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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月24日-2



「……今日からお隣ヨ。よろしくネ…!」

「…………は……、は…ぁ……」


 …そう言いながら、悪戯っぽくソニアさんが微笑んだ。だけど…またも僕は

理解がまるで追いついていない。


 ソニアさんたちの言っていることが本当だとすれば、つまり、昨日の今日で、

ソニアさんがうちの隣に引っ越してきた、ということになる。でもいったい

どうして…? 何の理由があって…?

 本当なら飛び上がって喜ぶような出来事のはずなのに、疑問が多すぎて、

とてもじゃないけどそれどころではない。


 そもそもソニアさんともう一人、この『アルシア』さんと名乗った女性との

関係はいったい…?

 いや、ソニアさんよりもわずかに低い身長、そしてメガネに隠れてはいる

けれど、ソニアさんによく似てはいるものの、どこか幼さの残る顔立ち…。

 ということは、おそらくは…ソニアさんの妹さんなのかもしれない。だと

するとスゥエーデンからはソニアさん一人ではなく、いっしょに来たという

ことなのか。

 …でも、それならどうしてあの時はいっしょじゃなかったのか。



「ちょっとお兄ちゃん、いつまで……」


 まとまらない考えがぐるぐると頭の中を回っていると、いつまでも戻ってこない

僕をヘンに思ったのか、ふいに絵依子が玄関先にやって来た。でも、次の瞬間……

この玄関先の光景を見てか、かちんと固まった。


「……な……」

「フフ……、また会えたわネ、エーク」

「ハイ! あなたがエークさんね? わたくし、アルシア・エルンステッドと申し

ます。どうぞよろしくお願いします!」


「……なに…、どういうことなの、お兄ちゃん……」


「い、いや、僕も何がなんだか……」


「……瞬くん、どうしたの? 何かあった……」



 絵依子に続いて、今度は綾まで玄関先に現れた。そしてさっきの絵依子と

同じに、ソニアさんたちの姿を見て、やはりかちん、と固まった。 



「…いったい何しに来たの。あんたたち……」

「オゥ! また怖い顔ネ! でも安心しなサイ。今日はヒッコシの挨拶ヨ」

「……は…あっ…?! ひっ…引っ越しって……、どういうこと?」


 固まったままの綾に代わってか、少し低い声で絵依子が口火を切った。この間

のようにほとんど喧嘩腰と言ってもいい口調だけど、まだこいつには何も話して

いないのだから、それも仕方ないのかもしれない。

 そしてそれにソニアさんがまた涼しい顔で答えると、意味が分からない、という

風情で絵依子が僕を見た。でもそれは僕も同じなので、答えようがない。



「…あ、あの、せ、先日は失礼しました。申し遅れましたけど私…、加賀谷 綾と

いいます」


 と、さっきまで固まっていた綾がやっと我を取り戻したのか、そう言うや

いなや、ぺこりと頭を下げた。


「ン……、あァ、アヤね。改めましテよろしく。フフ…」


「…挨拶に来たんなら分かったからさ、もういいでしょ? こっちは忙しいん

だけど」

「ンン…? またなにか良い匂いするネ。ママさんもいますカ?」


 またあの時のように、不機嫌そうな表情を浮かべてそう言った絵依子の言葉を

華麗にスルーして、ソニアさんが玄関口からうちの中を覗き込んだ。

 絵依子もけっこうなもんだけど、案外ソニアさんも図太いというか、ブレない

ところがあるな…。


「あ、い、いえ…、母さんはまだ帰ってきてないんで…。これは…そこの綾が

さっき持ってきてくれた肉じゃがの匂いです」

「オゥ! 『にくじゃが』!? どんな料理ですカ?」


「あの…、…たくさん作ってあるので、お鍋を貸してもらえればおすそ分けします

けど…」

「オゥ! 嬉しいデス! アヤもいい人ネ! アルシア!」

「は、はいっ!」


 綾の申し出にぱちんとソニアさんが指を鳴らした。つまりこれはアルシア…さん

に鍋を取ってこい、という合図なのか。

 すかさずくるりと踵を返して、隣の…ソニアさんたちの「新居」にアルシアさん

が向かいかけたものの、ふとその足が止まった。



「…ねぇソニア。せっかくだからこれからパーティーにしましょう! シュンヤ

