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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
39/58

10月23日-1


-10月23日-




 ちゅん・・・ちゅん・・・


 ・・・ザアァァァァァァ・・・・・・




「んん……、ふあぁ………」


 いつもの鳥たちの鳴き声と、雨音のようなBGMに、ふいに僕は目が覚めた。

 いつものようにふとんの中で寝返りをうつと、えらく下が硬いことに僕は気が

ついた。同時に昨日のことをぼんやりと思い出す。


 そうだ、確か昨日の晩は絵依子のボディーブローを食らって、そのまま僕は

洗面所で気絶してしまったのだ。

 武士の情けなのか、いちおう掛け布団をかけてくれたらしいけど、下は何もなく

そのまま、ダイレクトに床である。そのせいなのか体の節々が妙に痛い。


「…まったく……、絵依子のヤツ……」


 もぞもぞと布団から這い出て、体を起こして僕はひとりごちた。何にそんなに

腹が立ったというんだろうか。思い当たる節なんかまったくない。

 まったく、本当に妹ってのは…女の子ってのはさっぱり理解不能、意味不明な

生き物である。


「そういえば…あれもおかしな夢だったな……」


 ふと僕は、昨日の夜に見ていた夢を思い返して苦笑した。こちらもどういう

訳か、昨日家の前でさよならしたはずのソニアさんが家にやって来る、という

意味不明なものだった。

 まぁ、夢なんて大抵そんなもんではあるけれど、それにしても荒唐無稽、意味

不明すぎる。だから僕はまたひとりで思い出し笑いをしてしまった。



 と、その時。


「…シュンヤ? タオル取ってくれマスカ?」


 さっきまで聞こえていた、ざぁざぁという雨音がふいに止み、代わりに誰か…

女の子の声らしきものが聞こえた。


 ……なんだ?


 …今のは……幻聴……か?



「…………?」


「…シュンヤ? そこイマスネ? タオルを……」

「…へ……あぁぁぁぁぁッッッ!!!???」


 と、次には声だけではなく、浴室の扉が少しだけ開き、その隙間から……手が

にゅっと伸びてきたのを見て、僕は腰を抜かしそうになった。

 今の声は……絵依子や母さんの声なんかじゃなく、間違いなくあの人のように

思えた。そして隙間から出ている白い手からは……ぽたぽたと雫が落ちている。


「え……、ど、どういうこと…? …しゃ…シャワー……????」





 なんだ…これは……。



 いったい何が起きている…?



 僕はまだ夢の途中なのか………?




 いや……、それとも昨日のあれは……まさか現実のことだったのか…?!




「……シュンヤ? どうしまシタカ?」

「え、あ、いや……、た、タオルですね! どど、どうぞ!!」


 あまりに衝撃的で、しかも意味不明な事態の連続に、やっぱりまったく脳みそが

まともに働いてくれない。

 それでもどうにか手近にあったタオルを引っ掴み、浴室の扉からわずかに見えて

いる手に渡して、僕は逃げるように洗面所から飛び出したのだった……。



 

