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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月26日-3


 ・・・キーンコーンカーンコーン・・・・・・


「きりーつ! 礼!」



「あ……」


 …ふいにクラス委員の号令が教室に響き、ようやく今日の学校のすべてが終わったことを僕は知った。

 

 後は家に帰るだけだ。あるいはバイト先を探しに駅前に出るか。一瞬考えてはみたものの、正直そんな気分にはなれなかった。


「はぁ……。帰ろ……」



 …僕は通学バッグを手に取り、がやがやと騒がしい教室をひとり静かに後にした。




 階段を降り、学校の入り口にある靴箱に向かうと、それに隠れるようにして通路側をちらちら見ている人影があることに、ふと僕は気づいた。


 ……綾、だ。


 そういえば何日か前にも、綾はこんな風にしていた気がする。

 やがて綾もこっちに気づいたらしく、いつだったかのように今日もたったと駆け寄ってきた。



「あ、あの……瞬くん。お昼はその……いろいろとごめんね……」

「…その話はもう終わりだって言っただろ。じゃあ……」

「あの! 今日も一緒に帰ってもいいかな…?!」


 正直言って、日名瀬さんとのやり取りもあって、いま綾とはあまり関わり合いたくない気分だった。でも、だからなるべく穏便に断ろうと発した僕の言葉を遮って、そんなことを綾が言い出した。




『…とにかく、その子…綾ちゃん? しばらく注意して見てた方が良いと思う。それと…絶対に変に刺激しちゃダメだよ。いい?』




 ………頭にさっきの日名瀬さんの言葉が浮かび上がる。刺激…とはつまり、昼の時みたいに綾の気持ちや考えを否定するようなことだろうか。

 だとしたら、断固として一緒に帰るのを拒否するのは非常にまずい…ということになる。


 ちゃんと様子を見てろ、という日名瀬さんの言葉も少し気になる。ここは大人しく綾の言う通りにしておいたほうが良いのかもしれない…。



「…いいよ。一緒に帰ろう」

「…! うん! ありがとう、瞬くん!」



 少し考えるフリをしてから同意した僕の言葉に、満面の笑みで綾が答えた。




「ところで……いいのか? 今日って部活ある日じゃなかったっけ」

「うん。今日は顧問の先生に用事ができたみたいで、急にお休みになったの」

「へぇ……なるほど」


「瞬くんは? 今日はバイト探しに行ったりしないの?」

「ん……、それも考えたけど、なんかそんな気分じゃないかなって」

「なぁんだ。行くんだったら私も付いていこうかなって思ってたのに。駅前デート? みたいな…ふふっ…!」


「…ばーか。僕なんかと…「兄貴」とデートなんかしたって楽しくないだろ……って、…ん…? あ……しまっ……」


…言いながら僕は、ふと違和感……というか、デジャヴのような感覚に陥った。こんなやり取りをいつだったか、誰かとしたような……。

 そして、次いで僕はうっかりと否定の言葉を口にしてしまいかけたことに、僅かに焦った。


「そうかな? きっと楽しいよ。だって今だって私、嬉しいし楽しいもん」

「……そ、そっか。それなら良かった…。ふぅ…」


 …良かった。さっきのはセーフだったようだ。否定…といっても何でもかんでも、と言うわけじゃないらしい。あるいは否定にプラスして…何か特定の条件みたいなのがあるんだろうか……?

 だとしたら………。


「瞬くんは? 私といっしょに帰って楽しい?」

「あ、まぁ……、まぁまぁかな。こないだもそうだったけど、いつも一人で帰ってるから、こんな風に誰かとおしゃべりしながら帰るっていうのも……まぁ悪くはないかも」

「ね? そうでしょ? ふふふっ!」


 ……ともかく、今後はもう少し慎重に言葉を選ぶように気をつけないと……。



「な、なぁ。そういえば綾の部活って…何部だっけ?」

「華道部だよ。お花を生けて綺麗にするのが華道だよ…って、前にも言わなかったっけ」

「あ、あぁ。そうだったそうだった。ど忘れしただけだって」

「もう、瞬くんってば……。ふふふっ……」



「………でね、その時先生がクラスの男の子にね……って、聞いてる? 瞬くん」

「え、あぁ、うん。もちろん! それからそれから?」

「そうしたらね、その男の子が先生に言い返したの! なんて言ったと思う?」

「さ……さぁ……。なんだろう……」




「ねぇ、瞬くん。そういえば………」



「あのね、瞬くん……」



「…これ、瞬くんはどう思う?」

「………………」

 …どうにかこうにか、綾のおしゃべりに適当に相槌を打っているうちに、なんとか僕は団地にまで帰り着くことができたのだった。




「じゃあ瞬くん、また明日ね。ばいばい」

「う、うん。明日もよろしくな」



 僕たちの住む家と綾の家は棟が違う。なのでその分かれ道で、僕たちは手を降って別れた。

 …結局綾は最後まで、いつもの綾のままだった。途中、試しにほんの少しだけイジるようなことを言ってみたりもしたけれど、綾はいつものようにごにょごにょと言葉を濁したり、困ったような笑顔のままだった。


