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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月25日-2


「はぁ……、はぁ……ひぃ…ふぅ……」

「…シュンヤ、アナタ本当に体力ないネ……」


 仕方なくソニアに付き合い、イケヤに来た僕は……思いっきり後悔していた。


「はぁ…はぁ…、うぅ……っ……」

 そんな僕を呆れたようなソニアの言葉と視線が刺す。返す言葉もなく僕はうなだれた。

 いや、しかし、イケヤでした雑貨や家具などの買い物をタクシーに運び込むこと幾数回。しかも一回一回がすでに山のような量なのである。

 こんなのは僕でなくても、普通の高校生じゃあ荷が勝ちすぎる。そうだ、僕の体力の問題ではないのだ。


 ……そう……思う……、いや……そう思いたい………。



 最後の買い物を運び終え、僕はどうにかタクシーの後ろに荷物を入れ終わった。しかしここも実は難所だったのだ。大量の荷物をうまく組み合わせ、どうにか車の荷室に収めないといけないという、パズルじみた積みゲーだったのである。

 だが…しかし。


「ほおお…、兄ちゃんやるねぇ。適当に入れてたんじゃ絶対入り切らんかったよ、これ」

「……あはは、まぁ慣れてますから…」


 運転手さんからのお褒めの言葉に、思わず苦笑いを浮かべながらそう僕は返した。

 そう、これも我が家の狭さから得た僕のスキルなのである。さほど物が多いわけではない我が家ではあるけれど、それでも長く暮らしているうちに溜まっていくものも少なくない。そういう古い、とりあえずしばらくは使いそうにない物は奥に、そうではない物は手前に。それを基本として、3次元的に収納することで、限りあるタンスの容量や物入れを僕たちは活用してきたのだ。その経験がここで活きた訳である。



「OK! デは次に行きましョウ!」

「…へ? つ、次って……」


 ようやくタクシーの後ろに荷物を全部入れ終え、ホッとしていたところに、耳を疑うような言葉が飛び込んできた。

 …これだけ山のように買い物して、まだ何が足りないというのか。思わず僕は言葉を失いかけた。でも。


「次はTVを買うワ。家電の店に向かってちょうだイ」

「て、TV……ティーヴィー…? って…あ、テレビか……って、テレビ…?」

「ンン…? どうかシタかしラ?」

「……い、いや…。…別に…何も……」


 とっさにそう返したものの、ソニアの考えが僕にはちょっと理解ができなかった。

 ソニアにとって外国であるこの日本で、いったい何をテレビで見たいというのか。

 まさか、いつも絵依子が見ているような下らないバラエティ番組なんかを見たい、なんてことはないのだろうけれど……。


 しかしそれよりも何よりも……ここからさらにテレビをタクシーに積み込む、というソニアの宣告にこそ、僕は軽く絶望するしかなかった。



「………んっ…?」


 そんな風なことを考えていると、ふいに何か強い視線のようなもの……気配のようなものを感じて、僕は後ろを振り返った。でも、別に何事もなかった。店内に入った時のように、遠巻きに僕らを見ながらざわついている人たちがいるだけだった。


 …ただの気のせいか……?








「………え…」

「ねぇ…あれって………」

「あれ……こないだテレビに出てた……?」


 ざわざわ……ざわざわ……


「………む…ぅ…」

 イケヤの近くにあった家電のお店に着くやいなや、ここでも微妙に店内がざわめいたのを僕は感じた。例のバカデカサングラスをしていてもソニアの天才オーラは隠せないらしい。


「オゥ…、なかなか良いネ。ではこれにしましょウ」

 でも当の本人はそんな周りの様子などお構いなしに、テレビのコーナーに向かったソニアが、並んでいたテレビをざっと見たかと思ったらそう言い放って、一台のテレビを指差した。


「え、ソニア、これが…いいの?」

「エェ。これがいいワ。これを買うワ。店のスタッフを呼んできてちょうだイ」

「え、えぇ……でも……」


 さっきのイケヤでの買い物もそうだったけれど、ソニアの買い物は実に豪快だ。彼女が「良い」と判断したら、即断即決で決めていく。ほとんど迷う、ということがない。直感だけで何も考えてないんじゃないかと思えるほどだ。



 ……だから、その買い方には少々アレな面があるように僕は感じた。だから……。


「あ、あの……、ソニア。ちょっといいかな?」

「んン……? 何? シュンヤ」

「このテレビ、本当に必要かな…?」


「ンン? どういうイミかしラ?」

「あそこに置くには大きすぎないかな…? それ……」


 そう、ソニアが選んだのは、僕たちの住む団地の家…部屋に置いたら、壁がテレビで隠れて見えなくなるほどの巨大なものだった。

 ……こんなの本当に買う必要があるんだろうか? これからのソニアの生活に必要なものなんだろうか?

