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 学生寮同居人といえば、経験がないからわからないが、きっと学校生活の楽しさを左右するものだと思う。

 友達になって遊んだり、悩みを相談しあったりとか異性を連れ込んで気まずくなったりと楽しみは無限大。

 最後のは違うか。ここたぶん女子しか入れないだろうし。


 1年生同士が同室になることは決まっているわけで、つまりは中学卒業までの3年間変わることはない。

 変なのだったり、馬が合わない (女の子と馬が合うかはわからないが)と、確実に暗黒の3年間が確定してしまう。


 もはやアニメの設定という決まっていた展開はもうない状態なわけで、ここからは俺個人の運と立ち回りですべてが決まっていく。

 最低ラインは敵対しないことと、男だとバレないようにすることだ。

 欲をいえば友達くらいにはなりたい。

 それらを胸に、俺はその同居人との対面を果たすべく、ドアを開けた。


 ガチャっと、音を立てドアを開けばそこにはピンク色の可愛らしい下着姿の女の子がひとり。

 刺繍の入った妙に大人っぽい下着をまとったその女の子は、まさに今は制服を脱いでいる最中。

 片足だけスカートから出した状態で、床に下ろす直前の片足立ちの状態。

 しなやかで長い手足。腕によって寄せられた胸は深い谷間を作っている。

 同級生の中ではたぶん大きいほうに違いない。

 足元に空のダンボールが丁寧にたたまれいることから、きっと一足先に荷解きを終えて、汗でもかいたとかで、着替えようとしたのだろう。

 まさにモデル体型の女の子は芸術品のように固まったその状態から、ゆっくりとこちらに顔をあげようとしていた。


 これは、まずいと反射的にドアを閉める。

 終わったこれは殺される。

 何がまずいって男が女子中学生の着替えを堂々と目に焼き付けたんだ。

 さらに心のなかでとはいえ、若干の実況までやらかしてしまった。

 これが漫画であったならビンタぐらいで済んだに違いないが、現実でやらかせば、初対面では良くて執行猶予。悪くて実刑。たぶん死刑はないと信じたい。

 この世界の法律が日本と同じとは限らないおかげでどんどん思考がネガティブになる。

 逃げようか迷っていると、扉がひとりでに開き、中からスクールジャージに着替えた少女が出てきた。

 ジャージの色は水色で、新品特有のぱりっとした固さが残っている。

 たたんでいた線までくっきりついているし。


 「もしかしてあなたがルームメイト?」


 若干不機嫌そうに眉を釣り上げて、威圧するような声を出してはいるけど、罵倒や蔑んだ視線はなかなかやってこない。

 ……アレ? 怒られないぞ?

 数秒待っても女の子は俺の返答を待つように黙ったままだった。


 「怒らないんですか?」


 間抜けにも俺は素直に聞いてしまった。

 だって怖いじゃん。

 できれば弁明だって聞いてほしいし。


 「えっ? あー、うんちょっとびっくりしたけど、怒るほどのことでもないでしょ? 男に見られたわけじゃないし。まぁ、男だったら容赦なくグーパンチしてから通報だったわね。女子寮に侵入してそこまでやる度胸のある変態がいるとは思わないけど……」


 2度ほど頷き、彼女は爽やかな笑顔を俺に向けてきた。

 女子寮?

 はっ、そういえば俺のひかりちゃんだった。

 そうだ焦ったおかげで忘れてたけど何も問題ないじゃん。

 しかし後ろについた発言のおかげで、ここでも男だとバレるわけには行かなくなった。

 バレたら確実にグーパンチと通報に違いない。


 「そういえばあなた名前は?」


 人に名前を聞く時は自分から名乗ったらとでもアニメに則っていうところだが、覗いてしまった罪悪感から素直に名乗ることにする。


 「おっ……、じゃくてわたしは、雛星ひかりです。あなたは?」


 まだ一日も経ってない状態にしてはスムーズだったと自画自賛しながら

 ナチュラルに相手の名前も聞き出す。


 「桜花雅(おうかみやび)よろしく。ひかりって呼ぶから、私のことは雅でいいわ」


 名前を聞いてびっくり。

 まさか二人目の主要メンバーに出会うことになるとは。

 桜花雅はいわゆる主人公に対してのライバルポジション。

 超重要な役割で本来はこんなに友好的ではなく、むしろ敵愾心むき出しのキャラ。プライドが高い、秀才タイプ。

 感覚主義のひかりちゃんとはとことん反りが合わない。

 これ、もしや暗黒の3年間確定なのでは?

