召喚 2
この場の全員が注目する中、桐生がクリスタルに触れると光が溢れ、桐生の姿を包み込んだ
そして暫く経ってから光が収まると、そこには純白の鎧を身に纏い、腰に剣と弓を提げた桐生の姿があった
「凄い、力が溢れてくる!」
そして次にクリスタルが上へと光を放つとそこには投影されたディスプレイのような物が浮かんでいた
◆
名前:桐生 正義
年齢:16歳
性別:男
職業:聖騎士
称号:《異世界人》《勇者》
レベル:1
HP:500/500 MP:500/500
筋力 :500
防御力 :500
魔法力 :500
魔法防御:500
敏捷 :500
◆
まるでゲーム画面のようなその数値に俺達はこの世界の法則を理解した、ゲームのようにステータスによって戦闘力がある程度は決まる世界、ここはそういった法則が存在する世界なのだと
「スッゲー!マサヨシ、何だよそれカッケー!?剣士、騎士?ともかくスッゲーカッケーって!」
「成る程、武器や鎧も一緒に出てくるんですね。正義さん、よくお似合いですよ」
「すっごーいっ!ねえねえ、このステータス?って強いの!?」
身内の姿が急に変わった事でテンションが上がっているのか桐生の取り巻き達は先程までの悲壮感は何処へやら、桐生の周りに集まってはしゃいでいる
そして俺も気になってはいたのだが、この世界のステータスの基準が分からなければ比較のしようがない、取り敢えずは何でも出来そうなオールラウンダーといった様子が分かる程度だ
「おお、何というステータスだ!」
「レベル1でこれとは、人類は救われたも同然ですな!」
「ああ、女神リリウム様、あなた様の慈悲のお心に感謝致します」
だがこの世界の連中のざわめき具合からして、この世界でもかなり高いステータスのようではある
「なあ、これなら何とかなるんじゃね?」
「ああ、それになんたって勇者だからな。日本より良い待遇になると思うぜ」
「もしかして魔法とか使えるのかな?ちょっと興味出てきたかも!」
そして、それを見て希望を持ったのか続々とクリスタルに触れていく生徒達
それでもあまり動こうとしないのは戦争に駆り出されるという事を忌避している谷口先生と、まだ様子見をしている俺達くらいだ
「ハハッ、オレ盗賊だってよ!犯罪者じゃねえよな?」
「剣士、と出ていますけど、私の見た目って侍ではありませんか?」
「美月は魔法使いだって!魔法使えるよ、魔法!」
そんな中で椎名もまたおずおずと手を伸ばしクリスタルへと触れる
その姿が光に包まれ、収まると法衣と杖を持った姿で現れ、ステータスは魔力関係のステータスが高く、治癒師と表示された
性格的に直接戦闘を行うタイプには見えないからだろうが、まあ似合ってはいるな
桐生の取り巻き連中は軽装にナイフ装備となった新嶋、日本の鎧の胴体部分と鉢金を身に付けた委員長、そして杖と三角帽子をかぶった綾瀬を始め、次々にクリスタルへ触れていく
それぞれ武器と防具が共に現れ、ステータスが表示されていくが、しかしいずれも桐生程に高いステータスは無い
「ステータスはこのカードを使っている後から確認する事も可能です。一人一枚お配りしますので、まだ覚醒石に触れてない方もお受け取り下さい」
そして案の定、予想通りの物品も存在しているらしい
ステータスというシステムが一般的に認知されている以上、当然と言えば当然だが実際に目にする事になるとはな
クリスタルでの覚醒は一人ずつなので時間が掛かる、その待ち時間の間に俺達はステータスカードとやらを受け取り、まだ何も映らない表面を眺めていた
そして、残るは俺達四人と先生のみになった
「さあ、勇者様。是非とも覚醒石へと」
「で、でも、私は教師としてこの子達を戦争に駆り出す貴方達に協力するのは……」
「ですが、力はあって困る物ではありません。いざという時、他の勇者様方を守る力にもなるでしょう」
