表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/72

プロローグ 3

改めて俺の名前は灰村奏多(はいむら かなた)、全校生徒600名程の私立高校に通う高校生で歳は16歳、先月二年生に上がったばかりだ


身長は170センチ弱、染めたりしている訳でもないので黒髪黒目で、体型は中肉中背、そして悲しい事に顔は別段整っていたりする訳ではなく平凡で、正直に言うと特徴があまりない


今は西暦2034年の五月、ゴールデンウィークも終わって二週間経った後の月曜日になる


特技はゲーム、それも電脳空間へと意識を送り込んで直接アバターを操作する完全没入型(フルダイブ)VRゲームであり、全高10メートル程のロボットを操作して戦う《アサルト・フレーム・ウォー》、通称AFWというゲームだ


今朝方世界ランキングで11位になったそのゲームは既にサービス開始から始めて三年になる、それだけのめり込んで来たという事だが、そこまでの高みに至った理由は三つだ


まずはロボット物が大好きだという事、ゲームに限らずアニメやライトノベルとジャンルを問わずロボット物であれば基本に手を出してきた


二つ目は、そんな大好きなロボットゲームでなら頂点を目指したいと思った事、これはスポーツだろうとコンクールだろうと、好きな物で一番になりたいと思うのは当然の事だろう


そして三つ目、これは二つ目の目標のついでという感じもするが、AFWの公式大会では賞金が出る事がある


世界的に大人気なゲームだけにスポンサーもかなりの数が付くらしく、地方の大会ではそこまで高くなくとも(子供からすれば十分な額ではあるのだが)世界大会ともなれば大金となる


具体的な例を挙げれば二ヶ月後にアメリカで世界大会が予定されているのだが、個人部門での優勝賞金は100万ドルだ


日本円にしておよそ1億以上という一般人ではそうそう手にすることのない大金が出るとなればやる気も出るというものだ


そしてその大会ではランキング10位までのプレイヤーをシード枠として招待しており、俺はその権利を得る為に今日、教師に怒られてでも無理をして勝ちに行ったというのが今の状況になる


まあそう簡単には優勝できるとは思ってないが、準優勝や3位以下でも結構な額の賞金が貰えるので可能性は低くはないんだけどな


俺の特異な体質というか特技については前述の通りであり、少なくとも俺が上位プレイヤーとして名を連ねる事が出来ている理由の一つでもある


さて、そんな俺の学校での立ち位置だが、基本的には端の方だろう


中心に居るような華やかさもなく、運動部に所属している訳でもなく友達は少ない、むしろ俺を含めて変わった人間が集まっている気がするが、そんな数少ない友人達の中でも例外というのは居るものだ


今まさに授業が終わり、二時限目の休み時間になったところで俺の席へとやってきた人物がまさにそれだ


「おはよう、っていうのもちょっと変だよね。でも目は覚めた、灰村くん?」


「ああ、今はばっちりだよ、椎名(しいな)


明るめの茶色の髪を背中の中程まで伸ばし、快活そうな笑顔を浮かべている彼女は椎名鈴音(しいな すずね)、同じクラスの女子生徒で男子生徒からは学年一の美少女とされている


明るく社交的で友達も多く容姿端麗、成績は学年2位で放課後はソフトテニス部に所属し県大会上位入賞は当たり前、まさに文武両道を地でいく俺とは天と地ほどの差がある完璧な人だ


何で俺に話し掛けて来るのかと言えばそれなりの理由があるのだが、その出来事は彼女のトラウマでもあるので今回は触れないでおこう


そして、その背後には俺の友人で変人その1の姿も見えるな


「瑠璃ちゃん、灰村くん起きてるよ」


「ククク、愚者の饗宴より戻ったか、復讐の凶星を真銘(まな)とする我が従僕よ」


「日本語でおk」


開口一番、訳のわからない事を口走った少女の名は瑠璃(るり)・フォンテーヌ、フランス人の父と日本人の母を持つハーフであり、12歳の頃にフランスから日本に越してきた帰国子女であり、俺とは中学からの腐れ縁だ


