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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月24日-3



「…というわけでさ、あの人は…ソニアさんは別に怪しい人でも危ない人でも

ないんだ。さっき言ったみたいに、知り合ったのだって偶然だし」

「……ふぅん。まぁ…話は分かったよ」


「だいたい、そもそもあんな経歴の人が、僕らをどうこうする意味なんかない

だろ? だけど心配してくれたのは感謝してる。ありがとうな、絵依子」

「う、うん………」


 準備に1時間だけ欲しい、とアルシアさんに言われ、僕たちは家で待機して

いた。その間、少々ぬるく、伸びてしまった引っ越し蕎麦を3人で分けて頂き

ながら、昨日綾にしたように、僕は改めて絵依子にこれまであったことを全部

話した。

 意外にも絵依子は僕の話を素直に聞いてくれた。昨日の朝やさっきのことを

考えるとこっちが拍子抜けするほどに。


「…まぁ、隣に住むってだけなら、直接の問題はない…、か……」


「…ん? なんか言ったか?」

「うぅん。なんにも。ってか、もう1時間経ってない?」

「…確かにそろそろだね。でもパーティーのお料理なんて、普通は1時間じゃ

無理だと思うし……。早くても後30分ぐらいはかかるんじゃ…」


 ピンポーン・・・・・・



 と、そこまでを綾が言った矢先に、ふいにまたチャイムが鳴った。時計を見ると

きっかり、ちょうど一時間が経っていた。ということは、たぶん準備が整ったと

いうことなんだろうか。




「…長らくお待たせしました! それではどうぞご案内いたします!」


 がちゃりと扉を開けると、その向こうで案の定アルシアさんが待ち構えていた。

いちおう母さんへ書き置きを残して、絵依子と綾、そして僕の3人は、お隣さんに

なったエルンステッド家へと向かったのだった。





「ほぉ……お………」


「え、へぇぇぇ………」


「ふわ……あぁぁぁ………」


 ソニアさんアルシアさんの「家」に通された僕たちは、思わず……ヘンな声が

出てしまった。

 なぜならここは……、この室内は間取りこそ僕たちの家と同じと思えるものの、

内装がまるっきり見慣れたいつもの部屋と違っていたからだ。


 …まず僕たちの家のように、部屋を仕切るふすまがない。代わりにあるのは

カーテンだ。そして壁紙も違う。僕たちの家は基本、ベージュの壁紙なのに、

ここのそれはグレーである。しかも面によって少しづつ色味が変えられている。

 でも、たったそれだけのことなのに、まったく雰囲気が違って感じられる。

どこにでもある団地の一室のはずなのに、ここだけまるでデザイナーズマンション

のようにすら感じられる。おまけにそれでいて、間取りは同じはずなのに妙に広く

感じられるという。


「………? ………??」


 普通ならグレーよりベージュの方が広く感じられるはずなのに、膨張色でない

グレーを使って広く感じられる、というのは意味が分からない。だけど現実として

そう感じるのだから、なにか僕は脳みそがバグったような感覚にしばし陥って

しまった。



「な……なんか…すごいね、ここ…。ほんとにうちと同じ団地なのかな…」


 と、僕と同じ感想を持ったのか、ふいに綾がそんなような言葉を口にした。

 確かによくよく見れば、間取りなどは同じということは誰でも分かるだろう。

でも印象はまるで違う。

 実際に変えてあるものはそう多くはない。だけどそのわずかな変化でも効果は

抜群だ。そしてこれを指示したのはおそらくソニアさんなのだろう。


 たった1歳年上なだけなのに、世界を股にかける天才デザイナーであるソニア

さんのセンス…そして力の片鱗に…僕は触れた気がした。





「…ようこそ! 皆さんハ日本デノ…、そして新しイ我が家の初めてノお客様

デス。存分ニお楽しみくだサイ! Skal……カンパイ!」



 僕たちにグラスが行き渡ったのを見て、そうソニアさんが乾杯の音頭を取った。

こうして謎の引っ越しパーティーは始まったのだった。






「ぬふぅぅっっ! こ、このローストビーフ……う…美味ぁぁぁぁっっ!!」


「あらあら、エークさんはお肉がお好きなの? たくさんあるからいっぱい