 そう思った僕は、つい口を挟んでしまった。でも。



「…ワタシはイチバンノ物が好きナの。サイコウのモノが好きなノ。コレが今の最高のティーヴィーなら、買わないトいうのは無いワ」

「……あ…、はぁ……なるほど……」


 そのソニアの物言いに僕は一瞬唖然として、……そしてちょっと呆れた。確かに展示されてあるテレビの棚に貼ってある紙によれば、これはつい最近出たばかりの、最新最大、最高の品らしい。でもそんな理由でこんなテレビを買うなんて、僕からすればお金の無駄遣いとしか思えない。

 そもそも他所の国に来て、その国のテレビ番組なんてそんなに見るもんなんだろうか。もしも見るにしても、こんな大画面なんか必要なんだろうか。


 でも、たぶんこれは何を言っても無駄だろう。それにソニアが自分でお金を出して買うものなのだし、あまり横から口出しするのも良くない気もする。思うところが無いではないけど、ここはそっと胸にしまっておくのが良さそうだ。


「お決まりですか? お客様」

「エエ、これヲ買うわ。支払はカードで。今持って帰りタイのだけど、大丈夫かしラ?」

「少々お待ち下さい…確認してまいります」


「……んん? ………!!」


 そんなソニアと店員さんのやり取りをぼうっと見ていると、ふと僕は…突然、急に、唐突にあまりに恐ろしい「事実」を突きつけられていることに今頃気づいた。


 ……まさかこのテレビ……買ったとしたら僕がタクシーに運ぶのか…?!

 これ……一体何キロあるんだ…?


 20キロか……いや、あるいは…30キロはあるかもしれない…。…いやいや……もしかしたらそれよりも…もっと…?




 そんなのを僕一人で車に積んで……そこから家の中に運ぶ……?



 ……無理に決まってる!!!!










「あわわ……わわ………」


 終わった……。




 ……こんなことになるなら、もっと強く反対するか、どうにかしてソニアの考えを変えられるような説得力のある提案をすればよかった。もっと早く気づくべきだった。

 僕のバカ。バカバカ………。こうなったらもう在庫がないことを祈るしかない……!!!




「お待たせしました! お客様。こちらの商品ですけれど、在庫の方ございます」

「オゥ! ラッキーね!」

「…………」



 …やはり終わったか……。


「ただ、こちらの商品は大型で高額なものですので、配送から設置までこちらでやらせていただくことも可能となっておりますが…いかがなさいますか?」

「……ンン…? 今の……ヨく分からなかっタ。シュンヤ?」

「え……へっ?」


 絶望的な状況に魂が抜けかけていた僕に、いきなりソニアが声をかけてきた。…今の店員さんの日本語がよく分からなかった、ということだろうか。しかし、僕にしても今の店員さんの言葉は耳を疑うようなものだった。無料配送…そういうのもあるのか…!

 そしてこれを逃す手はない!


「あの…、つ、つまり、このテレビは大きいから、家に送るのも置くのも、プロの人に任せたほうがいいですよ、その分のお金は掛かりませんよ、ってことでいいん…ですよね?」


 ちらり、と店員さんの顔をうかがいながらそう返すと、店員さんはえっ、とかすかに驚いた顔をしていた。しまった。何かが違ったんだろうか…。


「フゥン…そう。今日のウチに家に置けるナラ、ワタシはどっちでモいいワ」

「…え~、っと…それは……」


 よく解っていないのか興味がないのか、ソニアのサングラスの下の表情はかすかに不機嫌そうだった。そして少し困ったような笑みを浮かべる店員さんの表情は、つまり配送は無料じゃないんだろうと僕は悟った。しかし! 僕もここで引くわけにはいかない!


「……こんな高いテレビ買うんですよ? それぐらいサービスしてくれても良いと思うんですけどぉ…」


 とっさに僕は店員さんにヒソヒソ声で「交渉」した。値札のままの言い値で買おうというのだ。それぐらいしてもらってもバチは当たるまい。決して法外なことを要求しているわけじゃない。

 もっとも、動機としてはただただこんな大きくて重そうで、どこかにぶつけたり落としでもしたら一巻の終わりな代物を自分の手で運びたくない、というものだ。

 動機が不純で利己的なのは自分自身でも重々承知している。しかし、いや、だからこそ、なんとしてでも「配送」をしてもらなければならないのだ!



「え~~、まぁ……そうですね。……分かりました。ではその分はサービスさせていただきます」




 よし! 勝った!

 思わず僕は拳を握りしめ、ガッツポーズを心の中で決めた。

 


「フゥン……じゃあ今日のウチに持って来テ。それデキるならハイソウでイイわ」

「夕方過ぎになりますが大丈夫ですよ」

「じゃアそれで。行くわヨ、シュンヤ」

「あ、う、うん。えーっと…レジは……あそこか」


「それとシュンヤ。ハイソウの場所はアナタの家にしテ」

「え? ま、まぁ別にいいけど……」



 そうして支払いも終え、ソニアの代わりに配送先の伝票も書き、僕らは無事にお店を後にした。なんで配送先が僕の家なのかは謎だけど、まぁ隣なので誤差みたいなもんだろう。

 それにこれだけ流暢に日本語を喋れるようになったとはいえ、さすがにまだ住所みたいなものは覚えきれてないのかもしれない。


 手ぶらで戻ってきた僕たちを見て不思議そうな表情の運転手さんに簡単に事の次第を伝えると、そりゃその方が良い、と同意してもらえた。もしも万が一にでも帰りに事故を起こしたり巻き込まれたりしたら、せっかく買ったテレビもおじゃんになるのだから、と。

