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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月24日-4



「「「え……えええええ!」」」



 …まさかの、思っても見なかったアルシアさんの告白に、僕たち3人の声が

ハモった。っていうか僕以外にも、綾も絵依子にもこれは意外だったらしい。

 もっとも、それも当たり前の話だ。だって背も低く童顔のアルシアさんの方が

お姉さんだなんて、誰がどう見たって思うはずがない。


 …強いて言えば、アルシアさんの方が胸だけはソニアさんより大きい。でもそこ

だけだ。アルシアさんが「勝っている」と言えそうなところは。




 …一瞬、これは何かのジョークなんだろうか、と僕は思った。でもアルシア

さんはふざけている風でもない。困ったような微笑を浮かべているだけだ。


「フフ……、なかなかノパーティージョークだったワ。本当ニシュンヤは面白いネ」

「い、いや、そういうつもりじゃ……」


「…シュンヤのジョークニ免じテ…、…それト今日ハパーティーなのだカラ、少し

ハ多目に見まショウ。でもアルシア、自分の立場ハ忘れるナ」


「…………」


 またもソニアさんのキツい口調に、こくり、と無言でうなずいて、次の料理

とやらの準備のためか、アルシアさんがキッチンに向かっていった。それを目で

追いながらも、さっきの衝撃の事実を僕は受け止めかねていた。

 …なぜなら本当にソニアさんの方が妹なら、ますますあの物言いは普通じゃ

ないからだ。まだ日本語に慣れてないから…とも一瞬考えたけれど、だとしても

あの高圧的な態度は説明がつかない。



「……フン…。…シュンヤ、あっちデ飲み直さナイ?」

「え、あ……、そ、ソニアさん…、あの……」


 …さっきの話は本当なのか、と言いかけて、でもすぐに僕は口を閉じた。



 これはなにか…ものすごく複雑な家庭の事情、という奴かもしれない。

 他人のプライベートに軽々に触れるべきではない、という持論はもう捨てた

つもりだったけれど、あまりこれには深く立ち入るべきではなさそうだ。


 …少なくとも…まだ今は。



「ンン?」

「…いえ、なんでもないです。あっち…とは?」


 そう言うとグラスを持ったままソニアさんが、すたすたと歩き出し、僕たちの

家でいうと寝室代わりの和室に入っていった。仕方なく僕もグラスを持ってソニア

さんの後に続く。

 ここも中はリフォームされており、僕たちの家のそれとはまるで違う。畳も

フローリングになっている。その床の上にはベッドがひとつだけ置いてある。でも

他にめぼしい家財道具は見当たらない。


 ソニアさんがそのベッドにぽすん、と音を立てて腰掛け、すぐ横をぽんぽん、

と叩いた。これはつまり……僕にそこに座れ、ということなんだろう。


「さて……、改めテ…再会に……カンパイネ」

「は、はい。乾杯……」



 仕方なくソニアさんと並んで腰掛け、ちょっと緊張しながらグラスを軽く

当てると、かちん、と軽く透き通った音色が部屋に響いた。


「あの…、この部屋って……ソニアさんの寝室ですか?」

「そうネ。キノウノキョウ?だかラ、まだ家具ハこれだけヨ。ダカラ明日モ近くノ

IKEYAに行くつもりヨ」


「へぇ……。ところでこの家の中って…やっぱりソニアさんがデザインしたんですか?」

「こんなノ、デザインと言うほどノ物じゃないワ。まァ…遊んだようナものネ」

「えぇぇ………、これでですか……」


 …遊び半分でこれか。まったくこの人はとんでもないな……。


「ソレにマドリ?は昨日カラ見せてもらってるカラ、すぐニイメージ出来たワ」

「な、なるほど…。でもちょっと分かる気がします。確かにイメージが出来れば、

あとは手を動かすだけですもんね」


「フゥン……? やっぱりシュンヤも『描く人』だったノ?」

「え! い、いや、そんな…、って、ぼ、僕なんかがそんな……描く人だなんて…

おこがましいです……」


「イイエ。ワタシ…、そうじゃないかッテ鎌倉の時カラずっと思ってたヨ?」

「……え! …で、でも…どうして…?!」


 …思っても見なかったソニアさんの言葉に、僕は驚いた。だって僕はそんな

ことは一言も言わなかったし、素振りを見せた記憶もないからだ。

 その僕のどこに、そう感じる要素があったというのか。


「…シュンヤはとても良い目ヲしていたネ。だからヨ」

「…………」


 …良い目とはつまり、鎌倉大仏や、その後で見た龍浄寺の仏像を前にした時に

ソニアさんが出してきた『課題』をクリアできたこと…なんだろうか。

 確かに僕は観察眼や洞察力に関しては、そこそこ自信がある。絵描きにとって

