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Realita reboot 第二幕  作者: 北江あきひろ
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10月20日-6



「…くそっ! 何かないのか……!」

 考えろ…見つけろ…! あの時みたいに…初めてこいつらと戦った時の

ように、コイツの弱点を探し出すんだ…!



 折れそうになる心に必死にハッパをかけながら、眼前の戦いを目を凝らして

見つめ、頭をフル回転させる。その時。


「たぁりゃああーーーッッ!!」

 だんっ! っと絵依子が大きく地面を蹴って空中に飛び上がった。そして

高く伸びている木を蹴り飛ばした。


「……? 絵依子…?」

「ふシュ・・・フしゅッ・・・」


 木を蹴り枝を蹴り、さらに別の木に移動する。まるで猿かムササビだ。

夜の闇と目まぐるしいその動きに、僕の目ではもう絵依子の姿は捉えられない。

 そして……絵依子の姿が…気配さえもが…完全に……消えた。


「え……?」


 さっきまでの静寂が林の中に戻ってきた。かすかな風に揺られ、かさかさと

葉の擦れ合う音以外、何も…ない。

「ま…まさか…? あいつ…」

 …逃げたのか、と言いかけた瞬間、くるり、と怪物がこちらを向いた。


 どうやら勝てない、と踏んで絵依子は逃げたらしい。それはいい。戦って

やられるより百倍千倍いい。絵依子が無事であることこそが僕の一番の望み

なのだから。


 ただし問題は………一人残された僕を、この怪物が見逃してくれるのか、と

いうことだ。





「ぶしゅルルる・・・・・・」


 …怪物が気持ち悪い声を上げた。あの時と…学校で僕を襲った奴らと同じ

ような声を。

 …全力で道にまで戻ればバイクがある。そうすれば…、いや、こいつの

スピードはバイクでも振り切れないだろう。いや、…いや、それ以前に…

普通の人間の僕なんかじゃ、まずこの場から…逃げられない……?!


「あ……え……、こ、これって……?」


 恐ろしい「現実」を突きつけられ、全身の血が引いていく。このままだと

確実に僕はこの怪物に……「食われる」…。

 にたり、と怪物の顔が嬉しそうに歪んだように見えた。それを見て僕は…

枯れ葉の絨毯に尻もちをついてしまった…。


 その時。


 ザンッ! ザザザザザッっ・・・!


 突然、周りの木のあちこちから音がした。上下左右、ありとあらゆる方向から。


「なっ……っ?!」

「ぐロルるルぅッっ・・・!!」


 音の位置はどこだか分からない。でも、少しづつ近づいていることは分かった。

 やがて……その音もまた消えた。再び静寂に戻った林の中で、怪物がキョロ

キョロと辺りを見回している。次の瞬間…!


「うぉりゃあーーーーーっっ!!!」

 …突如として、逃げたはずの絵依子が、槍を構えて怪物の背後から突撃して

きた!


「ゥぉ・・・おオッっ??!!」


 完全に虚を突かれた怪物は反応しきれていない。つまり絵依子は、この状況を

作るために、逃げたフリをしてたってことか…!

 絵依子の槍がぐんぐんと怪物に迫る。いかに怪物のスピードが速くても、ここ

から避けることは絶対に無理だ!


「よ、よしっ!! 勝ったッ!!」

「ヴぐルルろぉぉォっっ!!!」


 ザゥッ・・・・・・ッッ!