『…では今日のお天気です。関東地方はおおむね晴れるでしょう。東北は…』



 …5分ほど経っただろうか。逃げ込んだ先のダイニングで、とっさにつけた

テレビを無理やり見ていると、ふいに部屋に……まさかの…人物が………、未だに

に信じられないけれど、あの…ソニアさんが入ってきた。

 朝風呂…いや、朝シャワーを浴びた後の、かすかな湯気と…シャンプーの香りを

ふんわりとまとって。


「ヘイ! さっきハアリガトウネ、シュンヤ」

「あわ……あわわ……っっ……」


 …あまりの異常事態に、思わず僕は声を失った。やっぱり……さっきのことも…

…昨日のことも……夢じゃなかったんだ…。


 改めてそのことを認識したものの、やっぱりまだ実感が持てない。湧かない。

これが夢じゃないのなら、もしかして僕は頭がおかしくなったんじゃないか、幻覚

でも見てるんじゃないかとさえ疑ってしまう。

 …それほどこの状況は常軌を逸している。有り得なさ過ぎる。


 おまけに昨日までのツインテールと違って、今…眼の前のソニアさんはまっすぐ

に下ろしたロングヘアである。天才金髪美少女の湯上がりというのが、こうも破壊

力があるとは……。

 あまりにまぶしくて、とても直視などしてられない。


「………?」

「あ、あぅえぁ…っ! い、いや、さ、さっきは…その、す、すいません

でしたあぁぁっ!」

「ンン? オゥ、God morgon( グ モロン)…オハヨウございマスカ?」

「え? あ、は、はい、お…おは、おはよう…ございます…」


 ……我ながら確かにキモいと自覚できるほど、動揺していてまともに言葉も出て

こない。しかしながら、こんな状況になったら誰だってこうなるだろう。


 ソニアさんみたいな美少女とひとつ屋根の下で一夜を過ごして、おまけに扉を

たった一枚隔てただけで、入浴しているところまで見てしまったのだ。健全な男子

高校生としては……興奮を通り越して発狂モノである。未だに自我を失っていない

自分を褒めてやりたいぐらいである。


「あ、あの…。と、ところで……昨日はよく眠れましたか?」

「ハイ。一部屋使わせテもらッたおかげデよく眠れマシタ。シュンヤは?」


「ぼ、僕もまぁまぁです…。あはは……」

「シュンヤ、ワタシに気ヲ使ってあそこデ寝ルとエークが言ってマシタ。sorry……

ゴメンネ」


 ん……? エーク…?


 …今、エークと聞こえたのは絵依子のことか?

 クとコの中間みたいな発音にも聞こえたけれど、スゥエーデン人のソニアさん

には発音しにくい名前なんだろうか。


 それにしても絵依子のやつめ……。そんな言い方されたら、違うとは言いにくい

じゃないか。バカのくせにそういうところだけは頭が回りやがるんだから…。


「あ、あはは……だ、大丈夫です……」




 何とかそう返した時、ふいに僕は違和感に囚われた。妙に静かな朝のダイニング

に、僕はふと違和感に囚われた。そういえばなぜか家の中に、僕たち二人以外の

人の気配がまったくしないのだ。


「あ、あの…、そういえばその絵依子…は?」

「エークはワタシがシャワー行く少し前ニ、ここカラ出まシタ」


「え、あ、じゃあ…、母さんは…?」

「ママさんハ明け方ニ仕事だと言っテ出ていきマシタ。チョウショクは……そこ

ダト」


「……な、なるほど………」


 確か母さんはもう少し遅くに出勤すると聞いていたけれど、急な手術か急患でも

入ったんだろうか。

 それに母さんはともかく、絵依子までいないというのは少々不思議ではある。

時間はと言うと、まだ朝のいつもの時間にもなっていない。今からのんびり支度を

して、ご飯を食べてから出ても十分間に合うぐらいなのだ。朝に弱いあいつが

なんでこんな早くに学校に行く…? しかも一人で…?

 人気のない理由は分かったけれど、それはそれで謎である。


 …だがしかし、ということは…、…今この家には、僕とソニアさんの二人しか

いない…という衝撃の事実に、僕は今更ながら気がついてしまった。


「あ………」

「……? どうかしましタカ?」

「い、いえ……、別に……」


 とっさに僕はソニアさんから顔をそらした。

 …いかん。ダメだと分かってはいても、どうしても顔がゆるゆるになってしまう

のを止められない。


 もう……こうなったら幻覚でも何でもいい!

 開き直ってとことんこの状況を堪能しようではないか!!!