 …やっぱりあんな話は日名瀬さんの考えすぎなんじゃないかなぁ……。


「ま、とにかく帰ろ……」


 少しだけ家路に向かう綾の後ろ姿を見送ってから、僕も自分の家路につこうとした。その時だった。


「あら? シュンヤさん? 御機嫌よう」

「え、あ、アル………?」


 ふいに聞き覚えのある声をかけられ、振り向いた先を見ると……目を疑うような情景に僕は言葉を失った。

 確かにそこにアルシアさんはいた。

 アルシアさんは小洒落た買い物かごを小脇に携えながら小道に佇んでいた。いつだったかの絵依子のそれと違って、買い物かごからはフランスパンがにょっきりと生えており、しかしそれがアルシアさんの今の姿と妙にマッチしている。背景が日本の団地であってもなかなか絵になっている。やはり本場の人は違うと言わざるをえないと僕は感じた。


 ………ただ一つだけ。ひとつだけ申し立てをしたいのは、いったい全体何をトチ狂ったのか……なんでこの人は、日中の普通の団地の中で、いわゆる『メイド服』を着て佇んでいるのか…ということだ。


 ……なんなんだ……この人……??????


「あ、アルシアさ…ん?」

「はい。アルシアです。シュンヤさんは今お帰りですか?」

「えぇ…まぁ……。そうですけど……」


「ご学業、ご苦労さまです。もしよろしければ、これから当家でお茶でもいかがですか?」

「あ……はぁ……。ところでその……その格好は一体……?」


「……? 日本では雇用主の身の回りのお世話をしたり、サポートする人は皆このような服を着るものだと伺っていますが……」

「……………」






 …なんていうかさ!! 日本文化、変な風に外国に伝わりすぎじゃね?! 


 そもそも!!! そういう服とかメイドとかって文化は、あんたら欧米とかヨーロッパが本家本元なんじゃないの?!


 こんなに流暢に日本語しゃべれるのにおかしいだろ! なんで気がつかないの!!! 


 このあいだの引っ越しソバや麺つゆもだけどバカなの?! 実はポンコツなの?!




 ……などと思わずまくしたてそうになったのを、僕はどうにか耐えきった。


「…今日はとても良い茶葉も手に入りましたので…ぜひ」

「じゃあ…ちょっとだけお邪魔します」


 

 …いい機会だ。この際にアルシアさんのおかしな、間違った知識を聞き出して修正しよう。この人をこのまま国に帰したら、ますます世界中に日本がおかしな国だと広まってしまいかねないのだから。





 ・・・がちゃり・・・・・・



「ただいま戻りました」

「お邪魔します……って、誰かいるんですか?」


 てっきり家にはアルシアさんだけだと思い込んでいた僕は少々焦った。まさか…ソニアか?


「……遅かったわネ。シュンヤ、こっちに来テ」

「………ッッ……?」


 部屋の奥から返ってきた声は、やっぱりソニアのものだった。きっと今日も偉い人と会食か、打ち合わせにでも行ってるとばかり思っていたので、この想定外の事態に思わず僕は玄関先で固まり、言葉を失った。

 …何よりも、僕が来たことをさも当然のように声を掛けてきたことに……焦った。


 …正直言って、今はまだソニアと会ったり、話をしたくない。昨日あれほど、嫌というほど見せられた現実…格差に、僕はどういう顔をしてソニアに会えばいいのかが、まだ自分の中で整理がついていないのだ。

 歳などほとんど変わらないのに向こうは世界のスーパースター、こっちはしがない、ただの高校生。

 …妬み……の気持ちがまったく無いと言ったら嘘になる。でもそれ以上に、僕は自分の小ささが情けなくて悔しいのだ…。


「……? どうされました? シュンヤさん。どうぞお入りください」

「シュンヤ! こっち! ハリアップ!」



「…………っ……」

 だから一瞬、このまま回れ右して帰ろうかとも考えたけれど、ソニアの僕を呼ぶ声と、アルシアさんの促す言葉に、仕方なく…僕はまたエルンステッド家に足を踏み入れた。



「あの……何か用…かな?」


 昨日取り付けられた、壁をまるごと隠す勢いの巨大なテレビを横目に、取り急いで声が聞こえてきた部屋に行くと、またしても僕は呆然としてしまった。

 その部屋は昨日までとまるで違って、大きなパソコンとそれに繋がった無数のモニター、そしてその前に大きな椅子に座るソニアの姿があった。さながら秘密基地の司令室のような……そんな状態になっていた。


「え……、な、なに? どういう……こと……?」


「…さてシュンヤ。まずハこれを見テ」


 思わずぽかんとしていると、椅子ごとくるりと回転してこっちを向いたソニアがモニターを指差した。


「え……、あ…う、うん……」


 …何がなんだかさっぱり分からない。

 しかしいちおうソニアの言う通りに、僕はモニターに視線を向ける。そこにあったのは、たぶんテレビのデザイン画のようなものだった。


「…見たけど…これが何か?」

「どう思ウ?」

「え…。ど、どうって………」


「アナタはこれヲ見てどう感じたのカと聞いてルの」

「………これ、ソニアが描いたの?」

「…ノーコメントヨ。今日ハ1分あげるワ」


「え…えぇぇ! ま、また?!」


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