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プロローグ 4

「いやあ、今日も間に合って良かったな」


休み時間に購買部で無事パンを購入することが出来た俺は昼休みになった今、教室で席を幾つか繋げていつものメンツで昼飯を食べようとしていた


買ってきたのはあんパンとカレーパン、そして飲み物に自動販売機で買った缶コーヒー(微糖)だ


定番なだけに大量に入荷しているパンは到着した頃にはまだ半分は残っていた


一番人気のメロンパンは売り切れだったが、今日の気分としてはカレーパンだったから問題ない、あんパンは辛さを楽しむ為の前菜だ


「でもいつも購買部のパンばかり食べてるよね、奏多は。飽きたり、ご飯が食べたかったりはしないの?」


「いや別に。ご飯ならおにぎりも売ってるし、たまに変えてるだろ?」


「それはそうなんだけどさ、栄養バランスとか考えてないよね?」


「美味ければ良いんだよ。一々バランスなんて考えてられるか」


そう言う司は自分の弁当箱を開けていた


乙男は料理も趣味らしく、自分の弁当は自分で作っているのだ


そして瑠璃だが、此方も弁当を持ってきている、二人とも色とりどりなおかずが詰まった小さめの弁当箱だ、色合いが見ていて可愛らしい


「そう言えば、あの子は?」


「時期に来るであろう。ところで我が従僕よ、それならば我が施しをしてやらぬでもないぞ?今さら一人増えたところで、我にとっては些末な問題に過ぎぬ」


「あー、いや、いつも言ってるように、話は嬉しいんだが、友達にそこまでして貰うのはな。気持ちだけ貰っとく」


「うむ、そうか……ならば仕方ないな」


瑠璃の弁当だが、実はこれも瑠璃の手作りだ


瑠璃の家は両親が共働き、というか父親の秘書を母親が勤めているから普段はあまり家に居ないのだ


そして中学生の妹が一人、この間小学生になったばかりの双子の弟達がいて家での家事などは瑠璃と妹が担当している、鮮血の(ブラッディ)伯爵令嬢(・ラ・コンテス)さんマジ家庭的


そして俺だが、親父の教えにより借りはあまり作りたくないのだ


親父の教えというのは幾つかあるが、その内の一つが『友となるならあまり借りは作るな、貸しは全て忘れろ』だ


俺の親父は硬派な人間で、破るようなら直ぐに鉄拳が飛んでくる


別に俺も嫌ってはいないから守ってるけどな、なんか格好いいし


あんパンの袋を開け、取り敢えず一口齧ろうかとした時、廊下から誰かが走っているような、というか走っている音が聞こえてきた


この感じ、完璧にアイツだな


「センパーイッ、来たッスよ!」


「いつもいつも、よく上級生の教室に食いに来るよな」


やって来たのはショートヘアーに天真爛漫な笑顔を浮かべてビニール袋を持った女の子だ


制服のリボンの色は緑の瑠璃とは違い赤で、今の一年生の色だ


陸上部に所属しておりやや日に焼けた健康的な肌、鍛えられたスラリとした体型で、背も瑠璃より少し高めの彼女は遠藤陽葵(えんどう ひまり)、この間入学したばかりの一年生であり、俺がいつも学校でつるんでいるメンツの最後の一人だ


何で一年生なのに俺達と一緒にいるのかと言うと、まあ変人だからだな


具体的に言うと趣味をオープンにし過ぎなのだ、同じ趣味の人間はいるだろうがオープン過ぎて話をしに行きにくいという評価らしい


なお、その趣味というのは―――


「あ、司センパイ、センパイにお弁当をあーんってして貰えませんか?もしくはセンパイが司センパイをぎゅっと抱き締めるでも可ッスよ」


―――腐っているのだ、主に俺と司のカップリングを妄想して鼻息を荒くしている


というのも初めて会った時、俺は司と一緒に教師から頼まれてプリントを運んでいた


俺が多く持って移動していたが、それでも体格の小さな司には負担が大きかったらしく、足元が見えないまま階段を踏み外して転がり落ちそうになったのだ


そこをプリントを放り投げて助けたのだが、その際に頭を打たないよう、背後から抱き抱える形で転倒した


それを目撃した遠藤はそれからというもの俺と司をくっつけようと画策している


普段は悪い奴ではないんだが、腐ってくると暴走するのだ


「まあそれはそれとして、センパイもパンッスね」


「唐突に話題を変えてくるな……まあ、いつも通り惣菜パンだけどよ」


「ウチと同じッスね!」


「自慢できる事じゃないけどな」


手作り弁当を持参してきている司に女子力で負けてるって女子としてどうよ?


