表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
30/58

10月21日-5



「………!!……」


「申し開きがあるならいちおう聞くわよ。なんか理由があったの?」



 ……しまった。これはまずい……。いろんなことが有り過ぎて、完っ璧に

昨日のバイクの無断使用の件を忘れていた……。

 


「あ、あの…、えっと…その……」



 あまりの緊急事態に、頭がまるで回らない。まずい…まずいぞ。


 …昨日と違って、今母さんは理由を聞いている。

 とはいえ「怪物を探して回るのに使いました」なんて、正直に言えるわけも

ない。かといって、上手くこの場を乗り切れるウソなんか、今すぐに思いつく

はずもない。


 これは…ちょっと…、いや、かなりまずいぞ……。


「…………」



「…どうしたの。黙ってちゃ解らないわよ。まさか急に尾崎にかぶれたって

訳じゃないん…」

「…お母さん、ごめんなさい! わたしのせいなの!」


 言いあぐね、ちらりと一瞬、横目で絵依子を見たとたん、母さんの言葉を

さえぎって絵依子がいきなり深々と頭を下げた。


「え…絵依子……」

「どういうこと? ちゃんと解るように言いなさい」


「あ、あのね…、お休みしてた友達の家にね、プリントを届けに行ったの。

今日までに渡さないとダメだったのに、忘れちゃってて……」


「………ふぅん。それで?」


「…それで…思い出したけどもう遅い時間だったから、あわててお兄ちゃんに

相談して…バイクを出してもらって、渡しに行ってきたの…」


「……そうなの? 瞬弥」

「え、あ…うん。そ…そう。そうなんだよ!」


 …正直、耳を疑うような絵依子のデタラメに、怪しまれないように僕はうん

うんとうなずいておいた。自分のせいにしていいと言っていたあの覚悟が本物

だったことと、あまりの美事なウソに、僕は思わず唸ってしまった。とっさに

よくこんなウソを思いついたもんだ……。


「だからわたしが悪いの。ごめんなさい…!」

 言いながらもう一度絵依子が頭を下げる。母さんは腕組みをして、怖い顔の

まま絵依子を見ていた。


「…そう。事情は分かったわ。話を聞いてると他に方法もなかったみたい

だけど…勝手に私のバイクを使ったことに変わりはないわ」

「……はい」


「そりゃあね、母さんだって昔はヤンチャしてたから、今さらあんたたちに

偉そうにああしろこうしろなんて言うつもりはない。でもね……」

「…………」


「いつも言ってるけど、筋が通らないことだけはしちゃダメよ。いい?!」

「…うん。分かってます。だから…ごめんなさい」

「そういうことをしてると、結局自分が困ることになるのよ。だから私も

筋を通すことにする。…あんたたち、そこに並びなさい」


「ぅえっ……? ぼ、僕も……?」

 急にこっちにまで火の粉が飛んできたので、焦った僕の口から変な声が出た。


「お、お兄ちゃんは関係ないよ! 悪いのはわたしだけだよ!」

「理由はどうあれ、実際にバイクに乗って運転したのは瞬弥、あんたなんでしょ。

だからよ」


 …絵依子がかばってくれたものの、まぁ連帯責任ってやつか。だいたい僕だけ

この期に及んで難を逃れようだなんてのも男らしくはない。

 

