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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
29/58

10月21日-4



「……ふぅ。ただいまー」


 玄関を開けると、ぱたぱたぱた……といつもの音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん、おかえり~~~!」

「うん、ただいま。母さんは?」

「まだ寝てるよ。もう少ししたら起きてくると思うけど」


 きっと夜勤明けで疲れてるんだろう。僕は母さんを起こさないように、なるべく

静かに玄関を閉めた。


「それで、綾の方はどうだったんだ? やっぱり風邪だったか?」

 靴を脱ぎながら、僕は心持ち小さな声で切り出した。そのとたん、絵依子が、

んー、と微妙な表情を浮かべた。


「…あーやん家に行こうと思ったら、おばさんと道で会ってね。それで話を

聞いたんだけど…よく判んないの。風邪とか病気じゃなくて、なんかカロウ?

らしいよ」



 か……過労? 綾が…?



「それは…よく判らないな。確かに」

「たいした事はないってお医者さんは言ってたらしいんだけど。安静にしてたら

すぐに良くなるだろうって」


「ふぅん……。まぁ、とにかく病気じゃないんなら安心かな」


 ダイニングに入って椅子に腰掛けながら、僕はふぅ、と大きく息をついた。

ともかく綾に大したことがなかったというのは朗報だ。過労というのは正直解せ

ない話だけれど。


「……じゃあお見舞いとかどうしよう。今から行った方がいいのかな?」

 そうは言ってみたものの、時計を見ると現在時刻は5時30分だ。お見舞い……

というか、様子を見に行くにはちょっと遅い気もする。でも今までの僕たちの

付き合いを思えば、行かないのもおかしい。それだけ僕たちは家族ぐるみの付き

合いをしていたのだから。


「う~ん、病気じゃないんだし、お見舞いって言うのはオーバーかも。大事を

とってしばらく休ませるっておばさん言ってたから、明日でもいいんじゃない?」

「………ふむ……」


 確かに過労なんだったら、なるべく安静にしておくのがベストだ。僕も経験が

あるから分かるけれど、そう言う時はとにかく寝るに限る。

 となれば、押しかけられるのは綾にとってあまり嬉しいことでもないだろう。


「そうだな…そうするか…」


 少しホッとしたような気分で、僕は椅子の背もたれに大きく体を預けた。



「それで、お兄ちゃんの方はどうだった? 面接は上手くいったの?」

 と、珍しく絵依子がお茶を淹れてくれながらそう尋ねてきた。見るからに危なっ

かしい手つきで。


 いつも思うことながら、運動神経はいいはずなのに、なんでこいつはこんなに

不器用なんだろう…。


「いいよいいよ。お茶なら僕が淹れるから」

「…むぅ……」



 とぽとぽとぽ…


「はぁ…なんか生き返る…」

 お茶の熱さが、かっと僕の喉を焼く。冬の足音が聞こえ始めた、今の季節の外を

散々歩いた身体の隅々に、まさしく染み渡るようだ。

 


 絵依子はというと、相変わらずちびりちびりと舐めるようにして口をつけては、

そのたび「熱っ!」と言って泣きそうな顔をしている。


 そんないつもの様子を見つめていると、僕の生暖かい視線に気が付いたらしい

絵依子が口を尖らせてきた。



「…お兄ちゃん、バイトの話」

「あ…あぁ、そうだった。とりあえず今回はダメだったけど、次の募集の時に声を

かけてもらえることになったよ」


「…ふぅん……。じゃあそれまではどうすんの?」

「お声がかかったらすぐに移れるように、適当に日雇いか短期のバイトでもしよう

かなって。イベントの設営とか」


「っていうか、そもそも何のバイトだったの? そんなに良さげなとこなの?」

「うん。まぁ時給はそんなに良くないけど、賄い付きでさ。焼肉屋さんなんだけど」


 焼肉屋、という単語を聞いた瞬間、絵依子の目の色が変わった。



「へぇ~! いいじゃん! 焼肉屋さんの賄いって、どんなのが出るんだろ。

サ、サイコロステーキ丼とかカルビ丼とか?!」


 ……またこいつは肉か…。


「っていうか、おまえがバイトするわけじゃないんだから、賄いが何でも

関係ないだろ」

「ちっちっちっ……関係大アリだよ!」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  『こんばんわ! いつも兄がお世話になってます!』