サバサバした性格は取っつきやすくて付き合いやすいから俺は好きだけどな


さて、改めてあんパンを一口―――


「あ、灰村くん、一緒にご飯食べて良いかな?」


「椎名、お前いつものメンツは良いのか?」


―――食べようとしたところで今度は椎名が来た


普段、俺達は瑠璃と司との三人でつるんでいる


そこに今年から遠藤のやつが加わり始めたのだが、椎名はスクールカースト上位だけあってそれに見合った友達が居る


俺との縁が出来たとはいえ、出来るならそちらを優先して欲しい、主にその連中が気に食わないからだ


こうして時間を取っているといつもの如く、ほら来た


「鈴音、皆待ってるから早くおいでよ」


椎名の背後から声をかけてきたのは桐生正義(きりゅう まさよし)、学年どころか学校一ともされる美形だ


爽やかな印象を受ける整った顔立ちで成績は学年3位、サッカー部に所属しエースと、非の打ち所がないイケメンだ


今も人好きのしそうな笑みを浮かべているが、俺はコイツが大嫌いだ


「こんな所で無駄な時間を過ごす必要なんてないでしょ?ほら、皆待ってるんだから」


俺達の事を指して()()()()とは言ってくれる


桐生の指し示す方には椎名に向かって手を振る連中、制服を着崩してチャラチャラしたヘアスタイルの新嶋 翔琉(にいじま かける)、黒髪をストレートにし切れ長の目をした大人びた美少女の佐倉 朱莉(さくら あかり)、身長が150センチもない小学生に見える少女の綾瀬 美月(あやせ みつき)といった面々だ


いずれもスクールカースト上位、桐生の取り巻きとクラス委員長、クラスのマスコットになる


「でも、灰村くんと話したいし……」


「俺は良いから行けよ。向こうの方が話して楽しいだろう、絶対」


「灰村くん……」


正直に言うと桐生が余計な事を口走らない内にさっさと連れていって欲しい


椎名とは良い友達だと思ってるが、俺達と話していると必ずと言っていい程桐生が介入してくる


幼稚園からの幼馴染という話だが鬱陶しいことこの上ない


「灰村、確かに僕が来るように言ったけど鈴音にその言い方はないんじゃないか?」


「……すまん椎名。桐生にムカついてつい八つ当たりした」


「灰村、お前!」


さっさと行けば良いのに、さっきから人の飯の邪魔しやがって……


「すまんが桐生、親父の教えでな。『礼には礼を、無礼には無礼を、鉛玉には鉛玉を尽くせ』って言われてるんだ」


「この、ヤクザの子のくせに……」


「聞こえてんぞ。ヤクザかは、俺も知らんけどな」


椎名に聞こえないようにボソリと呟いたつもりだろうが、俺には聞こえていた


本当、俺の親父って何やってるんだろうな


子供の頃に仕事の事を訊いても教えてはくれなかったし、たまに家に来る親父の部下という人達は親父の事を(かしら)と呼んでるし、先祖代々受け継がれているって言われている家は普通に公家が住んでたような屋敷だし


ただ親父は仕事については「詳しくは言えないが、恨まれもするがそれ以上に人に感謝される仕事だ」と言っていた


嘘をつくような真似は出来ない不器用な親父だし俺は信じるが、前に三者面談とかで学校に来た強面な親父の姿を見て俺の家の様子を見て、周囲には桐生が言ったようにヤクザの息子というのが俺の評価だ


それも俺の友達が少ない要因ではあるんだがね、そんな噂程度のことで勝手に決めつけるような人間ならどうでもいい


こうして俺と付き合ってくれる連中がいるなら、数なんて問題じゃないさ


尤もコイツは父親が検事というのもあって正義感が強いんだろう、確たる証拠も無しに先入観のみで決めつけるなんて、冤罪がなくならない訳だと思うが


「行こう鈴音、やっぱりこんな奴のところに居るべきじゃない!」


「ちょっと正義!?えっと、ごめんね、灰村くん」


我慢できないといった様子で桐生が椎名の手を取って引っ張っていった


椎名は謝ってるが、別に椎名が謝る事じゃないだろう


「センパイ、相変わらず容赦ないッスね!センパイのそんなとこウチは好きッスよ!」


「先に喧嘩売ってきたのは向こうだしな、買ってやっただけだ」


「普通はあんな相手に売られた喧嘩を買ったりしないッスよ」


確かにスクールカースト上位に、底辺の俺が逆らうとか普通は考えられないだろうな


ただ、そんな事は瑠璃に味方した転がら慣れっこだし、連中はヤクザの噂を信じてか俺達に手出ししてくる事はない


せいぜいが無視したりするくらいで、下手に手出しして何かの拍子に露見した後が怖いとか考えてるんだろう、主にヤクザ的な報復が


さてと、煩い奴も居なくなって悪かった気分も多少はマシになってきたし、ようやく昼飯にありつける


「キャアァッ!?」

「じ、地震だあッ!?」


クソッ、自然まで俺の昼飯の邪魔をするのか!


とはいえ教室が揺れているのはどうする事も出来ない、地震慣れしている日本人からしても物に掴まらなければならない程に強い揺れなんてそうそうない


俺達は机に掴まって体を固定したが、あまりの揺れに転倒する生徒も出ている


頭上に落下してくるような物がない事を確認し、他にも危険がないか周囲を見渡す


「何だ、あの光……」


誰かがポツリと呟いた言葉の通り、揺れが次第に強くなっていくに連れて教室の周囲が光始め、次の瞬間には一段と強い光を放ち俺達の視界を白く染めた

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