 ここは甘んじて受けるとしましょう…。


「じゃあ…覚悟はいい?」

「「はい……」」

 ぱきぱきと母さんが指を鳴らす。昔ヤンチャだったという母さんの拳は

実際かなり痛い。日頃の絵依子のパンチなど、比べれば蚊に刺されたような

もんだ。


 なので、母さんがすうっ、と拳を振り上げた瞬間、僕は目を閉じ、ダメージの

量を想像して見合う覚悟の量を決める。

 予想されるレベルは……最大級の災害級だと僕は判断した。


 少しして………



 …ごつん。


 ごつん。



「……え…?」

「あ…あれ…?」



 小さな音と…頭に…にぶい痛みが走った。でもそれだけだった。

 思わず目を開けると、もう母さんはいつもの通りに戻っていた。


「…はい、これでおしまい。でもまた昨日みたいなことしたら…次は本気で

いくからね。分かった?」

 右手をさすりながら、母さんの顔には笑みが戻っていた。


「…ごめん。ありがとう、母さん」

 意外なほどの寛大な罰に、あわてて僕も頭を下げた。今もわずかに頭の

てっぺんがズキズキするが、この程度で済んだのはラッキーだと言える。


 ちらりと絵依子のほうを見ると、僕ほどは母さんの鉄拳制裁に慣れて

いないせいか、あんなのでも涙目だった。



「あの…お母さん。それで…お詫びってワケじゃないんだけど…これ……」

「…あら。それって……」

「うん。今日ね、あーやもお休みだったから、お見舞いに行ったの。それで

ケーキ買って持っていったんだけど、一緒にみんなの分も買ってきたの」


 涙目のまま、冷蔵庫からおずおずと絵依子が包みを差し出した。見た感じ、

どこにでも売ってそうなコンビニのスイーツだった。


「…はい。これ、お母さんの好きなチーズケーキだよ」

「……ふぅん。いい心がけね。でも、もし初めにこれ出してたら、さっきの

10倍のゲンコツだったわよ?」

 

 受け取って中を見た母さんの顔がほころんだのを見ると、出すタイミングと

しては今がベストだったらしい。

 確かに母さんの性格を考えると、物で釣ったりするのはむしろ逆効果だろう。


「ふふ…今日のところはこのケーキにも免じて、この辺にしといてあげる。

それから瞬弥?」

「え……は、はい!」


「もしまたバイクを使うんだったら、今度からはちゃんと言いなさい。別に

乗るなって私は言ってるんじゃないんだから」

「うん……はい……」


「…とにかく、これは晩ごはんの後にでもありがたく頂くわね。ところで…

綾ちゃんの具合はどうだったの?」

「あ…病気じゃないらしいんだけど…なんかしばらくはお休みするんだって」

「そう…。ずっとお世話になってるんだから、ちゃんとしなさいよ。いい?」

「うん。またお見舞いにも行くつもりだよ」


「そうしなさい。じゃあ…そろそろご飯にしましょうか。あんたたち、早く手を

洗ってらっしゃい」


 すっかり口調も表情もいつも通りに戻った母さんが、僕たちに洗面台に急き

立てた。

 ようやく…一山越えたことで、僕と絵依子は胸をなで下ろした。もっとも……

僕にとってはむしろここからが重要なのだ。

 母さんの声に従って洗面台に向かいながら、僕は例の件を切り出すタイミングを

考えていた。

「「いただきまーす!」」


 ぱんっ、と手を合わせて、母さんが作ってくれた晩ご飯にさっそく箸を伸ばす。

 今日のディナーは海鮮塩焼きそばのようだ。


「あっ! カニ見っけ!」

「違うぞ絵依子。こいつはカニカマだ」


「………これって…ホタテかなぁ?」

「いや、たぶんこいつは超薄切りの冷凍イカだな」


「あんたたち! 喋ってばかりないで食べなさい!」


 海鮮焼きそばと言っても、肝心の海鮮は雀の涙ほどのボリュームしか入って

いない。まぁ昨日はステーキだったのだから、その後遺症がこれなら仕方がない。

予想していたもやし炒めよりはまだマシだろう。



「…もぐもぐ…、ところでさ、母さんって明日は何時に出るの?」


 箸と口を動かしながら、僕はなるべく自然な感じで母さんの明日の予定を

たずねた。そう…まず母さんの予定を確認することが、明日のソニアさんとの京都

お泊りデート計画の実現のための第一歩と言えるだろう。

 今日は一日休みだということは、母さんの次の出勤はおそらく…明日の夕方か、

遅くても夜だと考えられる。


 そうなればバイト探しや面接で、帰りが遅くなる、と伝えておいて、次の日は

絵依子に口裏を合わせてもらえば確実に誤魔化せるだろう。

 これならいける…!! 間違いない!!



