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プロローグ 2

画面の中では試合が始まり、二機のAFが距離を詰めて手持ち武器での射撃が行われる


まだ互いに牽制、探り合いの段階だ


装備は二機とも右手にアサルトライフル、左手に小型のシールド、右肩に実体剣、左肩にキャノン砲という、構成(アセンブル)としては標準的な物だ


全ての距離にある程度の対応が可能で、障害物も何もない今回の戦場などでは多く使われているタイプであり、俺も基本的にはこれと同じ構成の機体を使用している


遮蔽物や地形の変化がある戦場ならばそれに特化した機体を使う事もあるが、ランキングマッチの内、王座決定戦では防衛側が好きな地形を指定できる


運営の「相手の得意なフィールドで打ち破ってこそ真の強者」という非常に分かりやすい考えの基、チャンピオンが選んだのがこの地形だ


待ち伏せや狙撃といったテクニックが使えない地形で、そういった戦闘を得意とするプレイヤーからは批判的な意見もあるが、俺は正直なところこのフィールドでの戦闘には好意的な方だ


真正面からぶつかり合うしかない、地雷といったトラップ系の武器やジャミングといった妨害系の装備があまり効果を発揮しない、余計な構成をする余地のない純粋にプレイヤーの技量が勝敗を分ける戦場だからだ


だが少し試合を観ていて試合の決着を悟った俺はログアウトの準備を進める


「ん、どうしたよショーティー(チビ助)?観ねえのか?」


「いや、観るだけ多分無駄だ。今回もチャンピオンの勝ちだよ」


「ほう、理由は?」


「チャンピオンの眼だよ。つまらなそうな眼だ。本気だしてない、手加減してやってるんだと思う」


「んん?あー、確かにそんな感じだな。けどよ、それなら1位の動きを見ればいいんじゃねえか?上に上がるなら倒すべき相手だろう?」


「試合自体は公式サイトにアップされるから、後でも分かるからな。直に観る価値がないなら、俺は早めに戻るよ」


「そういえば日本だと時差でもう夜明け近くだったな。いや、学生も大変だな、ニートにでもなればずっとログインしてられるのによ」


「引きこもりになったら容赦なくネット解約されるんだよ、俺は。本当、今回はイギリス基準だから時間管理大変だったんだぜ」


このゲーム、世界ランキングでは各国にプレイヤーがいる為、ランキングマッチが開催される時刻はそれぞれプレイヤー人口の割合で周期を組んででやっている


試合開始時間は基準となった国の日曜日午後七時から、つまりイギリスが基準となった今回は日本では月曜日の朝四時にスタートとなる


さっきの試合、予定では一時間もあれば終わると踏んでいたのに二時間も掛かってしまったので、現実では朝の六時、そろそろ学校に行く為に準備も進めなければならない


アメリカ在住でまだ日曜の昼間なマックスが正直に羨ましい、日本は上位プレイヤーの人口割合が他国より低くてなかなか順番が回って来ないからな


マックスの言うようにニートにでもなれば一日中ログインしてたりランキングマッチの時間も問題ないんだが、その辺りには厳しいうちの父親のせいでネット契約を盾にとられれば何も言い返せない


アメリカ基準の時に、既に学校の時間になって不戦敗で何度ランキングを落とされた事か、会社があっても有給休暇でワンチャンある社会人が羨ましい


とはいえ、そんな理由で俺はログアウトしなければならないのだ


「ならネメシス、少し良いか?」


「ん、何だ?」


今度はテオドールか、故郷はドイツらしい、金髪碧眼の男だが普段は無口なコイツが珍しいな


「今回の決着はとても楽しかった。また、次があるなら剣で決着をつけよう」


「ああ、そうだな。次のランキングマッチ、互いに最後まで生き残れる事を祈ってるよ」


わざわざ言葉にするという事は、それほどまでに楽しかったらしいテオドールは小さく笑みを浮かべると頷いた


さてと、ログアウトの処理も終わってきたし、俺も現実に帰るか


「じゃあな、お前ら。また次の戦場で会おうぜ」


そう言って手を振り、視界が暗転していった




「うぅ……」


次に意識を取り戻した時、俺は見慣れた自分の、《ネメシス》ではなく灰村奏多(はいむら かなた)の部屋のベッドに横になっていた


ランキングマッチの為に日曜日は昼寝して備え、午前三時に起きてログイン、四時から戦闘を行っていた


学校で寝不足とかの影響を受けないようにという配慮しての行動だったんだが、二時間の戦闘という予想外の展開があったから、その計画はご破算になるな


それというのも、俺の体質が影響していて―――


「あ゛あ゛ぁ……」


―――しこうのうりょくがひどくていかしてしまうんだ……


とりあえずがっこー、がっこーにいかないとな……あは……あはは……




「……ハッ!?」


更に次に意識を取り戻した時には既に学校の自分のクラスの中で、授業の途中だった


今の無意識に出した自分の声に反応してかクラスの全員が俺に視線を向けている


今は……古典の授業らしいが、先程までの記憶はあまりない


家で朝食を食べた気はするし、登校してるという事は電車にも乗ったのだろう、その中で挨拶された気もするし、いつもの駅で降りてもいるのだろう


だが記憶はあまりない、それというのも俺の体質というか特技というか、「集中力を好きなだけ持続させる」という能力の反動だ


何故こんな事ができるのかは分からないが、俺は集中力を持続させようと思えば好きなだけ持続させる事が出来る


ただし、それが一時間程度であれば特にデメリットはない、むしろ授業は全て頭に入れる事が出来るので成績は高い方だ


だがそれ以上になるとデメリットが存在する、集中した倍の時間、思考能力が低下するのだ


友人からは「魂が抜けている状態」と呼ばれてるが概ね間違ってはいないだろう


意識がなくても登校中に横断歩道をルールを守って渡っているなどしているらしく、危険はないのが自分でも驚きだ


時計を見ると午前十時、二時間集中して午前六時から計算すれば大体いつも通りの覚醒だな


「センセー、灰村が覚醒しましたー」


「灰村、放課後職員室まで来い」


「はい……」


クラスの男子がそう古典の先生に報告し、先生も呆れた顔をしながら説教する事を告げる


それに俺が小さく返事をすると他のクラスメイト達は笑いだした


まあ、怒られるのは予想していたし、初めての事ではない


自分が悪いのは分かっている、それでもAFWをやめる事が出来ない理由があるだけに、今回は試合を手早く終わらせる事が出来なかった事が悔やまれるのだった


さてと、取り敢えずは状況の把握から始めていくとしよう

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