まあ先生はそうだろう、だが帰れる手段が役目を果たす、つまりは魔王の討伐辺りであるならば戦う他はない、俺達にはこの世界で他に伝も何もないのだから
「分かり、ました……ですが約束して下さい。決して生徒達を犠牲にするような真似はしないと。そうでなければ貴方達に協力はしません」
「勿論です。元はと言えば此方が勝手にお呼びした事、そのような非道な真似は女神リリウム様に誓って致しません」
「なら良いのです」
本当にそれが口約束に過ぎないなんて物じゃなければ良いがな
とはいえこの場はこう言うしかない、クリスタルに触れた先生も他の生徒と同じく光に包まれ服装が変化する
ステータスは全体的に高めで、全てが300を超えており、職業の欄には魔物使いと出た、どうやらこの世界にもちゃんと魔物という存在はいるようだ
「後はボクたちだけだよね?どうするの?」
「あ、なら先に行ってきて良いッスか?こういうのってワクワクするッスよ!」
「おう、俺は後で良いわ」
「ならば我が最後になろう。我が真の力を披露するには相応しいであろう」
「それでしょっぱいステータスで恥かかなければ良いけどな」
「う、うるさい!」
おい、足を何度も踏みつけてくるんじゃない、地味に痛いからやめろ
だが瑠璃自信は非力でまだ耐えられない程でもないから大人しく耐える
そうこうしている内に先に行った遠藤が覚醒を終えた
桐生よりは軽装に見えるが要所は金属製のプレートに覆われており、手には短めに見える槍、ステータスの職業欄には槍兵と出ている
そしてステータスだが、なんと敏捷が600超えと、単一のステータスだが初めて桐生より上が出た
「おお、槍投げ齧ってたからかこうなったッスよ!」
「それで敏捷も高いのは陸上部だからか?それにしても、槍か」
「自害せよ、ランサー」
「愉悦的な展開はお断りッスよ!?」
瑠璃の振ったネタに反応する遠藤だが、実のところ俺も職業欄を見てそう思った
そして次に司が覚醒したのだが―――
「えっと、どうかな?」
「おお~、これは何というか、庇護欲をそそるッスね~」
―――遠藤の言うようにかなりブカブカなローブを身に纏い魔導書らしき本を手に戻ってきた
その見た目通りに魔法使いという職業なのだが、正直、背伸びをしようとしている子供にしか見えない
「うへへ、男の娘ショタ最高ッスね」
「うわぁ!?奏多、瑠璃ちゃん、助けて!」
「さて、次は俺か。行ってくる」
「うむ、しっかりと見届けてやろう。行くがよい」
「ちょっと無視しないでよ!?たーすーけーてー!」
遠藤の奴、単なる腐女子だと思っていたがショタコンでもあったんだな
確かに司は背が低めで童顔、遠藤より年上でも下手すると小学生に見られかねない
今までは抑えてたのかもしれないが、あのブカブカの服装を見て歯止めが利かなくなったらしい
とはいえ今すぐに何らかの害が出る事はないだろうから、俺は背後から聞こえてくる司の声を無視してクリスタルの下へと行く
さあ、これからの展開に於いて何をするにも重要な俺のステータスだ、落ちこぼれステータスとか、そういった物ではない事を祈りつつ、俺はクリスタルに触れた
触れた途端に光を溢れ視界を埋め尽くすと胸の辺りへと温かな感覚が流れ込んで来て、そこから徐々に全身を包み込むような感じへと変化していく
肌に触れている服の感触が学生服とは別の、それでいて良く知っている物に変わったのを感じた時、視界が開けてクリスタルの上に表示されたステータスが目に入った
◆
名前:灰村 奏多
年齢:16歳
性別:男
職業:傭兵操者
称号:《異世界人》《焼き尽くす凶星》
レベル:1
HP:350/350 MP:150/150
STR:300
VIT:200
INT:100
MND:100
AGI:450
◆
「おい表記!?」
いやまあ俺は分かるけど、ゲームやってれば分かるし他の連中のがそっくりそのまま置き換えられてるだけだけど、何で俺だけ英語なんだよ!?
あまりに予想外すぎて思わず叫んだわ!
