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日間ランキングに乗ることができました。
ありがとうございます。
「終わったーー」
うっすらと額ににじんた汗をぬぐいながら達成感に満ちた声を出す。
今ようやく荷解きを終えることができた。
ダンボール4箱に詰め込まれていた洋服類を出しては、しまうを繰り返すだけで結構な運動になった。
最終的に見かねて手伝いを申して出てくれた、雅ちゃんに手伝ってもらいなんとか夕ご飯までに終わらせることができた。
そのおかげで少しだけ打ち解けることができた。
同居人との関係はまずまずの滑り出し。
「ほんとうに、たくさんあったわね。あぁもうベタベタじゃない」
「なんかごめん。手伝って貰っちゃって」
「それは別に構わないけどさ、ひかりさ片付けとか苦手なタイプでしょ? それで結構部屋汚すタイプ。当たってる?」
にやっと笑ってそんなことをいいだした。
いきなり何を言い出すかと思えば何を当たり前のことを。
男の俺的には部屋なんて足の踏み場があれば問題ないぐらいの気持ちなんだから。
どこかで聞いた話だが、部屋が綺麗な男はホモだとか言われるらしい。
それを知ってわざわざ毎日部屋をきちんと掃除しようなどと思う
分けない。
それに掃除というものはテスト勉強から逃げるための大事な武器だ。
日頃から綺麗になんてしていたら、武器が使えなくなるだろう。
というのは俺の話なんだが、今聞かれているのはひかりちゃんの部屋が汚いかどうかって話。
残念ながらその答えを俺は知らない。
アニメでは実家に帰るシーンは全100中、夏休みと正月に2回ずつの計4回。
しかも正月はこたつでまったり両親に褒めちぎられるほのぼのとした家族回。
夏休みも実家のカフェがどうしても人手が足りないって泣きつかれて帰ったぐらい。
しかもその時にはまあまあ名の知れたアイドルになっていて、むしろ混乱を引き起こして大変なことになった。
というか100話中2回しか帰ってないってひかりちゃんって意外に薄情者なのか?
とにかく、ひかりちゃんの実家の部屋のシーンは一切ない。
適当に答えて後々違ったなんてことになっても困る。
こんな細かいことでも女の子の友情ほど脆くて、儚いので壊れるかもしれない。
俺は忘れない。昨日まで仲良かった親友同士が翌日から一切口を聞かない状態になったことを。
しかもその原因が、見栄からくる小さな嘘だったことを。
「うーん……どうだろ? 友達呼べるぐらいには片付いてると思うけど、なんで?」
これはなかなかうまい返しではないだろうか?
自分的にはキレイにしているつもりだが評価はその人次第。
いまの目標はアイドルになることと、中身が男であることを気づかせないことだ。
「服の入れ方かなり迷ってたし、流行りものとか結構持ってきてたから。なんかの本で読んだけど、そういう人の特長が当てはまってたからそうなのかなぁって」
「大丈夫。寮の部屋はキレイに使うつもりだし」
「ふーん、まいいや、そろそろ夕飯の時間みたいね」
「もうそんな時間? 夕飯楽しみ〜」
もちろん本心である。
考えるまでもなくこの世界にきてはじめての食事。
女の子の身体でも当たり前に空腹感はある。
集中力が切れたせいで空腹感がとても気になってきた。
「じゃあさっそく食堂にレッツゴー」
張り切って突撃しようと踏み出した右足。
ついで左足を出したところで、制服の襟を思い切り引っ張られた。
「ぐぅぇえ。いきなりなにすんだ……のよ」
首がしまって変な声が出てしまったのと、若干痛かったので勢いのままに怒りをぶつける。
どうにも反射的に男言葉が出てきてしまう。
無理やり軌道修正したおかげでなんだかとってもオネェみたいになった。
「まさかその汗まみれのまま行くつもり? お腹減ってるのはわかるけどさ、女の子なんだ着替えぐらいしてったら?」
どうやらあまり気にしていない様子。
確かに汗くさいまま食事なんてしたらほかの人に迷惑がかかる。
それにアイドルになろうという人間が汗まみれで寮とはいえ表を歩くのはまずいな。
女の子からのアドバイスだ受け取っておいて間違いない。
ガサツと思われるのもあまり良くないし。
目指せアイドル。
「着替えか。うん、そうすることにする」
己の目標を思い出しくるっと、Uターン。
整理したばかりのクローゼットを開いて適当にTシャツをとりだす。
あとは服を脱いでこれを着れば完璧。
「まさかとは思うけどTシャツで表をうろつく気じゃないわよね?」
にゅっと俺の方から顔を出してきた雅ちゃんは手に持ったTシャツをみてそんなひどいことをいいだした。
「なにかまずいの?」
残念ながら男の俺には寮の食事のために着替える文化がないわけで、当然正しい服装なんで知らない。
「別にまずいってほどじゃないけどさ、ラフ過ぎじゃない?」
ここは安全策をとることにしよう。
どうせ、このあと風呂入ることになるんだし。
「じゃあスクールジャージにしとこ」
「ひかりってほんとに女の子?」
はぁーとため息をついて、なにやら残念なものを見るような、珍獣を見てしまったような微妙な表情をして、呆れるように突然そんなことをいいだした。
「えっ? どうして?」
なにか男だと思われるような要素があったのだろうか?
俺的はちょっとガサツな女の子ぐらいのつもりだったのだが。
やはりファッションセンスの欠片もないのはまずいのかもしれない。
改善策を聞き出す意味でも理由を聞いてみた。
「なんかひかり見てると弟を思い出すのよ。さっきも服みて時々何が違うんだかってまるでうちの弟みたいなことまでいうしさ、今だって困ったらすぐジャージ選んだりしてさ」
またまた鋭い子が出てきてしまったようだな。
それともアイドルって感が鋭くないとできない職業なのか?
今回は頭を打った後遺症だなんて理由では納得してくれそうにないな。
友情を壊しかねないけどここは嘘をついてでもごまかすしかない。
あまりリアリティのないのはたぶんすぐバレる。
「ほら、わたしってめんどくさがりだから」
考えに考えて出たのがこれって。
ひかりちゃんの脳みそはどうにも使いづらい。
失礼を承知でいえば回転が遅いきがする。
これも中身が俺である弊害だったりするのだろうか?
さてさて、こんなふざけたような言い訳で納得してもらえるのだろうか?
控えめに雅ちゃんの表情を伺うと、少し考えるような顔をしながら、顎の下に人差し指を添えていた。
しかしなにか反応を返してくれることはなく、ただ黙って熟考している。
少しずつ心拍数が上がっていくのを感じつつ、それを紛らわせるように手を握り込んだ。唾を飲み込み発言するのをただひたすらまつ。
「まぁなんとなくそんな気はしてるけど。少しは気をつけた方がいいわよ」
今の間は何だったんだよ、とツッコミを入れたくなるぐらいためにためて、ボソッと聞こえるか聞こえないかぐらいの声量でつぶやく。
どうやらただ弟を思い出しただけのようだった。
しかしだな、もっとうまく誤魔化せるすべ、というよりもう少し演技力を磨いた方がいいかもしれない。
今日あった人間はいまのところ二人だが、疑われた率は100パーセント。
このままいくといつか必ずやらかすことになる。
バレてはならない秘密を抱えながら友情を育むのはとても難しいことなのかもしれない。
「まぁいいや、早く食堂に向かいましょ?」
差し出された雅ちゃんの手を取りながらぼんやりとそんなことを思った。