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召喚

「うぅ……」


どうやらあの強い光のせいで気絶していたらしく、目を覚ませば机に突っ伏して倒れていた


まだはっきりとしない視界の中で周囲を見渡して見れば少しばかり暗くなってはいるが教室の中だ


窓の外の様子がいつもと違うように見えるが、少し経った後で視界が回復してきた俺は近くでまだ気絶しているらしい瑠璃達の肩を揺する


「おい、起きろ」


「う~ん、何が起きたのよ?」


「何か光った気がするけど……」


「あうぅ……揺られてちょっと気持ち悪いッスよ……」


取り敢えずコイツ等には怪我はないらしくホッとする


見れば教室のあちこちでも目を覚まし始めた生徒がいるらしく、呻き声と共に動き出していた


まず仲間の無事を確認したところで改めて現状の確認をする、場所は変わらずに教室の中ではあるが天井の照明は全て消えており薄暗い


そして教室だが、揺れで割れたのか窓ガラスは外も廊下側も全て割れてしまっており、その近くには破片が散らばっている、窓の近くに偶然人が居なかったのが救いだ


そして窓の外だが、いつもなら遠目に木々が見えるところを、今は白い壁が見える


テレビで見た古い建物のような雰囲気の壁だが、反対の廊下側の方から外を見て俺は自分の目を疑った


見慣れた廊下はなく、向こう側に見えるのは鎧を纏った騎士のような人間達に教会の人間が着ているような法衣を纏った人間達、そしてそれとは違うが上等な生地を使っているのであろう豪奢な衣装を纏った人物と、他よりも格が上らしく金糸があしらわれた法衣を着た人物が数人だ


西洋風のファンタジーゲームにでも出てきそうな人達だが、先程の現象を考えるに可能性として幾つかの仮定が出てきた


そしてそれは瑠璃も同じらしく、向こうには聞こえないよう小声で話し掛けてきた


「今の状況、カナはどう思う?」


「十中八九、お前と同じ考えだよ」


俺にしか会話してないから、素の状態になっている瑠璃は俺の事をカナと呼んだ


奏多(かなた)から取った愛称らしいが、女の子っぽい名前だからやめて欲しいと言ってもやめてくれないし、二人だけの時しか使わないから最近は諦めている


それよりも瑠璃も俺と同じ考えらしく、俺達は小声で揃って口を開いた、せーのっ


『異世界召喚』


一言一句違わぬ答えを口にして俺達は小さく笑みを浮かべ合い、この後の展開を語り合う


「ここは召喚に使用した教会ってところだろうな」


「ええ、でもまさか人間だけでなく教室を丸ごと切り取ったように召喚されるとは思わなかったわ」


教室一つが綺麗に残ってるもんな、俺もこれは初めてのパターンだ


「まあカバンとかも全部揃ってるし、今の内に荷物を確保しておこうぜ」


「そうね、何かに使えるかもしれないし」


教科書の入った通学カバンを体操服を入れていたりするスポーツバッグに丸ごと入れる


体操服だけで余裕があるからすんなり入った、少し重く感じるが


それとまだ開けてないカレーパンと缶コーヒーもバッグに入れる、あんパンは空腹だと選択肢が狭まるから俺の腹に素早く納めた、急いだ事で喉に詰まって取っておこうとした缶コーヒーを飲み干してしまう結果にはなってしまったが、まあ良いだろうが


だが周囲はようやく状況を飲み込み始めたばかりだ、そんな中で動き出していた俺達はクラスの連中から余計に目立っていた


「灰村くん、どうしてそんなに落ち着いていられるの?瑠璃ちゃんも」


「ククク、如何なる時も平静に振る舞う事など、我には造作もない事よ」


「まあ、物語としてはありがちな展開になりそうだからな」


向こうも、召喚を行ったらまさか建物ごと呼び出す事になるとは思ってもみなかったのか、遠巻きに此方の様子を伺うだけだった


だが中に居るのが俺達みたいな、まだ子供といっても過言ではないような雰囲気の人間ばかりだと分かれば接触してみようと思うだろう


現に、背後に騎士を二名連れて豪奢な衣装を着ている男が近付いて来ているからな


その前に荷物を纏め終えた俺は、改めてクラスに居る連中の顔を一通り確認する


まずは俺と瑠璃と司と遠藤の四人、そして桐生や椎名達の五人、クラスで常に三人一緒に行動している仲良し三人組の女子達と、その三人組と一緒に話していた担任の先生、その他同じクラスや他のクラスでそれぞれ交遊関係のある面々、全員で24名だな