食べてね?」


「わ…本当に美味しい。これ…どうやって作ったんですか?」

「難しいことはしてませんけれど、ソースに秘密がありますの。これはスゥエー

デン伝統、そして我が家の秘伝のクランベリーの……」


「うほぉぉっっ! こっちの生ハムも美味ぁぁぁっっ!!」


「おまえ……程々にしておけよ……」


 乾杯の後、さっそく絵依子が目の色を変えて肉に食らいつき始めた。なるほど、

あいつの心変わりは、これを予想してのことだったかと僕はようやく悟った……。

 まったく、こんなことにだけ鼻が利くというかなんというか……呆れる他ない。



 それにしても、テーブルに広げられているのは、とても1時間で用意したとは

思えないほどの料理の数々である。やっぱりソニアさんの姉妹だけあって、この

人も常人離れした能力の持ち主なのだろう。ローストビーフに生ハムのサラダ、

色とりどりにトッピングされたクラッカーに、チーズやポテトサラダ、そして何

だかよく分からない、オシャレっぽい料理だ。そこに綾が作ってきた肉じゃがも、

こじゃれたお皿に移し替えられて置かれてある。

 



「あら…、この「にくじゃが」もとても美味しいですね。和風ビーフシチューの

ようです」

「そ、そんなこと……、でもありがとうございます…」

「これの作り方、教えていただいても?」

「はい、じゃあ……アルシアさんのクランベリーソースの作り方と交換でどう

ですか?」

「……あらあら、なかなか取引上手な方ですね。我が家の秘伝と交換だなんて…

ふふふっ!」


「へぇ………」

 絵依子の方はともかく、綾については少し心配していたのだけど、意外にも

アルシアさんと楽しそうにおしゃべりしているようだ。ずっと今まで綾は消極的

で内向的な性格だと僕は思っていたけれど、実はそうでもないのかもしれない。

 ともかく、どうやらあっちはそれなりに盛り上がっているらしい。これなら僕が

間に入らなくても大丈夫だろう。


 そんな風に思った矢先に。



「…アルシア! 口ばかり動かしてないデ、手モ動かしなサイ」

「……あっ! ご、ごめんなさい。す、すぐに次のお料理をお持ちしますので…」 


 急にソニアさんが、楽しそうに綾と談笑していたアルシアさんをまた叱った。


 …そんな二人の様子に、さっきも少し思ったけれど、なにか…ソニアさんの、

アルシアさんに対する態度は、普通の姉妹のそれとは…ちょっと違う感じがする

ように僕には思えた。妙に当たりが強いと言うか、高圧的と言うか。

 それにさっきのように鍋を取りに行かせようとしたりするなんて、まるでソニア

さんはアルシアさんのことをほとんど召使いとか使用人のように扱っているよう

にも見えてしまう。


「あ、あの、ソニアさん。いくらなんでも、そんな言い方は……」

「……ンン? どうイウ意味…カシラ?」


「あ、いや……、その、アルシアさんは…妹さんなんですよね? だったらもっと

こう、言い方があるんじゃないかなって…」

「フゥン…? イモウト……、どうしてそう思ったノ…?」


「え…、そ、それはその…、普通にそう思っただけですけど…」


 だから僕は、そんなソニアさんの物言いに思わず口を挟んでしまった。

 そうだ、姉妹ならもっと言い方ってものがあるはずだ。仮にも血を分けた姉妹…

「きょうだい」なら、例え相手が妹でもそんな偉そうな…年長が主人で、下が

召使いみたいに振る舞っていいはずがない。


「フフ……、イモウト…妹ネ…。くくく……アハハハ!」

「え……え……?」


 でも、僕のそんな思いそのものを笑うように、なぜかいきなりソニアさんが爆笑

し始めた。何ごとか、と絵依子たちもこっちを注視するなか、さっきのソニアさん

の態度にかすかな憤りが湧き出るのを感じていると、おずおずとアルシアさんが

割り込んできた。


「あ、あの…違うんです…、シュンヤさん……」

「…いえ、違いませんよ。妹だからってそんなに卑屈になることは……」

「だから…違うんです。わたくしはソニアの妹じゃなくて、姉…なんです」


「…は………っ…?」


 ……え…?


 あ……ね……?


 あね………って………?




「「「え……えええええ!」」」





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