東方の黄昏団》に加入して、冒険者として活動開始。
そんな中、幼馴染マリナを助けて、新しいメンバーとなる。
◇
マリナを助けてから日が経つ。
帰りの商隊は無事に、ムサスの街戻ってこられた。
我らが《東方の黄昏団》は、新たな任務に就いていた。
今の任務の場所は、街から少し離れた沼地。
「いたぞ、多首竜だ!」
パーティーリーダーのザムスさんは発見したのは、沼地にいる多首竜。
今回も討伐目標の個体だ。
多首竜の胴体は一つだが、首が何個ある竜の一種。
一眼巨人と同じ、《危険度B上》の危険な魔物だ。
「作戦通りにいくぞ。サラは攻撃魔法で、首の数を減らせ。マリナも同じくだ!」
「分かった、兄さん!」
「任せて、ザムス!」
今回は新メンバーのマリナが、加入してからの本格的な戦闘。
リーダーのザムスさんの指示で、女性陣が動き出す。
「いきます……【風斬《中》】!」
ますは攻撃魔法を得意とするサラが、風の攻撃魔法を発動。
ビューン、グルル!
直後、風の刃が発射。
シュッ、スパァン!
多首竜の一本の顔に、命中してダメージを与える。
次に攻撃したのは女弓士マリナ。
「いくよ……【強射】!」
弓系の攻撃スキルを発動。
強化された矢を放つ。
ヒューン、ズシャ!
こちらも見事に命中。
多首竜の一つ頭に、かなりのダメージを与える。
「やりますね、マリナ!」
「サラこそ!」
女性陣二人は連携を取りながら、すぐさま場所を移動。
ガァアオオオオオ! ガァアオオオオオ!
多首竜の攻撃を、何とか回避していく。
その隙を狙い剣士ザムスさんが、斬り込んでいく。
「はぁあああ! 【斬撃】!」
長剣の攻撃スキルを発動。
ズッシャァアア!
見事、多首竜の胴体にダメージを与える。
だが固い鱗に守られて、致命傷には至っていない。
更に怒り狂った相手は、ザムスさんに攻撃をしかける。
ガァアオオオオオ! ガァアオオオオオ!
「くっ⁉ 危なかった……」
何とかザムスさんは、後方に回避。
相手との間合いをとる。
「兄さん、大丈夫ですか⁉ それにしても相手は、固いですね、マリナ」
「そうね、サラ。しかも首の方は、たしか再生の能力があるから……ほら」
「うっ……せっかく潰した首が、もう再生しています。あれは反則です」
「泣き言を言っている場合じゃないぞ、二人とも。沼の奥に逃げられる前に、仕留めきるぞ。近隣の村の被害を、これ以上は出さないためにも」
あの多首竜はここ数日で、かなりの家畜を襲っている。
このまま放置しておけば、いつかは村人に被害が出てしまうのだ。
「そうね。ザムスが言う通り、ここで仕留めるしかないよね」
「でも兄さん、どうしますか? 地の利は相手にあって、短期決戦には条件は悪いです?」
「そうだな……ふう、仕方がない。アイツの出番か」
「うっ……やっぱりなのですね、兄さん……」
「ハリト! ザムスがOKだって!」
おっ?
ずっと待機してオレに、ようやく声がかかる。
もしかしたら忘れられてしまったか、と若干思っていた。
よし、出番がきたら頑張らないとな。
「それじゃ、三人とも。支援魔法をかけるから、攻撃はよろしくお願いします!」
ふう……意識を集中。
対象は、三人の武器に対して。
あとマリナとザムスさんは身体能力も、少しだけ強化しておく。
「いきます……【攻撃力強化《弱》】&【魔法・威力強化《弱》】&【身体能力・強化《弱》】!」
ビュィーーーン!
よし、無事に発動できた。
あとは頼みましたよ、三人!
「はぁ……嫌な予感しかしませんが、いきます……【風斬《中》】!」
さっきと同じ攻撃を、サラは発動。
杖から巨大な風の刃が、高速回転で発射されていく。
ビューン、グルルッルル!
シュッ、パァーーン!
多首竜の首を、五本も切断する。
次にマリナも攻撃を開始。
「ありがとう、ハリト! いくよ……【強射】!」
弓系の攻撃スキルを発動。
強化された矢を放つ。
ヒューン、ズシャ! ズシャ! ズシャ!
こちらも見事に命中。
多首竜の三つ頭を、粉々に吹き飛ばす。
その隙を狙い、ザムスさんが斬り込んでいく。
物凄いスピードだ。
「はぁあああ! 【斬撃】!」
長剣の攻撃スキルを発動。
ズッッシャァアアアアアンー!
見事、胴体を一刀両断。
多首竜は消滅していく。
「みなさん、ナイスです! お見事! ナイス連係プレーです!」
三人の元に駆け寄る。
念のため周囲も索敵。
うん、他に危険はない。
これで任務は完了だ。
ん?
サラの様子がおかしいぞ。
どうしたんだろう?
「い、いえ、なんでもありません。ですが不思議なモノを、私は見てしまいました。どうして一本しか放たなかったマリナの矢が、三本に分裂して多首竜の三つの首を粉砕したのか……と?」
「えっ、そのこと? あれは【攻撃力強化《弱》】の一種で、攻撃する数を増やしたんだ!」
「『攻撃する数を増やした』……ですか。支援魔法でそんなことを出来るとは、私は初めて知りました」
そんな会話にマリナが入ってくる。
「えっ、サラ? 普通の支援魔法は、矢の数を増やせないの? 私のはいつも増えていたけど?」
「うっ……マリナ、あなた、もしや、ハリト君以外の支援魔術師から、【攻撃力強化《弱》】を受けたことはないんですか?」
「そうだけど。それが何かあったの?」
「や、やはり……だから今まで気がつかなかったのですね。アナタの幼馴染さんは“普通”はないのです。それを基準にすると、世の中の理がおかしくなるのです」
「えっ、そうなの。私はハリトしか知らなかったら、ごめんね。とにかくウチのハリトは凄かったのね! それは嬉しいことね!」
「うっ……兄さん、助けてください。無自覚が二人になってしまいました……」
「だから言っただろう。『お前はハリトのことを甘く見過ぎ。さらに自重しなくなる』ぞって」
「そうですね。私も慣れるしかないですね……はぁ……」
うーん、何かよく分からないけど、三人とも仲良くしている。
特にマリナは加入したばかりだから、二人と仲が良くなってよかった。
「よし、とにかく魔石も回収した。街に戻るぞ。ん?」
ザムスさんの足元に、大きな物体が出現。
鱗の付いた、大きな多首竜の素材だ。
よし、オレの出番だな。
「いきます……【収納】!」
多首竜の素材を収納。
今回もギルドで、高く売れるといいな。
「久しぶりに見たけど、相変わらずハリトの収納魔法は便利よね?」
「まぁ、オレにはこれぐらいしか役に立たないからね」
「でも村でも大活躍していたじゃない? 開拓とか収穫の時とか、ハリトは?」
「あっ、そういえば懐かしいね。色々と便利だからね、この収納は」
「はぁ……超特殊な【収納】を、そんな罰当たりな使い方をしていたんですね、貴方たちの村では」
「「ん? なんか言った、サラ?」」
「いえ、何でもないです、それでは帰りましょう。早く普通の人がいる街に戻りたいです」
こうして四人での初の大物な魔物討伐に成功。
《東方の黄昏団》はムサスの街に、帰還するのであった。
さて、この後はマリナの歓迎会だ。