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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月23日-2



「…あのさ、あなた…いつまでうちにいる気?」

「ンン? そうネ……ワタシここ気ニいったカラ、しばラク泊めテもら……」

「…しばらくって? はっきりして欲しいんだけど!」


 …突然、絵依子の声が……、金切り声が玄関に響いた。


「ちょっ! え、絵依子! おまえ何を……」

「お兄ちゃんは黙ってて!」

「な………」


「あのさ! はっきり言うけど迷惑なの! だから早く出てってよ!」


「………ッッ!!」


 ……こいつは……急に…いったい何を言い出すんだ…?

 よりにもよってソニアさんに…なんてことを……!


「お、おい、絵依子……」

「…今日中に出てって。もしわたしが帰ってきてもまだいたら……その時は…」

「フゥン…? そノ時ハ…?」


 ……でも絵依子の挑発めいた言葉を、面白そうにソニアさんがくすくすと笑い

ながら投げ返す。ってかこれは………なんなんだ?!


「…わたしに出来ないと思ってるの……?」

「ワォ! 怖イ顔ネ! デモ…アナタに決めルチカラ…アル…? フフフ…」

「なに…? いま何て言ったの…?」


「え……、え……」

 ……な、なんだか分からないけれど、とにかくこの空気…雰囲気は…まずい!


「あ、あの、ソニアさん! じゃあ僕たちは行きますので、お腹が減ったら

適当に冷蔵庫のものを…! それと外出するなら、鍵は郵便受けにでも入れて

おいてください!」


 とりあえず僕はそう言い残して、無理やり絵依子と綾の手を引っ掴んで玄関を

出た。

 一瞬後ろを振り返ると、開きっぱなしの扉の向こうには、くすくすとおかしそうに

笑うソニアさんが手を振ってくれていた。






「はぁ………、まったく……」

「…………」


 …どうにか玄関から二人を引き剥がして、僕たちはいつもの通学路をいつも

のように並んで歩いていた。ただ一つだけ違うのは……あれから一言も口を開か

ない絵依子と綾だ。



「絵依子……、おまえ…どういうつもりなんだ…?」

「…………」


「…いきなりあんな訳の分からないことをソニアさんに言うなんて…」

「…………」


「…だいたい、ソニアさんはお客さんなんだぞ。そんな人に向かってあんな…」

「…そう思ってるのはお兄ちゃんだけでしょ。わたしは思ってないから」


「……な………っ!」


 …やっと口を開いたかと思ったら、信じがたいセリフを絵依子が口にした。

失礼にも程があるその言葉に、さすがに僕の我慢も限界だった。



「絵依子……! おまえ……!」

「…それで瞬くん? あの人…誰なの…?」


 とっさに絵依子の肩を掴み、こちらに無理やり向かせようとした時、割って

入るようにして、こっちもさっきから無言だった綾の声が、急に耳に飛び込んで

きた。

 ふと見ると…さっきよりは少し顔色は良くなっているみたいだけど、やっぱり

表情は能面のようなままだ。いつもとまるで違う綾の様子に、僕は…かすかに

気圧されてしまった。


「え…、だ、だから言っただろ、あの人はソニアさんって言って…」

「そういうんじゃないの。あの人…瞬くんとどんな関係なのって聞いてるの」

「え! い、いや、関係って……、その、たまたま知り合っただけだよ。まだ

友達にもなってないっていうか…」


「ふぅん…? じゃあどうしてそんな人が、お家に泊まったりしたの? ねぇ、

どうして?」

「ど、どうしてって言われても……。ソニアさんの勘違いっていうか……」

「勘違いって? どういうこと? ちゃんと説明してくれないかなぁ」


 …なんとも言えないオーラを纏って、次から次へと質問をぶつけてくる綾に、

また僕はちょっとイラッとしてしまった。

 なんなんだ、これは。これじゃまるで尋問じゃないか。


「…うるさいな。なんでそんなこと、いちいち全部綾に報告しなきゃいけない

んだよ」

「うん。ごめんね。でも知りたいの。だから……」

「だから! うるさいって言ってるだろ!」



 …あまりのしつこさに、つい僕の口からそんな言葉が出てしまった。だけど、

僕とソニアさんがどういう関係だろうが、それこそ綾には関係のない話だ。興味

本位なのか何なのか知らないけれど、こっちからすればいい迷惑でしかない。


「…………」

「…………」


「………っ…」


 