 いや待てよ、雅ちゃんとはまだ仲は悪くない。うまくすれば仲よくできるのでは?

 というよりそれ以外道はない。

 と、そこに雅ちゃんが手を差し出して来た。


 ここは仲良くするためにも応じておこう。

 手を握り友好の証の握手。できるだけ敵対しないでくださいと気持ちを込めて。


 「さっ、中に入ってあなたの荷物結構場所とってるから」


 「ごめんなさい急いで荷解きをしますんで」


 まずは嫌われないために高速で荷物の整理だ。


 部屋の中は先ほどの豪華なロビーから想像できないほど普通だった。

 縦長、10畳ほどの広さの部屋に勉強机が2つ。

 少しでもスペースを開けるためなのか二段ベッド。

 そして壁に埋め込まれるように備え付けられたクローゼットがこれまた2つ。片方には既に雅ちゃんの服が入っている。

 奥には大きな窓。

残念ながら二階から見える景色は鬱蒼と茂る森だけ。

 春風にわずかに木々の葉が音を鳴らす。

 夏にはセミの鳴き声に変わるかと思うと少し寝苦しそうだが、備え付けのエアコンがあるから問題はないだろう。

 ようやく視線がダンボールを捉える。

 宅配便屋さんのロゴマークの白い猫の入った両手にギリ抱えられるサイズのダンボールが、


 「さて、なんでダンボールが4つあるんだろう?」


 そう4つなのだ。

 雅ちゃんの潰されたダンボールは2つということを考えると倍。

 どんだけ荷物持ってきたんだとツッコミたくなってうっかり声に出してしまった。


 「いや、ひかりが自分で持ってきたでしょ?」


 「えっ……まぁそうなんだけど」


 独り言だったんだがしっかりと反応してくれるあたり意外と律儀な子なのかもしれない。

 違いますとは絶対言えないのでこう返したが、実際は大いに文句ありに決まっている。

 一つダンボールを開けて、げんなりとしてしまう。

 中にはたくさんの上着今風にいうとアウターなるものが入っていた。

 似たような色のものがたくさん。特に茶色系統が多いついで紺色。

 ほかのダンボールも開けるがこれまた同じようにスカートが大量に入っていた。

 こちらは色自体はバラけているものの、全部妙にひらひらしている。


 「しかしなんでこう同じようなものが入っているんだか」


 首をかしげながら、またひとつダンボールのガムテープを剥がしていく。

 ファッションというやつは全くわからないな。

 制服とTシャツ短パン。それとジーパンがあれば生きて行けたあの時代が遠い昔のようだよ。


 フード付の貫頭衣のようなものを手にとって怪訝な顔をする。

 フードにはふさふさとした毛がついていて明らかに春やこれ先の 季節である夏に着るものではいことが推測される。

 それにこれ異世界の奴隷が着せられているものに似てないか?

 もしかしてひかりちゃんって自分を虐げて喜ぶ性癖とかあるの?


 「へぇーポンチョコートなんて持ってきてるの? 絶対これからの季節使わないでしょ」


 とそこに雅ちゃんから声がかけられる。

 ん? ポンチョ? なんだその調味料みたいな間抜けな名前は?


 「あはははぁー。そうだよねぇーでも何持っていこうか迷ってちゃって」


 一応の愛想笑いと苦笑いを混ぜたような笑顔。

 とはいえこれはひかりちゃんの荷物から出てきた。

 ポンチョだかカルパッチョだか知らないが、あくまでもひかりの持ち物。イコール今は俺のものでもあるのだ。

 だから絶対強くディスるような真似はできない。

 疑われるような言動もできる限りしない。


 三つ目を開けたところで反射的に声を上げてしまいそうになってしまった。

 あぁわかっていたとも、ダンボール中に服が入っているならいつかは来ると思っていたさ。

 開いたダンボールにはコンパクトにたたまれたかなりの量の下着が詰め込まれていた。

 流石にダンボールの全部というわけではなかったが、白やピンク水色といった淡い色のブラと セットショーツがひとまとめにされて入れられていた。


 ゴクッ。

 本能的に唾を飲み込んだ。

 まさにこの光景は犯罪だろ。

絶対あかん。

 女子中学生の下着を触りまくる変態にしか見えない。

 どう言い繕っても正当化はできないだろう。

 きっとしばらくは悪夢を見るに違いない。

 しかしいつまでも放置するわけには行かないので、ひかりちゃんごめんなさいと、心で謝りながらクローゼットの下にあるタンスへと詰め込んでいく。

 意外と手触りいいんですねブラって。

 やっぱり変態の素質は充分らしい。

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