「ん? 明日も母さん、一日お休みよ?」


「……へ………?」


「久しぶりの! 丸々一日の休日よぉ! あんたたちが学校行ってる間、母さんは

一日中ゴロゴロするのよぉ! 羨ましい? うっふっふっ!!」

「………!!!……」

「えー! いいなー! わたしも一日ゴロゴロしたいー!」



 ……なん…だと………?





「え、あ、あの、母さん。っていうと、つまり……母さんは明日は一日中、家に

いるって…ことなのかな……?」

「えぇ、そうよ? まぁ買い物ぐらいには行くつもりだけど」


「じゃあ…、夜も………?」

「そうに決まってるでしょ? あ、明日の晩ご飯、何か食べたいものとかある?

久しぶりのお休みだから、ちょっと手の込んだ料理にしましょうか?」


「じゃあ出勤は………?」

「…そうね、明後日の10時過ぎ…ぐらいかしら。あんたたちが学校に行くのを

見送ってからって感じ。それがどうかした?」


「……………」




 ……なんてことだ。まさかこのタイミングで母さんが休みだなんて。まったく

予想も想像もしていなかった……。


 いくらなんでも明後日の朝まで母さんが家にいるんじゃ、どうやっても……

絵依子にアリバイ工作を頼んだって、京都に行って泊まりなんて絶対に無理じゃ

ないか……。



 …いや待て。例えば…福沢くんや斉藤くんの家に泊まりに行く、なんていう

アリバイはどうだろうか。一緒に勉強をする体で……。



 いやいや! 福沢くんや斉藤くんには何も言っていないのだ。急に頼んで引き

受けてくれるとは限らない。むしろ根掘り葉掘り理由を聞かれて、それはそれで

ヤバいことになりそうだ。

 ……第一、仮にそれをうまくやり過ごしたとしても、そういうアリバイに

したら、母さんの性格を考えれば、確実に彼らの家、親に電話するだろう。

「息子がお世話になります」とかなんとかで。そうなったら………100%、一発で

バレてしまうだろう。


 ということは……。


 つまり……どうしようもないって……ことなのか……。





「……瞬弥? 瞬弥って。あんた…どうしたの?」




「………ぇ……?」

「あんた、さっきからこの世の終わりみたいな顔してるわよ。何? どう

したの?」


「ぁ……、イエ……」

「…ヘンな子ねぇ……。それで明日の晩ごはんは何がいい? 牛すじの

シチューは?」

「やったーーー!! 牛すじ! シチュー!! うひょおーーーーっっ!!」


「ぁ……ッ、ハィ…ジャア…ソレデ……」




 …終わった。終わってしまった。僕の野望が……夢が…。


 ……儚い夢だったな……。

「…が小さすぎて読めなぁい! って健さんの?」

「……スズキルーペ、だぁいすき♪」



「あははっ! このシーエム面白いよねぇ! ねぇお兄ちゃん?」

「……ェ…? ぁ、ウン………」


「…もぉ、どうしたの? ご飯の時からずっとヘンだよ、お兄ちゃん」

「ぁ………ィャ……」

「お兄ちゃんの分のケーキも買ってきたのに。食べないの?」

「ゥ……、ゥン……」



「瞬弥ーー! お風呂沸いたから入りなさいー!!」


 …味もよく分からないまま、どうにか焼きそばは平らげたものの、あれから

僕はぼんやりとテレビを見ていたらしい。母さんの声にふと我に返り、時計を

見ると、いつの間にか時刻はもう10時を回っていた。




 …人生最大級の絶望に打ちひしがれながら、僕はのろのろと部屋を後にして、

脱衣所に向かった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