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召喚 4

純粋な筋力の勝負ではステータス上、倍近くの差がある為、鍔迫り合いは避けるべきものだ


不意を受けて剣で受けざるをえなかった今もぎりぎりと押されてきており、このままでは押し負けてしまう


だが桐生の剣技はまだ力押しの一辺倒であり、その辺りはVRゲームでの経験により俺の方が上だ、剣を横に逸らし、それにより押し込むだけだった桐生は勢い余って前へと転倒していく


だがすぐに立ち上がると剣を構え直し、俺へと再び斬りかかってくるが、それをまともに受けるのではなく、振るわれる剣に対して横から剣を当てる事で軌道を逸らし、受け流す事に徹する


「ならテメェは大人しく瑠璃が殺されるのを見ていろって言うのかッ!」


「そうは言わない、まだ話し合えば分かって貰えた筈だ!」


「問答無用で襲ってきて、あれで話し合えると本気で信じているのかよ!?」


「だとしても、これだけの惨劇を起こす必要があったのか!?今の一瞬の内に、何人殺したと思ってるんだッ!」


「先に仕掛けてきたのはコイツ等だろうがッ!それに、まだ生きてる、打撃によるノックアウトだけ狙ってたからな!」


「そんな戯言、血の海を作っておいてよく言えるなッ!お前は自分がやった事も認めないのか!?」


「テメェ、一体何を言っていやがる!?」


少なくとも俺が倒したのは数人、そのいずれも止めは拳や蹴り、肘といった打撃技のみで、それも手加減して放っているから死んだ人間はいない、血の海とは言ってもせいぜいが鼻血を流している程度だ


それを血の海だと?過剰表現にもほどがある


「カナ、ソイツ、《混乱》と《幻覚》のバッドステータスがついてる!」


「何だと!?俺の方には何を写ってないぞ!」


少なくともバイザーで見える範囲にはバッドステータスがついてるなんて情報は出ていない、だが瑠璃には見えているという


「表記の後ろに、《偽装》っていう文字が見えるから、多分そうなの!」


「ならお前は何で見えるんだ!?」


「私のスキルにあるの、《看破の魔眼》っていうスキルが!それで見えてるの!」


「そう言う事かッ!」


幾ら桐生が正義感が強いだけの馬鹿でも、あれだけの理由で瑠璃が殺されるという事に反応しない筈が無い


だがバッドステータスによって、《混乱》によって正常な判断が下せる状態でないというのであれば頷ける、そして《幻覚》によって俺が騎士達を血祭りにあげたという幻覚を見たのであれば、アイツは俺を止める為という大義名分を掲げるだろう