 …でも、僕の想像はまたも外れた。

 背後からの攻撃を、なんと怪物は紙一重で避けた。勢い余った絵依子は

そのまま槍で木を何本もなぎ倒し、終わった。時間が経ったのか、木を

倒したことで力を使い果たしたのか、槍に変化していた右腕が元に戻っていく…。


 …絵依子の予想外からの不意打ち、それを持ってしても、この怪物のスピードを

上回ることは…出来なかった。


「あ……あぁ……っッ…」

「はぁっ……はぁっ……!」


 消えてしまった槍に代わり、すかさず絵依子がオービスからカードを引いた。

みるみるうちに今度は右腕が膨れ上がり、巨人のような拳を錬装した。

 すぐさま新しく具現化した巨大な拳をぶん、と絵依子が振り回すものの、当然の

ように攻撃はかすりもしない。

 踊るように…あざ笑うように…怪物は絵依子を翻弄していた。


 …その時だった。ふいに僕の頭の中に、かすかな違和感とも、疑念ともつかない

ものが生じた。


「……っっ…?」



 この違和感……、それが何なのかはまだ分からない。だけど何かが引っかかる。

 静まり返った夜の林の中で繰り広げられている「戦い」に、漠然とした異常を

僕は感じている。


「コイツ…、いや…、もしかして……?」


 そこから注意して怪物の動きを観察し、戦いの最初のところまで記憶を巻き

戻していくうち、違和感は少しづつ確信に変わっていった。




 …どういうことなのか。どういう意味なのかは分からない。でも最初から

コイツはひたすら絵依子の攻撃を避けてばかりで、自分からは…ほとんど手を

出していないことに僕は気がついた。


「はぁあぁぁぁぁっっ!!!」

「ぐオるるルるうゥゥっ…!!」


 ぶんぶんと絵依子が巨大な拳を振り回し、それをまたひょいひょいと怪物が

かわす。勢い余った絵依子の身体が、ぐらり、と揺れて流れた。


「え、絵依子っ! 危な……ッ!」



 ……僕のような素人目にも、今のは反撃の絶好のチャンスだったように思えた。

なのに怪物はやっぱり手を出さず、絵依子との距離を取ったまま、動こうとは

しなかった。

 これは…いったいどういう事なんだ…?




 ……まさか。



 ふいに頭に、およそ有りえない考えがよぎった。


 僕のこの直感が正しければ…これは「戦い」じゃない…。




 …もしかしてこの怪物は、絵依子を倒す…、いや、戦うつもりが…ない…?





「…い、いや! 待て待て!」

 にわかに浮かんだ考えを、僕はぶんぶんと頭を振って追い出した。そんな風に

考えるのは早計すぎる!

 単にコイツは、絵依子が疲れるのを待って、その後で確実に仕留めようと考えて

いるのかもしれないのだ。



……でも何度思い返してみても、最初の空中での一発以外、コイツは攻撃らしい

攻撃をほとんどしていない。

いくら素早く動けるとしても、攻撃をただ避け続けて、相手の消耗をひたすら

待つなんて戦法は、あまりにもリスキーじゃないのか?


「……??……?…」


 …わからない。まったく分からない。

何かの突破口になるかと思った「気づき」に逆に思考がどんどんと泥沼に

引きずり込まれていく。



「…やっぱりなぁ。そういう事やったんかい」



 その時。唐突に僕の背後で、誰かの声がした。

「……っ!!??」

 思わず振り向いた僕の目の前には、何もいなかった。その代わり、ごう、

という風を巻く音が…僕の頭の上から聞こえた。


 あわててもう一度振り返ると、そこに僕は見た。真っ黒な服に身を包んだ、

小柄な「何か」が怪物に真っ直ぐ迫るのを。


「ぶグるオおおォぉッっ……!! きサまっ……!!」


 突然現れた黒衣が手に持った棒を両手でかざし、いきなり怪物めがけて、

ぶん、と振り下ろした!


それを絵依子の攻撃と同じく、あっさり怪物はひらりと避けて見せた。そして

さっきまでのように、すさまじいスピードで黒衣から距離を取ろうと動いた。


「………っ!!??」

 でも、直後の光景に、僕は自分の目を疑った。

 絵依子がまるで追いつけなかった怪物の動きに、黒衣がぴったりと貼りついて

いる。目まぐるしく動き回り、振り切ろうとしている怪物のスピードに、まったく

遅れを取っていない!!



「……? …い、いや…違う…!」



 よくよく見ると、黒衣のスピード自体は…驚くほどじゃない。むしろ絵依子の

方がよっぽど速いぐらいだ。

 確かに速いは速い。でも…あえて言えば…「人間」の域は超えていない。


 なのに、離れたところから見ていてもなお、目にも止まらないほどの速さで動く

怪物に、黒衣はあくまで「普通」の人間のスピードで追いついている。

 それは…普通に追いつくよりも、逆にもっと異常な事に思える。



 いったい…何なんだ…。なにがどうなってるんだ…?




「ぐルおォルルルっーーーーーッ!!」

 じょじょに怪物の発する不気味な声にも、焦りとも困惑ともつかない色が

混じり始めたように聞こえる。

 逆に黒衣からはどこか余裕のようなものすら感じられる。しゃりん、

しゃりんと金属的な音を鳴らしながら、どこまでも怪物を追いかけていく。


「……ッっ??!!……!?」


 いつの間にか怪物が…木がひときわ密集して生い茂っている場所に追い

込まれていた…!

 追いかけ、逃がさないどころか、怪物の動きを…完全にコントロールしている!



「ふん…、…滅……ッッ!!!!!」



黒衣の発した声とほぼ同時に、大きく振り回すようにして怪物に叩きつけられた

棒の先端が、ぱぁっ、と、まばゆい光を放った。そして少し遅れて…



…ズギュゥッッンン!!



まるで…銃声のような音が轟いた!




「ウ…ぐルあぁ…ア……ァ」

 その音と光にかき消されるように…怪物は見る見るうちにその姿を薄れさせて

いった…。





「え…、な…なんだ…? なにが…どう…なってるんだ…?」


 …まるっきり状況が理解できないまま、怪物が消え失せていくのを呆然と

見つめていると、くるりとこっちに振り向いた黒衣が口を開いた。




「…アンタらが報告にあった連中か。アンタら、いったい何モンや?」





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