プロローグ
初めまして、可能な限り週一投稿を心掛けて失踪しないように気を付けたいと思います。
誤字脱字の指摘、感想等々もよろしくお願いいたします。
夕暮れに染まる荒野、時折吹く風により砂埃が舞い上がるだけで動くモノが存在しないかのように思えるその土地にも確かに動くモノは存在していた
それは二つの人影だった、双方共に手には武骨な剣を持ち、薙ぎ、突き、払う二つの影は、しかし人間ではなかった
遠目から見ればその二つの影は鎧を纏った人間に見える事だろう
しかし人がその身に鎧を纏ったところで鎧の各所から炎は噴き出さない、ましてやその炎が噴き出す度に前後左右へと加速や減速を行わない
二つの人影の背は10メートル程の高さがあり、それぞれが白と黒を基調とした鎧を身に纏っているが、当然の事ながらその巨人は生物ではない
人が生み出し、人が駆る兵器、全高約10メートルの鋼の巨人、その名をAFと言った
そして今まさに幾度となく斬り結んでいる二機のAFは互いに致命傷こそ避けてはいるが装甲の表面は無数の傷があり、今までの攻防の激しさを物語っている
その後も何度となくぶつかり合い傷付け合ったAFの戦闘は互いの実力が拮抗しており終わりがないかのように思えたが、終わりの時は唐突に訪れた
一体何度目になるのか分からない激突の後、鍔迫り合いになった際に黒い機体が剣を引き、長く続いた戦闘により疲弊した操縦士がそれに対応出来なかった事により白い機体は前方へと体を投げ出すように体勢を崩した
それまで互いに一切の隙を見せてこなかった中で唯一のミス、そしてそれを逃すまいと黒い機体も剣を突き出す
白い機体も苦し紛れに横薙ぎに剣を払うが崩れた姿勢から放たれた一撃は鈍く、身を屈ませるように突きを放った黒い機体の頭上を通り過ぎるに終わった
そして、遂には突き出された剣が白い機体の腹部を深々と貫く
装甲と剣が火花を散らし、内部に張り巡らされていたケーブルから放電が起き、僅かに残っていたバーニア用の燃料に引火し小さな爆発を起こす
それでもなお動こうと白い機体がもがくが、やがてバイザー状の頭部カメラアイから光が消え、本体も力なく崩れ落ちていく
最初はアサルトライフルやキャノンといった射撃兵装も交えての戦闘であり、バーニアも盛大に噴かして高速戦闘を行っていたのだが、それでも互いに決定打を打てないまま弾切れとなり、燃料も残り1割を切ってからは剣を持っての決着となった
そして、それと同時に空には《BATTLE ENDED》の文字が表示された
『試合終了ォ!第47回ランキングマッチ、Cグループは二時間の激闘を制し、ランキング15位の《ネメシス》選手の勝利です!』
そんなアナウンサーの声も聞こえ、俺は機体を操作してコックピットのハッチを開放、機体の外へと出ると右の拳を振り上げて沸き上がってきた気持ちのままに声を上げる
「いよっしゃあァァァァァッ!!」
ここは完全没入型VRオンラインゲーム《アサルト・フレーム・ウォー》、通称AFWの世界だ
完全没入型VRゲームとしては世界初のロボット物のオンラインゲームであり、その迫力から男性を中心に日本のみならず世界的に大人気となっているゲームであり、先ほどの戦闘はその世界ランキングの格付けの為の試合だったのだ
その後、システムにより機体ごと転送された俺は選手用の控え室に飛ばされる
そこには先程まで斬り結んでいた白い機体、《ヴァイス・フロイライン》のプレイヤー、《テオドール》を始めとして俺を含めて六名のプレイヤーが居た
最後こそ剣を使った古典的な一騎討ちのような決着になっていたが、実は最初の内は六機のAFによるバトル・ロワイアル形式だったのだ
「よう、ショーティー。なかなか面白いバトルだったじゃねえか。俺も古参の部類だが、ランキングマッチであんな決着になったバトルはそうそう無いぜ」
「チビって言うんじゃねえよマックス。というか、いつも言ってるがお前がデカ過ぎるんだ」
控え室に戻るなり声を掛けてきた大柄な黒人の男は《マクシミリアン》、マックスと呼んでいるが自分で言った通りに古参プレイヤーの一人であり、俺とフレンド登録してもいる
俺の事をショーティーと呼ぶが、俺の身長は170センチに少し届かない程度、2メートルはあるマックスがデカ過ぎるのだ
豪快で細かな事は気にしない性格で機体も高火力重装甲にも関わらず繊細な操作で重量型の機体とは思えない動きをする
正直、真正面からやりあいたくはない相手だ、味方の時は盾役として心強い限りなのだが
さっきの戦闘では序盤に火力を脅威と見られて二機掛かりで倒されていたが、それでも一機は撃破していたくらいだ
「HAHAHA!そう言うなよ。テオドールも惜しかったな。とはいえお前らがワン・ツー・フィニッシュだ。次のランキングマッチじゃあ、会えねえな」
ランキングマッチでは1位から6位、7位から12位といったように六機ごとに別れてバトル・ロワイアル形式で試合が行われる
その中で上位二名が次のランクに昇格、下位二名は降格して下のランクに、後は保留となる
俺達は13位から18位までのCグループに分類されていたんだが、今回の結果を受けて俺とテオドールはランキングが11位と12位になり、次のBグループに昇格だ
そうなると今回4着でランキング16位になったマックスとは次に戦う事はない
「また追い付いて来いよ。まあ、次も勝ってAグループに行ってるかもしれねえけどな」
目指すはトップだけどな
と、そこで控え室に設けられていたモニターから歓声が聞こえて来た
控え室に居た全員の注目がモニターに集まるが、そこには二機のAFが映し出されている
障害物も何もないが広くはあるリング状のフィールドに現れた二機の機体には見覚えがある
片方は先日Aグループで1位になったプレイヤーで操縦士用のスーツを着た金髪碧眼の男性、対するのは銀髪翠眼の、俺と同じ高校生くらいの少女だ
このゲーム、というより完全没入型VRゲームは基本的にはキャラクターの性別や体格、年齢は変えられない
顔に関しても色々とゲームで違うが、AFWでは髪色とかはともかく造形は現実のもの準拠でアニメ調にデフォルメされている
身長が違えば現実との齟齬でまともに動けなくなってしまう事もあるし、性別を変えられないのは性的な事情だ
物の質感、生物なら体温も感じられる完全没入型VRゲームでは他のプレイヤーのアバターに触れればその感触も伝わってくる
つまりは、男が女性キャラになって自分のアバターで色々する事も可能な訳だ
ただしR18指定のゲームならともかく、AFWとかは小学生でも出来るゲームだ、その辺りの配慮で性別の変更は不可能になっている
つまり、あの銀髪の少女は正真正銘、現実も女の子という事になる、しかも顔も現実準拠なのでかなりの美少女という事になる
しかし、この中の誰も彼女を侮ったりはしない、此処では強さが全てであり、その他はあまり意味を持たないという事もあるが、なによりも彼女は―――
『さあ、本日のランキングマッチも最終戦!先日ランキング1位となった《バルトロメイ》選手と、チャンピオン《イリヤ》選手の一騎討ちだァッ!』
―――去年の末に王座について以来一度として敗北をしていない絶対王者なのだから