そうでなくても俺を悪役へと貶める為に過剰な殺戮を行ったように演出するかもしれない、そしてそれをして得をするのは現状、教会の連中だけだ


「瑠璃、他の連中はどうだ!?」


「ま、待って……うそ、みんな……全員、同じバッドステータスになってる……」


「そうだろうと思ったよ、クソッタレ宗教がッ!」


そして、その瑠璃の言葉に一番動揺した反応を見せたのはあの聖女とかいうベールを身に着けた女だ


その女に改めて《スキャニング》を掛ける、どうやら長い時間を掛ける程に読み取れる情報が多くなるらしい俺のバイザーで、桐生の剣を捌きつつ読み込んでいく


プロフィール、各種ステータスと続いて、次にスキル欄が表示される


スキル:《白魔法》《黒魔法》《女神の加護》……


「何をゴチャゴチャと言っている!」


「グゥッ!?」


もう少しでその内容まで読み取れそうというところで、桐生が攻撃を激しくしてくる


一度目を逸らした事で《スキャニング》はリセットされるが、先程見えたスキルの中でできそうなものと言えば《黒魔法》あたりにありそうだ


どうやら魔法スキルは系統の中に細かに設定されているらしく、そこまで読み込むには時間がさらに掛かる


とはいえ、桐生の方も徐々に動きが慣れていっている感じがある、元からセンスは高かったんだろうが、まさか此処まで早く俺の動きに対応してくるとはな


「おいおい、灰村のやつ、あそこまでするのかよ……」

「どっちが悪役なんだよ……もう、アイツも悪役だろ……」

「桐生くん、頑張って!」

「灰村くん、幾ら誰かのためでも、あんなこと……」


「勇者様、早くその危険な男を排除し、魔族の方を殺して下さい!」


「チッ、白々しい真似を!」


「灰村ッ、僕達の力はこの世界を救うためにある物だ!それを、守るべき人々に向けるお前を許すことは出来ない!」


「救う価値があるのか、俺には甚だ疑問だよ。けどな、これで終わりだ!」


俺のステータスでは桐生には勝てない、少なくとも敏捷で負けている為に攻撃を避けられ、俺が逃げようとしても逃げ切れはしない、まず正攻法ではそうだろう


だから奇策を打つ、一度しか使えない為に次で決めなければ俺だけでなく瑠璃までも終わってしまう策だが、桐生を突破しない限りはこの場を離脱する事もままならないだろう


俺は剣を振るい桐生と打ち合う、そして何度か打ち合った後、剣を持った腕も跳ね上げられ、大きく隙を晒してしまう


桐生はその隙を逃さずに突きを放ってくるが、俺は回避できない一撃を前にしながら自然と笑みを浮かべていた


そして、俺の左脇腹を桐生の剣が貫き、貫通する


「なッ!?」


「ぐぅ……へへっ、捕まえたぜ!」


幾ら混乱していても桐生は人も殺した事がない、そして俺の身体を貫いた感触は、人を初めて深く傷付けた感触は混乱している桐生であっても思考を止めるだろう


そして、俺は痛みで動けなくならないようにスキルを発動させている、《集中》を


《集中》:任意の時間、どのような状態であっても集中力を切らさない状態となる。デメリットとして一時間を超えた使用はその倍の時間を放心状態となる。消費MP0


そのまんま俺が元から持っていた体質と同じような効果ではあるが、少なくとも俺は腹を貫かれても集中力を保っていられる自信はない


だが戦闘中に確認したこのスキルを使えばこのような奇策も使える、そして桐生の剣を持った方の腕を掴み、逃さないようにしっかりと力を籠める


桐生はまだ動揺しているらしくまともに動けもしていないが、その隙さえあれば俺は攻撃を加えられる、捕まえた際に左手の剣は捨てていたが、更に右手の剣も放し、代わりに拳を握る


「これでも、俺はお前の事は信頼していたからなッ!」


主にお前の防御力を、ではあるが


他の騎士と違い手加減してやる必要がない桐生の顔面に、思い切りの右ストレートをお見舞いしてやる


桐生の防御力がどれだけの効果が発揮するのか分からないからこその全力の一撃だが、桐生は宙を舞って床へと叩きつけられる


爽やか系のイケメンだったのに鼻血を流して白目をむいている様は正直にスカッとしたが、それでもまだ一番の障害を排除しただけに過ぎない、本来の目的は此処からの逃走だ


「カナッ!?」


「おう、勝ったぜ。さあ、次だ」


俺が怪我をしたからか心配そうな様子で駆け寄ってくる瑠璃だが、まだ大丈夫だ


桐生の剣が刺さったままではあるが、抜いたら余計に出血しそうだからそのままにしてある、落ち着いて治療が出来るようになった抜こう


そう思ったが、勇者の武器は特殊なのか光になって剣が消えて行ってしまう、恐らくは桐生が気絶したからだろうが、それにより出血が目に見えて増えていき、スーツを赤く染めていく


ああ、これは少しマズいかもしれないな……


「勇者様の犠牲により、奴は手負いだ!一気に仕留めるのだ!」


「まあ、もう一踏ん張りってところかね!」


少なくとも騎士達を全滅させる必要はない、どうにかして出口へと辿り着ければ、後はAGI(敏捷)の違いで逃げ切れるだろう


だがバイザーに表示された新たな情報に、俺はその方針を転換する、少なくとも出口から自らの足で逃げるよりは勝算の高い方法が出来たからだ


その為にも少しは時間が必要なんだが、口を使って時間を稼ぐとするか


「ちょぉっと待つッスよ!」


だが口を開こうとしたところで聞き慣れた声が聞こえてくる、今まで静観していた遠藤だ


「よお、遠藤。お前も邪魔をするか?」


さっきまでの桐生の言葉で学校の連中は俺が騎士達を惨殺したと思い込まされているから、今までの関係が拗れて俺を止めに来たという可能性もある


だから落とした剣を拾い直し構えるのだが、遠藤は手持ちの槍を捨てると俺と同じく剣を拾い構える


わざわざ適性が槍にあるというのに、俺と同じ土俵で勝負しようという理由が分からない


「んー、ウチとしてはセンパイと争いたくはないんッスよねえ。なので、ちょっとだけ待ってはくれないッスか?」


「それは、どういった意味だ?」


教会側は、俺と騎士達の間に遠藤が現れた事で手を出しかねているようで、騎士達も大司祭の方へと指示を求めるように視線を向けている


それに手で待てと指示を出す大司祭だが、もしかして遠藤はまだ味方なのか?