「ええと、これは、ステータスは本人に最も分かりやすい形で表記される物で、個人によっては差はあるのですが……」
「ああ、そうッスか。まあ表記がおかしいだけで、内容は同じなんで」
宰相からのフォローで何とか納得はする
まあ確かに慣れ親しんだゲーム表記の方が俺はやりやすい、他が理解出来るかは別として
取り敢えず変えられないし、特に問題がないのであればと納得し、俺はより細かくステータスを確認する、するのだが……
「まさか、此処でもこの格好をする事になるとはな……」
自分の服装を見て苦笑する、職業の傭兵操者だが、これはAFWに於けるプレイヤーの事だ
あのゲーム、プレイヤーの立ち位置は傭兵という事になっており、AFのパイロットの事をランナーと呼ぶ
そして所属に応じて頭に名称がつくんだが、幾つかある勢力に所属しているNPCには○○・ランナーといったように固有の名前がつく
ただしプレイヤーは特定の勢力に所属する事が、現時点での仕様では出来ないので頭に傭兵とつく
そして、今の俺の格好は懐かしいことにオリーブドラブという黒と黄色を1:1で混ぜ合わせて作る軍の装備や戦闘服に使われる標準的な色をした操者用の耐Gスーツだ
左手首にはメニュー画面を開く時に使っていたリング状の端末、頭にはサイバーパンク風のサングラスに見える、様々なサポート機能を持つバイザーと、その辺りもゲームと同じか
ステータスを見ればAGI特化といったところだが、これはゲームでの反射神経や動体視力が関わってきているからだろう
ゲームではAGIが高いと回避が多くなったりするし、間違いはないだろう
さて、他は……誰だよ《焼き尽くす凶星》なんて呼び名を知っていたのは!ゲーム内で他の一般プレイヤー達が俺につけたアダ名じゃねえか!
ゲーム内で街を歩いてたら「あ、凶星さんチーッス!」「凶星さん今度の対戦の手応えはどうッスか?」とか他のプレイヤーから呼ばれてたんだからな!
名付けた奴と広めた奴、絶対に赦さん
いや、それよりも一つ気になる事がある、今までの連中は全て称号の欄に《勇者》とあった
だが俺にはない、このパターンは―――
「おい見ろよアイツ、《勇者》の称号がないぞ!」
―――チッ、先に気付かれたか、だがいずれ気付かれる問題だ、それが早まっただけだ
「本当だ、何でアイツだけ《勇者》じゃないんだ?」
「皆持ってるのに、灰村だけ《勇者》じゃないって事じゃね?」
「やっぱりゲーム廃人なんかが《勇者》な訳がないよな」
「確かに、《勇者》の称号がない」
「馬鹿な、女神様の神託では全員が《勇者》という話だったではないか!」
「だがしかし、あのステータスの高さは他の《勇者》と遜色ありませぬ。見慣れぬ職業と称号が見えますが、どのような物でなのでしょう?」
この国の連中の他は男子生徒からの言葉だが、基本的に俺を嫌っている連中だからどうでもいい、だがこの《勇者》でないパターンは、今後の活動の中で大きな足枷になるだろう
国からの支援が他より少ないとか、さらに悪ければ今すぐに追放、最悪は不要とされて殺される事だ
幾らなんでもこの場で殺される事はないだろうが、隙を見て暗殺とかされたら堪ったもんじゃない
幸いにもステータスは他と同じくらいであり、AGIに至っては桐生より少し劣る程度だ、戦力として不要とはされないだろう
取り敢えずは戻りつつ、ステータスカードで何か見逃している点がないかをチェックしよう
そして改めてステータスカードを見たのだが、そこにはクリスタルに触れた時に映ってはいなかった項目が増えている
存在しないのかと思っていたが、簡略化されていただけだったらしいそれは《スキル》だ
多分、他の連中も使える魔法の種類が書いてあったりするのだろうそれは、俺の職業の意味を教えてくれるものだった
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スキル:《AF召喚》《AF簡易召喚》《スキャニング》《集中》
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そんなスキルを確認したのだから、俺のテンションが上がらない訳がない
いくらファンタジーも好きだと言っても、一番好きな物がないのは苦痛だ
だが点滅していたスキルの部分を押した後、俺は少し落胆した
俺の能力はAFを呼び出す事だ、ならそのAFは何処にあるのかと言うと―――
《AF召喚》:所有するAFを何処でも呼び出せる能力。消費MP100
※現在所有のAF0機
―――今の時点では俺が呼べるAFは存在しないという事が分かったからだ
だがこの世界でもAFが呼べる、少なくとも存在する事が分かったのであれば他の事なんてどうでも良くなってきた
魔王とか知ったことか、俺はこの世界で、現実の中でAFを思う存分乗り回してやる!