大人と分かるのは俺達のクラスの担任で英語教師の谷口 優香里(たにぐち ゆかり)先生くらいだ


特に付き合いがないから知らない連中も居るが、今のところは置いておこう


それで、近付いて来た男の方だがどんな展開になるだろうか


「コホン、初めまして異世界より召喚された勇者様方。私はブレンダン・アーキソンと申します。ここヴィレージュ王国の宰相を務めている者です」


発している言葉は全くそう言って恭しく頭を下げる宰相と名乗った男


大体の展開は予想していた事で俺と瑠璃は特に驚きもせず、周囲は逆に騒然としている


「勇者?」

「異世界って、どういう事なの?日本じゃないの?」

「何かのドッキリなんだよな?そうなんだよな!?」


まあいきなり異世界だの勇者だの言われれば混乱するのは仕方のない事だろう、ネット小説やゲームを始めとして様々な媒体でこの手の話に慣れきっている俺と瑠璃が特殊なのだ


「混乱するのは無理のないことと思います。しかし、誠に勝手ながら皆様はこの世界、《リリウム・ガーデン》へと召喚されたのです。この国を、ひいては人類を救う為に」


「どう見る?」


「まだ分からないわね。一つの情報源のみで判断するのは迂闊よ」


「同感、『騙して悪いが』ってパターンも王道だからな」


真摯な様子で説明を続ける宰相を観察しつつ、俺達は分析を続ける


こうして召喚されて用済みになったから、期待した能力じゃなかったから死ね、とかも有り得るからこそ初手を間違えたくはない


「まずは大人しく従っておいて、情報収集だな」


「そうね。それに、この世界の法則も確認しないと」


異世界だと魔法の力とかで物理法則が通用しない事は定番だからな


他にも俺達にそれぞれレベルが存在していたりもあるが、そこは判明してから対応していくしかないか


「あの、宰相さん。まだ上手く理解できないですけど、人類の危機とは何なんですか?」


「おっと、正義の味方サマのご登場だ」


「そう言えば正義感の強いキャラが引っ張っていくっていうのも王道よね。名前も正義(まさよし)だし、確かにそんな役よね」


俺達を除けば一番に平静さを取り戻したであろう桐生が手を上げ、おずおずと訊ねた


誰かが答えなければ先に進まないとはいえ、桐生が答えたとなると後の展開も大体が予想出来るな


「この国は今、魔王軍の侵攻により、危機に瀕しております。しかし、聖女様が女神様より異世界からの勇者を召喚すれば危機に抗う事が出来るとの神託を授かったのです。お願い致します、異世界の勇者様方。勝手なこととは思いますが、どうかこの世界を、人類を救ってはいただけないでしょうか!」


「お願い致します、勇者の皆様。(わたくし)達の国を、無辜の民を助けて下さい!」


宰相の隣に出てきた他より上質な法衣を着た同い年くらいの少女がその聖女か


だが、それはつまり戦争へと駆り出されるという事であり、事態を上手く把握出来ていなかった連中もようやく理解したようだ


「ふざけんなよっ!?それって俺達に戦えって事だろう!?」

「そうだそうだ!勝手に呼んでおいて、戦える訳がないだろう!」

「つまり戦争って事だろ?ボク等はただの学生なんだぞ……」

「戦争、イヤだよぉ……わたし、死にたくないよぉ……」

「直ぐに日本に帰してよ!私達には関係ないじゃない!」


怒る者、泣く者、様々な反応があるが大きく分ければその二つだ


俺も何の力も無ければ御免被る、召喚されると何らかの恩恵が得られたりするものだが、今のところは何の変化も感じられない


荷物を持った感じはいつもと変わらないし、魔力や超能力といった不思議パワーに目覚めた様子もない


それは瑠璃も同じようで、表情を見れば緊張で固くなっていた


「皆、少し落ち着いてくれ!!宰相さん、確かに撲等はあなた方に勝手に呼ばれた身です。それで戦って欲しいと言われても、どうしようもないんです」


「そ、その点でしたら心配は御座いません。それに勇者とは役目を果たせば帰還する事も出来るという事も神託で伝えられているのです!おい、例の物を!」


騒ぎだして収拾のつかなくなりそうだったクラスの連中を桐生が宥めると、今の内にと宰相が背後に控えていた騎士に声を掛ける


その騎士は急いで後ろの方へと駆けていくと人の頭ほどもあるクリスタルのような物が載っている手押し車を押して戻ってきた


「これは覚醒石と呼ばれている石でして、伝承によればかつて召喚された勇者様に力を与えたとされています。これに勇者様が触れれば奇蹟を起こし、勇者様方の眠れる力を引き出してくれる筈なのです」


どうやら、何も能力がないという状態は脱却できそうだ


俺も、そして瑠璃も一先ずは安心に胸を撫で下ろし、そして引き出される能力という物に興味が移っていた


俺もゲーマーだ、一番はやはりロボット物だが、ファンタジー系のゲームだって齧ってはいる


特に国民的RPGとも言える二大タイトルや、その他のメーカーの物は幾つもクリアしてきた、それで興味がないなんて事、あるわけがないだろう


「さあ、勇者様。まずはこの石に触れて下さい。そうすれば貴方様は絶大な力を得るのです。この世界を救う為の力を」


「分かりました、やってみます」


そして、俺達の視線をその背に受けつつ桐生は宰相から促されるままにクリスタルへとその手を伸ばしたのだった

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