「取り敢えず、斬り合ってみれば分かるッスよ!」


「クッ!?」


かと思ったが遠藤は俺へと斬り掛かってきた為、俺はそれを剣で受ける


衝撃が脇腹に響くが、スキルの影響で集中力は途切れる事が無い


そのまま鍔迫り合いになるが、そこで遠藤は声を落としてきた


「それで、センパイには此処から逃げる手段があるって事ッスよね?」


「お前、どっちなんだ?」


「センパイ達が言ってた状態以上なら、ウチや司センパイには効いてないッスよ。なんか弾いたような気配がしたから、警戒していた分、抵抗できたんッスかね?」


それは裏を返せばクラス連中は警戒をしていなかったから幻覚や混乱をしたということだが、そうか、コイツ等は真実を知っているのか


俺も声を落として答えつつ、今の状況の意図を訊ねる


「それで、お前はこれからどうするんだ?俺達と逃げるか?」


「それなんッスけど、ウチと司センパイは此処に留まるッスよ。いざという時、センパイにこっちの様子を教えられた方が良いッスよね?」


「成る程、スパイって訳か」


「そうッス。で、センパイはどうするッスか?必要なら逃げるの手伝うッスよ」


「いや、大丈夫だ。お前はタイミングを合わせて離れてくれるだけで良い。俺の職業の特性、その一部をお前に見せてやるよ」


「へえ、それは楽しみッスね。じゃあ、瑠璃センパイのこと、後は任せたッスよ」


「ああ、お前は本当に良い後輩だよ、陽葵」


「ブッ!?い、いきなり名前呼びは卑怯ッスよ!?」


「それだけお前を認めたって事だ。じゃあ、またな」


「分かったッス。センパイ、怪我してますけど、お元気でッス!」


別れを済ませると遠藤は、陽葵は後方へと跳ぶ


そして左手首の端末を素早く操作し、俺は逃走手段を確保する


「来い、《マスタング》ッ!!」


そう呼び掛けると教会のステンドグラスを突き破り、鉄の巨人が現れる


色とりどりのガラスの破片を撒き散らした巨人は、全体的に角ばった武骨なデザインであり、サンドカラーの塗装を施され頭部はバイザー状のカバーの奥に大きな単眼(モノアイ)か光を放っている


コイツの名前は《マスタング》、AFWに於いてプレイヤーに最初に与えられる中量級のAFだ


装備はまだ右手に持ったアサルトライフルと両膝に格納されているナイフ二本と初期装備だが、今の状況では十分だろう


「う、うわあぁぁぁっ!?な、何だコイツは!?」

「きょ、巨人!?《(フェーロ)騎兵(・カヴァリエーレ)》だと!?」


「な、何だよアレ!?ファンタジー世界じゃなかったのか!?」

「ロボット!?そんな物があるの!?」

「と、取り敢えず逃げないと!踏み潰されちゃうよ!?」


教会内部へと侵入してきた《マスタング》に激しく動揺する連中を尻目に、俺は瑠璃を抱えてコックピットを目指す


いつもなら膝をついた駐機状態で乗り降りするのだが、今はステータスが上がっているので立っている状態であっても胴体部のコックピットまで飛び上がる事が出来た


コックピットのレイアウトは全くゲームと同じであり、操作の違いなどは感じられない


瑠璃はシートの後ろで我慢して貰うとして、俺はシートとスーツを繋いで体を固定すると操縦する為にレバーを握り込んだ


「ああ、同じだ。全く同じだ」


「カナ、この機体どうしたのよ?まだ使えない筈じゃなかったの?」


「コイツはな、レベルが10を超えたら自動的についてきたんだ。とはいえ、最初期にプレイヤーが貰える、一番性能は低めの機体だけどな」


それでも大きな力になってくれるだろう、それは逃げ出している騎士達の様子を見ても分かる


レベルだが、桐生との戦いの後で一気に跳ね上がり、今ではレベル12だ


どうやらゲームと同じように格上を倒すと大量の経験値を貰えるらしい


その結果、レベルが10を突破した時に貰えたのが《マスタング》と、スキルに追加された《ハンガー》という物だ


《ハンガー》についてはまた後日使用する事があると思うが、今は使えるスキルではない


「俺達は真実を探しに行く。そして、その真実によっては、俺はお前達と敵対するだろう。追いたければ追えばいい。だが、目的を邪魔するというのであれば俺は一切の容赦をしない。次は殺し合いになるかもしれない。そうはならない事を祈っているよ」


最後に外部マイクのスイッチを入れ教会と、学校の連中へと告げる


出来れば学校の連中とはそうはなりたくないが、俺達はこの世界について何も知らない


だから知る為に外に出る、そしてその結果として教会と、この国と敵対する事になるかもしれなくても、真実を求める


この瞬間、俺達は向こうの連中とは違う道を選択した


願わくば、次に会う時に殺し合いにならない事を願いつつ


それだけ言うと、俺は《マスタング》を操作して教会の外へと向かわせる


破壊した巨大なステンドグラスのあった穴から見た初めての外は地球とは比べ物にならない程に澄んだ青空をしていた

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