「と、とにかく朝ごはんにしましょうか」

「イイでスネ。ワタシも食べマス」



 さっきソニアさんが指差した冷蔵庫から、母さんが用意してくれていたらしい

二人分のパンとハムエッグと牛乳を取り出し、ささっと朝食の準備を整えて、僕

たちはさっそく朝食を頂くことにした。




「…トコロでシュンヤ? 昨日モでしたガ、さっきノ動作ノ意味ハ?」

「え……?」


 半分ほど朝食を食べ進んでいると、ふいにソニアさんがそんなことを聞いて

きた。さっきの…というと、いただきますや手を合わせる動作…のことだろうか。


「え…えっと…、食材に感謝…というのと、作ってくれた人への感謝…の意味

だったと思いますけど……」


「フゥン……? ナゼ感謝しまスカ。ショクザイ…パンやタマゴにナゼ感謝

しまスカ? それハ食べルためニ作っテいるのでショウ?」

「え……、あ、いや、そういう……問題じゃ……」


 言われてみると、毎日当たり前にしていることなのに、上手く説明できない

ことに僕は一瞬言葉に詰まってしまった。

 ちゃんと理由はある。それは分かっている。でもそれがうまく言葉にならない。


「え、えっと…、だからですね……」


 と、その時。

 玄関の方から、がちゃり、と扉の開く音が聞こえた。


「ん……?」


 一瞬、綾が迎えに来てくれたのかと思ったけれど、確か綾はしばらく体調不良で

学校を休むという話だったはずだ。それに時間もまだ早い。

 となると……いったい誰だ……?



 おそるおそる玄関先に向かうと、そこには…制服に着替えて、通学の用意も

しっかり出来ている絵依子が、扉を開けたまま立っていた。



「…なんだ、絵依子か…。脅かすなよ」

「…ドウかしまシタカ、シュンヤ」

「あ、いえ。絵依子でした。…って、どうしたんだ? 忘れ物か?」


 何だ何だ、という感じで、ソニアさんも廊下にひょいと顔を出した。と、その時。

 


「ねぇ瞬くん………。誰、このひと………」

「え………」


 聞き馴染みのある声が…、だけど…聞いたことのないようなトーンのその声が、

絵依子の後ろから聞こえてきた。

 ややあって、絵依子を押しのけるように前に出てきたのは……、過労だとか体調

不良だとかで、今日も休みのはずの…綾だった。


「…ほら、言ったとおりでしょ……」

「え………」

「瞬くん………。誰、このひと………」


 押しのけられたまま、絵依子がひそひそと綾に何ごとかを吹き込んでいる。でも

真っ白な顔色のまま、無表情で綾が僕を見つめている。まばたきもせずに口だけが

ぱくぱくと器用に動いて、さっきと同じことを僕に聞いてきた。

 その……なにか異様な雰囲気に、思わず僕は口ごもってしまった。


「……瞬くん。誰、このひと」

「え……あ、いや、その…」

「ンン? ワタシ、ソニア・エルンステッド言いマス。アナタハ?」

「…………」


 …何度も僕に聞いた割に、本人からの自己紹介には反応しない。いったい…どう

なってるんだ…?


「……ねぇ瞬くん。誰なの、このひと……」

「だ、だからソニアさんだよ。あ、すみません、こいつは僕の幼馴染で…綾って

言います」

「フゥン……アヤ、ね。ヨロシクネ、アヤ」


「ほ、ほら、綾も挨拶しろって。っていうか……おまえ、今日は休むんじゃ

なかったのか?」

「…うん。もう平気だから。それより瞬くん。そろそろ時間だよ」


「え……?」


 そう言われて時計を見ると、確かにいつもの時間が近づいてきているよう

だった。猶予は5分少々…といったところか。


「わ、わかった。じゃあ…すぐ準備するから、ちょっとだけ待ってて」



 急いで僕はダイニングに戻り、残りのパンと牛乳を胃袋に流し込んだ。幸か

不幸か、昨日は学生服のままダウンしてしまったので、着替える手間は省けた。

 とりあえず手早く洗面と歯磨きを終えて、カバンを掴んで玄関に戻ると、なぜか

そこからは……何か不穏な空気が漂っていた。


「お、おまたせ。じゃあ…今日もはりきって行こうか!」


 相変わらず能面みたいに無表情な綾と、妙に機嫌が悪そうな絵依子の二人からは

やはり普通…とは思えない空気というかオーラが感じられる。

 その謎の空気を吹き飛ばすべく、なるべく明るく元気に、二人に声をかけた次の

瞬間。



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