「観察力」は、基本かつ重要なものなのだと、昔読んだ本にも書いてあった。

 だけど、まさかそれがソニアさんが認めてくれるほどだったとは…。


 しかしそこまで認めてくれていたのなら、あの時もっと褒めてくれても

良かったのに、と、少々恨みがましいことを思ったのは内緒にしておこう。


「ねェ、シュンヤ。今度、シュンヤの描いた絵、見せてくれるかシラ?」

「…え…。…あ…は、はい……、また、そのうちに……」


 …でも、続くソニアさんの言葉に、僕は一瞬言葉を失い、その後も生返事を

するしかできなかった。なぜなら今の僕には、誰かに、人に見せられるような絵

なんか描いていないからだ。

 最近描いたといえば、絵依子のカードぐらいしかない。だけどアレは人に…

ましてやソニアさんに見せるようなものではない。



「そ、それにしても…この家は本当にすごいですよ。いっそ空き家になってる

部屋を全部こんな風にリフォームしたら、それだけで全室埋まっちゃうんじゃ

ないですかね…?」


 …この話題が続くと、確実にまずいことになりそうだと僕は感じた。なので

僕は少々不自然だったかもしれないけれど、話を無理やり変えた。


「…ソニアさんたちがここを引き払う時、モデルルームにしたいって管理会社の

人たちが言うかもですよ?」


「フフ…そうなったラ、デザイン料ハきちんト請求させて貰おうカシラ?」

「え、でもさっき、こんなの遊びだって言ってたじゃないですか。遊びでお金

取るんですか?」


「オゥ……! シュンヤもなかなか言うネ! カンリガイシャにさっきのコト

言ったラ絶対ダメヨ?」


 僕の冗談に、けらけらとソニアさんが笑う。

 今なら……これなら…、この雰囲気なら、そろそろ切り出しても良い頃合い

だろうと僕は感じた。


 ……意を決して、いよいよ僕は例の疑問をぶつけることにした。



「…あの、ところでその……この引っ越しの件なんですけど、本当のところは…

どういう…ことなんですか…?」


「ワタシ、ここが気に入った言ったネ。だからしばらくここに住むことにしたヨ。

それだけノことヨ?」


「い、いや、でも……」

「ンン? 信じられないッテ顔してるネ。ナゼ?」

「なぜって……、えっと……」


 …正直言って、確かに今のソニアさんから、嘘をついているという雰囲気は

まるで感じられない。第一、ソニアさんたちが嘘をつく理由も思い当たらない。

 でも、そうは言っても外国人のソニアさんたちが、わざわざこんな団地に…

しかもたまたま空いていたとはいえ僕たちの隣に引っ越してくるなんて、よほど

のことがなければ有り得ないはずだ。


 ひとつ思いつくのは…滞在費の問題だ。ずっと日本でホテル暮らしをしようと

したら、相当かかるだろう。ソニアさんたちがいったい何日、日本にいるつもり

なのかは分からないけれど、仮に2週間としても、それだけでたぶん何十万円も

かかるはずだ。それは下手をすればこの団地の家賃の数カ月分にもなるだろう。

だからホテルに泊まる代わりに団地に引っ越すというのは、案外と合理的かも

しれない。


 ……でも、ソニアさんたちは例のスマホのプロモーションで来日したという話

だったはずで、それなら滞在費は会社が出してくれそうなものだ。それに家具まで

揃えるとなると、結局ホテルの方が安くつくだろう。だからつまり、この線も

おそらくは無いはずなのだ。


「…ところでシュンヤ。ワタシ、日本語うまくなったでショウ」

「え? あ、は、はい…。そう言われてみれば…確かに……」


 …今度はソニアさんから全然別の話を振られて、一瞬混乱したものの、言われて

さっきからの会話を思い返すと、確かに以前よりも…、昨日に比べてもずいぶんと

ソニアさんの日本語は上手くなっている。発音といい文法といい、かなり自然な

日本語に思える。

 たった一日でこんなに変わるものなのか……。やっぱり天才はなにをやっても

天才だということなんだろうか…。


「……どうしてだと思ウ?」

「え、ど、どうしてって……、そりゃ……」


 そりゃあなたが天才だからです、と言いかけた僕の口を、また悪戯っぽい笑みを

浮かべたソニアさんが、グラスを持ったまま指で制した。


「え、あ、あの……」

 グラスからは…かすかにツンとした香りが漂ってきた。これは…アルコールの

匂いか?

 グラスに入れられているのは普通にジュースのはずだ。少なくとも僕のは

そうだ。だけど色は同じに見えるけれど、ソニアさんのは……まさか………。



「…ワタシ、ここが気に入ったネ。シュンヤのことモ含めて…ヨ? 判ル……?」





「………へ………はぁぁっ……??!!」




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