 少し言い過ぎたかとも思ったけれど、今ので諦めたのか、やっと綾も静かに

なった。結局それっきり、絵依子も綾も…そして僕も押し黙ったまま…僕たちは

学校に着いたのだった。








「…ふぅ……」



 いつもよりも少し早い時間に教室に入り、自分の席について一息ついていると、

僕を見つけたらしい日名瀬さんが、ささっとこちらにやって来た。


「おはよ、渡城くん。…昨日はどうだった?!」

「あ、うん……。おかげで上手く……いったかは微妙だけど、割と喜んでもらえた

と思うよ。ありがとう」


「そっか! よかった! じゃあお昼にでもくわしく聞かせてね?」

「……え?!」


 ……一難去ってまた一難、とはこのことか。

 この人もどうせ綾と同じで、何か変わった話や面白い話を聞きたいだけなんだ

ろう。そう思うと、うっとおしいとしか感じない。


「ん? どうかした?」

「あ……、いや……なんていうか…その…」


 正直言うともう他人にこの話はしたくない。とはいえメモの件では日名瀬さん

にはお世話になったのも確かだ。だからどう上手く断ろうかと言いあぐねている

と、ふいに始業のチャイムが鳴った。


「おっと、じゃあ渡城くん、後でね!」

「え、ちょ、ちょっっ……」


 チャイムと同時に、風のように日名瀬さんが自分の席に戻っていった。僕に言い

訳をするヒマも与えずに…。

 これは……面倒なことになっちゃったな……。

 ・・・キーンコーン


 カーンコーン・・・・・・


「はぁ……気が重いなぁ…」


 午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、仕方なく僕は購買部に立ち

寄ってからまた屋上に向かっていた。

 今日は幸いにも比較的まともそうなパンを買うことは出来たものの、気が重い

ことに変わりはなかった。


 屋上の扉を開けると、前と同じ場所に座っていた日名瀬さんが、待ってました

と言わんばかりに僕を手招きした。これも幸いというべきか、今日は日名瀬さんの

例の友達はおらず、初めから一人のようだ。




「…さぁさぁ! じゃあ約束通り昨日の話、きっちり聞かせてもらうからね!」

「う、うん……。でも…最初に言っとくけど、そう面白い話はないんだ…」


 …約束なんかした憶えはないけれど、あの時しっかり断れなかった以上は

そう取られても仕方ない。それに昨日は日名瀬さんに……あのメモには助けられた

訳で、それも考えるとそう無下にする訳にもいかないだろう。ここまで来たらもう

観念するしかない。

 仕方なく僕はパンの包みを破りながら、なるべくソニアさんの素性がバレない

ように気をつけながら、昨日の顛末をかいつまんで日名瀬さんに話した。






「……とまぁ、だいたいこんな感じだったよ」

「ふぅぅん……、それは…私のミスだったかも。ごめんね、渡城くん」

「え! い、いや、なんで…?」


 …パンをかじりながら、鎌倉の大仏さんから龍浄寺までのいきさつをざっと

話すと、それまで静かに相槌を打ちながら話を聞いていた日名瀬さんが急に

謝ってきた。意味が分からず、僕は思わずぽかんとしてしまった。


「なんかね…、昨日渡城くんが言ってきたのを聞いて、私…勝手にその人のこと

同年代ぐらいの女の子だって思い込んじゃってたの。でも今の話だと…そうじゃ

なかったのかなぁって」


「え? えぇと……」

「…だからね、私がそう思い込んじゃったせいで、外国の女の子が楽しめそうな

とこを教えちゃったの。そこ失敗しちゃったなって」


 …いや、日名瀬さんのカンは別に間違ってない。ソニアさんは確かに僕らと

同年代だ。

 ただ…あの歳でデザイナーをしているというソニアさんが異常というか、

常軌を逸しているというか、とにかく普通じゃない、ということだけが日名瀬

さんの想定外だったということなのだ。


「しかしなるほど…見るとはただ目で見るだけじゃない、か。深いこと言うね。

いったいどういう人なの?」

「あ、うん…、その…デザインの仕事をしてるって」

「じゃあやっぱりその人、社会人なんだ? ふぅん……渡城くんって、もしかして

結構な年上好きだったりする?」


「いやいや…、そういう訳じゃ……」


 変な方向からの日名瀬さんの疑問に、僕は思わず苦笑してしまった。そりゃあ

僕も健全な男子高校生なので、きれいで優しくて包容力のありそうな年上のお姉

さんは大好きだけど。

 しかし、素性を隠して話すソニアさんは、第三者から見ればそんな風な…かなり

の年上に思われるってことか。


 でも実際に社会人として「仕事」をしているというのは本当のことで、だったら

相応の人生経験も積んでいるんだろう。そう言う意味では、18歳という実年齢より

精神年齢は相当上な気はする。


 …美人で才能があって、おまけに精神年齢も高いだなんて、ほんとに雲の上の

人だな……。



「ま、まぁそれはともかくとして、日名瀬さんのおかげで上手く…はやれなかった

かもだけど、少なくとも喜んでくれたのは本当だよ。だからありがとう」

「うん……。そう言ってくれるのは嬉しいけど、なんか悔しいなぁ…」


 …どうにも納得がいかない、という風情で、日名瀬さんがムッとした表情を

崩さない。だけれど、そんな日名瀬さんの方にこそ、僕も納得できないというか、

理由が分からない。

 自分の勘が外れたことがそんなに悔しかったのか。それとも僕の助けが十分

できなかったことが悔しいのか。あるいは…そのどれでもない、まったく僕の

想像の外の理由によるものなのか。


 …だから。


「とにかく、次があったらまた相談してね。今度こそ、渡城くんの株が爆上がり

するようなプラン立てるから!」

「う、うん。ありがとう。ってか日名瀬さんてさ……」

「ん? なに?」

 

「…なんでそこまで僕に親身になってくれるの?」


 …思わず、つい、そんなストレートな疑問が口から飛び出してしまった。


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