  『おぉ! 君が噂の美人で可愛い絵依子ちゃんか! むさ苦しいところ

  だけど、ささ、入りなさい! ささ! さささ!!』


  『あら? 何かしら。いい匂いが…』


  『はっはっはっ。今ちょうど賄いの時間でね。よかったら絵依子ちゃんも

  食べるかい? カルビ丼』


  『いえ、そんな…。ご迷惑じゃ…』

  『そんな事はない! むしろぜひ食べていきたまえ!』


  『それでは…お言葉に甘えまして…』


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「えっへっへっ。とまぁ、こんな感じ…?」


 絵依子が身振り手振りを交えて、見事な一人二役の舞台を演じきった。





 あぁ、なるほど。あるあ・・・・・・ねぇよ!!!!!





「…いや、夢を壊すようで悪いけどさ、せいぜい焼肉のタレ丼ぐらいじゃ

ないかな」

 世間の厳しさと現実を教えてやると、チッ、と絵依子の舌打ちが聞こえてきた。

まったく、どんだけこいつは肉に脳みそを支配されてるんだ。



「…まぁでも、そういう訳だから、当分はバイトは日雇いとかになりそうだから

夜はいつでも動けるってことだ。おまえとしてはその方がいいだろ?」

「え……、あ、うん…うん! そうだね!」


 現実を教えたとたん仏頂面になった絵依子の表情が、一瞬大きく驚いたように

目を丸くして、次いでみるみるうちにパァッと明るくなっていく。



「…もしかしてお兄ちゃん、そこまで考えてバイト探ししてたの…?」

「え? …はっはっはっ。当ったり前だろ」


 もちろんこれはウソだ。別に絵依子のことだけを考えてバイトを決めてる

訳じゃないけれど、今回は流れ的にそうなってしまっただけだ。しかしこれは

こいつに恩を売る良いチャンスでもあるので、あえて絵依子の勘違いに僕は

乗った。


 ちょうどいい機会だ。ここらで明日のデートのための作戦開始といくか……!


「そっかぁ……、うん、嬉しいな、お兄ちゃんがそこまでわたしのこと、ちゃんと

考えてくれてたなんて…」

「だからそんなの当たり前だって。大事な妹のことを考えてない兄貴なんて

この世にいないんだからさ。当然、僕も含めてね」


「うん…。でもお兄ちゃん…、ありがとう……」


 …ちょっと…というか、自分でもかなり気持ち悪いことを言ってる気はするが、

言われてる絵依子はというと、まんざらではないらしい。

 ダメ押しについでに頭を撫でてやると、「もぅ…」とか言いながらも、また

照れたような、くすぐったそうな表情を浮かべながら、僕のされるがままに

なっていた。よしよし、これはいい感じだぞ…。


「ちなみに今日はどうする? 出かけるか?」


 さらにさらに僕は畳みかける。これで今晩の帰りに牛丼でも食べさせれば、

もはや絵依子は僕のアリバイ工作員となること間違いなしだろう。


「うん! …って、あ、ダメかも。今日はお母さんお休みの日だから、遅くに

おうちを出るのは無理だよ…」

「…え? あ、そうか、言われてみればそうだな…」


「じゃあ明日! 明日にしよ!」

「………!……」


 むむ……。そう来たか。


 どうするか……。少し早いけれど、いちかばちか言ってしまうか。


 …これまでの感触だと、相当絵依子の機嫌は良くなっている。これなら押せば

なんとかなりそうに思える。



「…絵依子。その明日の事でちょっと相談っていうか、頼みがあるんだけど…」


 意を決して僕は明日の件を切り出した。今の絵依子の雰囲気なら9割方いける

はずだ。



「え? なになに? わたしに出来ることなら何でもするよっ」

「………!!!」



 よし! 来た! 勝った!


 我が妹ながら、なんとチョロい……!



 ・・・すすす・・・・・・



 と、その時ふすまの開く音がした。




「ふあぁあぁあああ~~~~。おはよぉ~~~~」


 寝室代わりの和室から、ようやく母さんが起き出して来た。絵依子と同じで、

母さんの寝起きもはっきり言って悪い。


…やっぱりその辺は遺伝なんだろうな…。




「おはよ。まだ寝ててもいいのに」

「おはよぅ~! って、なんか顔色悪いよ? お母さん…大丈夫?」


「ん…大丈夫大丈夫。すぐにご飯の準備するけど、その前に…昨日のバイクの無断

使用の件についての家族会議を開きましょうか…!」



「「………!!……」」



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