元から日本のアニメが好きで向こうでも観ており、その影響でこのような言動をとるようになっている、つまりは高校二年生になっても中二病を発症しているのだ


父親譲りの綺麗な金髪を腰の辺りまで伸ばし、それをツインテールにし、勝ち気に満ちたつぶらな瞳は綺麗な碧眼だ


肌もハーフだけあって白く、スタイルも良く端正な顔立ちはモデル顔負けだろう


ただ言動が残念なだけなのだ、あまりよく知らない相手にはこのような言動で突き放すような態度になり、中学時代は俺以外の友達もいなかった


言動さえまともなら引く手あまたなその容姿に嫉妬した女子からイジメにも遭っていたし、男子は中二病的な発言で拒絶されてからはバカにしたような態度をとっていた


俺もアニメは好きで、その嗜好が似通っていた事で偏見がなかった事が仲良くなった理由だろうな


高校も一緒に受験して無事に合格、中二病は治っていないが症状は軽くなってきたのか、ちょくちょくに素に戻るようにはなった


この学校では中学が同じだった人間は殆んどいない、俺を通じて他に友人も出来てぼっちではなくなって良かったと思う


まあ、中二病的な発言で相変わらず浮いてはいるんだが、それは俺も同じだ


「もうダメだよ、従僕なんて言葉を使ったら。灰村くんは瑠璃ちゃんの家来って訳じゃないんだからね」


「あう、ごめんなさい……」


椎名に言われて謝ったのが瑠璃の素だ


基本は素直な良い子なんだよな、人見知りなだけで


それともう一人このクラスには普段からつるんでいる奴がいる、コイツもまた特徴的な奴ではあるのだが、悪い奴ではない


「なになに、面白い話?」


噂をすれば、というやつかな


合流してきたのは焦げ茶色の髪を肩の辺りで切り揃えた少女、のように見えはするが歴とした男である四月一日 司(わたぬき つかさ)


身長は低く155センチ程度、童顔であり男としては長めの髪も相まってよく女に間違われる


それだけなら特に変わった点はないのだが、司の趣味嗜好を一言で表すなら少女趣味、いわゆる乙男(オトメン)というやつだ


ぬいぐるみやファンシーな小物など、高校生男子が普通は持たないような物を好み、カバンや筆箱を見てもそんな小物が幾つかぶら下がっている


しかもあみぐるみやアクセサリーを自作するのが趣味であり、それを気味悪がって男子からは距離を置かれている


別に趣味嗜好なんて人それぞれなんだと思うが、この学校では頭の固い連中が多いらしい、乙男なだけであって同性愛者じゃないのにな


なお、普段は女の子にしか見えないという事もあってか一部の男子に熱狂的なファンが居たりもする


また手芸部に所属しているので同じ部の女子を始めとして大抵の女子生徒からは同性の友達にしか見えない、という評価だ


「別に、いつもの瑠璃の病気が出てただけだ」


「ああ、ならいつも通りって事だね」


「おのれ、我を侮辱しおって……」


「身内しかいないんだから普通に喋れば良いだろうが。それとも《鮮血の伯爵令嬢》と書いて《ブラッディ・ラ・コンテス》と呼んだ方が良いか?」


「フッ、我が真銘を呼ぶ事はそこらの凡夫であれば赦さぬ事だが我が従僕の頼みとあれば聞かぬ訳にはいかぬな、特別に赦そう」


「あ、別に結構です」


「な、何でよ!?」


素に戻ってますよ、鮮血(ブラッディ)の伯爵令嬢(・ラ・コンテス)サマ


何故かと言われれば俺が恥ずかしいから、としか答えられない


そもそも英語とフランス語が混ざっているんだが、本人曰く日本での響きの良さを選んだ、との事だ、フランス人の血を引いててそれで良いのかとも思うが


「瑠璃ちゃん、また言った!」


「あう……」


「アハハ、二人はいつも通り過ぎるね。ところで奏多、時間は良いの?」


「時間、何のだ?」


「だって今、二時限目の休み時間だよ?」


「二時限目……あっ、しまった!?悪い、ちょっと行ってくる!」


「はいはい、転ばないように気をつけてね」


司に言われて席から立ち上がった俺は急いで廊下を走り出した


この学校の購買部では二時限目の休み時間から惣菜パンの売り出しを始める


お目当てのパンが欲しければ二時限目に出なければ残っていない、昼休みに残っているような物は比較的人気のない品物だけなのだ


既に出遅れてはいるが、まだ走れば間に合うだろう


すれ違った教師から注意はされるが止まりはしない、今日の昼飯が掛かっているからこそ俺は全力で購買部を目指したのだった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