さんにはとてもお世話になったと聞いていますし! その御礼も兼ねて!」


「は……あぁぁぁ…?!」


「アヤさんの肉じゃがをメインにして、あとは……さっき買ってきた食材をオード

ブルに回して…、それなら大丈夫そうだわ……」


 …とんでもないことを言い出したかと思ったら、今度は急にうつむき、ぶつぶつ

と何ごとかをアルシアさんがひとりごち始めた。でも。


「…アルシア、勝手なことをするナ」

「…ッ! ご、ごめんなさい。で、でも…せ、せっかくだからつい……」



 じろり、とソニアさんがアルシアさんを睨みつけ、彼女の提案を一刀両断に

した。確かに今からパーティーなんて、正直言って……とてもそんな気分には

なれない。


 …いや、ソニアさんと再会できたことは嬉しい。それは確かだ。おかげで

さっきまで最悪だった精神状態も、今はもうほとんどいつも通りにまで戻った

ように自分では思う。

 だけどそれとは別に、今度は前にもまして意味が分からないことの連発で、

僕の脳みそはいまだ大パニック状態が続いていて、それどころではまったく

ないのだ。


 あえて言えば…今のこの状況が夢なのか現実の物なのかさえ、僕には判断が

つかないという有様なのだ……。


「…Du behöver bara göra vad du sa. Säg inte själviska saker」

「………」


 …何を言ってるのかはさっぱり分からないけれど、口調と表情から、たぶん

注意とか叱責みたいなことを、続けてソニアさんが言ったのだと僕は感じた。

 僕に対してはこんな風なことは一度もなかっただけに、意外なソニアさんの

一面を見たような気がする…。


 それにしても…さっきも少し思ったけれど、なにか…ソニアさんの、アルシア

さんに対する態度は、普通の姉妹のそれとは違う感じがする。妙に当たりが強いと

言うか、高圧的と言うか。


 …だからなのか、そんな風に怒られ、しゅん、と小さくなったアルシアさんを

見ていると、僕の中に何か…別の感情が湧いてきた。



「い、いや…いいじゃないですか、パーティー。僕も賛成です」


 …そうだ、アルシアさんの提案は逆にいい機会でもある。分からないのなら

聞けばいいのだ。パーティーの席なら、きっとこの謎の引越についても自然に

尋ねられるだろう。


「フゥン…? まァ…シュンヤがそう言うなラ……」

「え! ちょ、ちょっとお兄ちゃん……?!」


「あの……、わ、私も行っていいですか?」


 なぜかあわてたような声を上げた絵依子のすぐ後で、驚いたことに綾が参加を

希望してきた。

 いつも引っ込み思案で消極的で、自己主張もめったにしない綾が、よく知らない

人の家に行くなんて言い出すとは、これはちょっとした事件ですらある。


「えぇ。アヤなら大歓迎ヨ。じゃア肉じゃがはその時ニ頂くワ。……アルシア、

鍋はもういいカラ、準備しなサイ」

「は、はい!」


「え……、ちょっ…あーやまで……」

「…絵依子、おまえはどうする?」


 ソニアさんについて、だいたいのところを伝えた綾と違って、僕はまだ何も

絵依子に話していないのだから、こいつの不信感は相変わらずのはずだ。だから

答えは聞くまでもないだろうけれど、いちおう僕は絵依子に尋ねた。


「……じゃあわたしも行く」

「そっか、じゃあ母さんが帰ってくるまで家の方は任せた……って、えええ?」

「…だって仕方ないじゃん。肉じゃがも持っていっちゃうんでしょ」


「そ、そりゃそうだろうけど……、あ、おまえの分だけ残しておいてもらうか?」

「いいよ、もう。……ってか、なんなの。わたしが行っちゃだめなの?」

「そそ、そういう訳じゃないけどさ…、い、意外だったっていうか…」


 不満げな表情を浮かべる絵依子をどうにかなだめながら、僕は心の中でため息を

ついた。

 ……まったく、いきなりどういう風の吹き回しなのか。綾だけではなく、まさか

絵依子までパーティーに参加したいだなんて。

 本当に妹ってやつは…女の子ってのは訳が分からない生き物だ……。





 そうして結局僕たちは全員、ソニアさんの引っ越しパーティーに参加することに

なったのだった。



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