 でもお店の配送なら、もしそんなことになっても別の品をすぐに持ってきてくれる。たぶんタクシーでの事故も

保険で弁償はしてくれるだろうけど、すぐに、という訳には行かない。載せていた品物が高額ならなおのことだ、と運転手さんが教えてくれた。

 …結果論ではあるけれど、配送をサービスしてもらえるようにゴネたのも、実は悪くない選択だったのだと、ほんの少し僕はホッとした。動機は不純で利己的だったとしても…。




 やがて、お昼を少し過ぎた時間に僕たちは団地に帰り着いた。僕たちの部屋から少し離れた来客用の駐車スペースに、ふわりと滑り込むように車が停まった。

 そして、それにしても、と僕はまたため息をついてしまった。テレビの件は運良くなんとかなったが、それでもここからまた仕事が残っている。大量の荷物をソニアの家に運び込むという大仕事が。


「は~い。ご乗車ありがとうございました。お荷物…運ぶの手伝いましょうか?」

「そ、そうしてもらえたらありがたいで…」

「ノー。ケッコウよ。運ぶノはシュンヤとアルシアがやるワ。Mrはここにいテ」


「へ……え…ぇっ?」


 …せっかくの運転手さんの厚意を、一刀両断にソニアがぶった切った。そして言うなり、さっさとタクシーから降りてしまった。いったいどうして…。


「あ、あの…ソニア…?」


 とっさに呼び止めたものの、ソニアの足は止まらない。そのまま部屋へと向かっていく。

 少ししてソニアがアルシアさんを連れて戻ってきた。


「でハ、まずは降ろしましょウ。Mr? 開けてちょうだイ」

「あ、はい……」


 ソニアの言葉に、後ろのドアがぱこん、と軽い音を立てて開いた。同時に、荷室に隙間なくぎっしり積まれた状況を見たアルシアさんの、声にならない声が聞こえたような気がした。

 そりゃまぁ…そうですよね……。


「シュンヤ! アルシア! 早ク! ハリアップ!」




 そんな僕たちに情け容赦のないソニアの声が響いた。





「はぁ…はぁ……はぁ……」

「フゥ……フウ………ハッ……」


 どうにかこうにか、部屋とタクシーを何度往復したか分からなくなりながらも、僕とアルシアさんは買ってきた物をすべて部屋に運び入れた。正直言って…かなり疲れた。

 そもそもなんでこんなに疲れたのかといえば、ソニアが停めさせた駐車スペースはこの部屋から結構遠いのだ。部屋のすぐ下の通路に停めれば良かったのに、なんでそうしなかったのか。


「…お疲れさまでした、シュンヤさん」

「あ、はい……アルシアさんも」

「…ごめんなさいね。でも悪気がある訳じゃないんです。あの子なりの優しさなんですよ」

「………?………??」


 ……アルシアさんの言ってる意味がまったく分からない。優しさ…? これが…? 誰にとっての…?






「オゥ……やっと終わったネ。じゃあアルシア、早く開けテ使えるようにしなさイ」


 しかし休む間もなくソニアが次の仕事を命じてきた。


「あ、あの…ソニア? ちょっと休憩しない…?」

「ン…あァ。シュンヤはもういいワ。今日ハありがとうネ。おかげデ助かったワ」

「え、い、いや、そうじゃなくて……まだ手伝うけど……」

「アルシア! 早くしなサイ!」

「…………っっ……!」


 よろよろと立ち上がったアルシアさんが、今度は運び込んだ雑貨や家具の梱包を解いていく。

 アルシアさんに対するソニアの態度はやっぱりどこかおかしい。「姉」に対して、どうしてこんなにもきつく当たるのか。これはもう異様とも思える。

 …けれど、僕にはまだこの二人の関係など何も知らないし分からない。だから……またも僕は口を挟むことはできなかった。


「じゃ、じゃあ……僕はこれで。テレビ…届いたらまた来るよ」

「OK。でハまたネ」



 …バタン


 ゆっくりと閉まっていくソニアの家の玄関のドアを見送ってから、僕も自分の家のドアノブを回した。





「ん……、あれ……?」

「…お、おかえり。お兄ちゃん」


 家に帰ると、ひょこっと絵依子が玄関口に顔を出した。見ればなぜかいつものゴスロリの格好だ。


「…なんだ、お前も出かけてたのか?」

「ま、まぁね…。はぁ…ふぅ……」

「………? ……??」


 …なにか…言葉にならない違和感がある。ゴスロリの格好をしてるのもそうだけど、妙に顔が赤い。息遣いも変に荒い。まるでさっきまで全力疾走でもしてたみたいだ。


「…ふうん……まぁどうでもいいけど……」


 そう言いながら僕はダイニングに向かった。朝からの重労働ではっきり言ってお腹がペコペコだ。もはや何でもいいからお腹に入れないと死んでしまいそうだ……。

 


「お。お帰りなさい、瞬くん」

「え、あ、綾?」

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